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《50代から始まる聴力低下》意外と知らない「補聴器Q&A」、“補聴器デビュー”した経験者のリアルエピソードも紹介!

補聴器をつける女性
補聴器利用者のリアルな本音とは?(写真/Getty Images)
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75才以上では約半数が「加齢性難聴」になるといわれる。放置すると人とコミュニケーションが取りづらくなって認知症やうつ病を発症しやすくなるほか、転倒の危険性も高まる。そんな聞こえにくさの問題をサポートするのが「補聴器」だが、日本人の利用率は低い。利用者にリアルな本音を聞いた。

50代以降、聴力の低下が始まる

「テレビの音が大きい」「聞き返しが増えた」などと注意されるようになったら、加齢性難聴の疑いがあると、耳鼻咽喉科専門医の市村恵一さんは言う。

「聴力の衰えは50代から始まり、75才以上では約半数が難聴になります」(市村さん・以下同)

耳から入った音は、外耳、中耳、内耳を経て脳へ伝わる。外耳や中耳で起きたトラブルが原因の難聴を「伝音難聴」、内耳にある音を感知する器官(蝸牛)や聴神経、脳の機能低下で起こる難聴を「感音難聴」といい、伝音難聴と感音難聴が合わさった症状を「混合性難聴」という。

「伝音難聴は中耳炎などが原因のため、病気を治療すれば治りますが、感音難聴と混合性難聴は加齢による有毛細胞(音の振動を電気信号に変えて脳に伝える細胞)の減少によって起こることが多く、治療による改善は不可能。補聴器によるサポートが不可欠です」

聞こえにくさを放っておくと症状が進行し、人の話が聞き取りにくくなる。その結果、会話を避けるようになって認知症やうつ症状を発症しやすくなる。危険に気づきにくく、転倒や事故のリスクも高まるのだ。

音を忘れないうちに補聴器をつけよう

加齢性難聴の患者が増える一方で、日本人の補聴器利用率は約15%と欧米諸国の約30〜55%に比べて低い。

「補聴器は使い勝手が悪くてわずらわしいもの、年寄りくさいものと思っている人が多いからでしょう」

とは認定補聴器技能者の田中智子さんだ。実際、補聴器を購入したものの、使わずにしまい込んだままだという人も多いという。

「補聴器をわずらわしく感じるのは、長い間、難聴を放置するからです。その間に、さまざまな生活音を忘れてしまいます。たとえば水の音やドアノブの音、足音などです。こうした聞こえずに忘れていた雑音が補聴器をつけるとよみがえるため、耳障りに感じてしまうのです」(田中さん)

それでも補聴器を使って「人生が変わった」という人がいるのも事実。利用者の声を聞いてみよう。

1つでも当てはまったら耳鼻咽喉科へ

・最近、聞き間違えることが増えてきた

・周囲の騒音(雑音)が気になって、肝心な話や言葉が聞き取れないことが多い

・相手に早口で話されると理解しづらい

・複数人で集まるとよく聞こえなくて会話についていけない

・以前のようにはテレビや音楽を楽しめない

・インターホンの音に気づかないことが増えた

※参考文献/市村恵一・市村順子著『耳が遠くなった? と思ったら読む本』(マガジンハウス)

1つでも当てはまったら耳鼻咽喉科へ
1つでも当てはまったら耳鼻咽喉科へ
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意外と知らない補聴器Q&A

集音器との違いは?

いずれも音を増幅して聞き取りを補助する機器。

「補聴器は医療機器ですが、集音器は音響機器。利用者の聴力に合わせるように設計されていないため、聞こえが改善されるとは限りません」(市村さん)。

補助金は出る?

補助金の有無や金額は自治体で異なる。

「市区町村は独自に補聴器の購入補助を実施していて、東京都中央区や江東区では約7万円の補助が認められています」(田中さん)。

医療費控除の対象にもなる。

両耳にするべき?

日本における補聴器の両耳装用率は約50%。片耳だけ聴力が低下する場合は片耳装用となるが、本来は両耳装用が理想。

「費用の問題で片耳にしかつけられない場合は、認定補聴器技能者に相談を」(田中さん)。

費用はどのくらい?

補聴器の値段は両耳で20万円台から100万円を超えるものまでさまざま。

「価格差は機能差ですので、どんな場面で何が聞きたいかを考え、ライフスタイルに必要な機能を持ったものを選べばよいでしょう」(市村さん)。

補聴器のデザイン性や性能は著しく進歩している。調整して慣れれば“快聴ライフ”が待っている。

習い事を楽しむため76才で補聴器を購入!Aさんの場合(仮名・81才)

・Aさん(仮名・81才)のプロフィール

娘(54才)と息子(51才)は独立。10年前に夫を亡くしてからひとり暮らし。8年前に耳鳴りが気になって耳鼻咽喉科を受診すると「加齢が原因」と言われ、難聴を意識するようになった。

71才から卓球教室とパソコン教室に通っていたのだが、レッスンに支障をきたすように
71才から卓球教室とパソコン教室に通っていたのだが、レッスンに支障をきたすように(イラスト/たばやん)
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Aさんが補聴器の装用を考えるようになったのは5年前、76才のときのこと。71才から卓球教室とパソコン教室に通っていたのだが、レッスンに支障をきたすようになったからだ。

「運動したり学んだりするなかで友達もでき、生活にもハリが出てきたのですが、次第にコーチや講師の声が聞きにくくなって…。極めつきは、コロナ禍でのマスク生活。マスク越しでは、コーチや友達の声がさらに聞こえにくく、習い事へのやる気がなくなっていきました」(Aさん・以下同)

聴力の衰えは8年ほど前から感じていて、子供たちから「テレビの音が大きすぎる」と注意を受けていたという。それで耳鼻咽喉科を受診し、どの補聴器店で購入するか情報を集めていった。

「ここぞと決めた補聴器店では認定補聴器技能者が、納得いくまで説明してくれました。2週間はお試しで使わせてもらい、聞こえやすいように微調整してから購入することに」

違和感や不快感に慣れず、挫折する人もいるが、山本さんはスムーズに購入を決められたという。

「ただ、急にいろいろな音が聞こえるようになり、その中には耳障りな音もありました。キッチンやトイレなどの水の音やビニールのこすれる音などは特に気になり、慣れるまで1か月ほどかかりました」

費用は両耳で約70万円。自治体から約6万円の補助を受けた。

「耳かけ型を選びましたが、思った以上に目立たずうれしかったです。補聴器をつけてから、習い事がもっと楽しくなり、最近ではキーボード教室にも通うように。その課題曲をスマホで聞く際、補聴器がイヤホン代わりになるのも便利です」

いまでは、補聴器のない生活は考えられないという。

私の補聴器はコレ!

メーカー/フォナック
タイプ/耳かけ型RICタイプ(充電式)
価格/両耳で約70万円

利用者の補聴器はコレ!

「耳穴型」「耳かけ型」違いは?

目立たない「耳穴型」と扱いやすい「耳かけ型」が需要の約9割に。

《耳かけ型 RICタイプ》Bluetooth機能をはじめ多機能

耳かけ型 RICタイプ
耳かけ型 RICタイプ
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「音がクリアでイヤホンのように使え、ハンズフリー通話ができるなど多機能。目立ちにくいのも魅力」(田中さん)。ただし、マスクや眼鏡をかける際、邪魔になることも。

耳かけ型 RICタイプ
耳かけ型 RICタイプ
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《耳穴型》聞こえ方が自然でオーダーメードも可

耳穴型
耳穴型
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オーダーメードならより耳にフィットして聞き取りやすい。ただし小さいので扱いにくいことも。「耳の中が湿りやすい人は故障の原因になるのですすめません」(田中さん)。

耳穴型
耳穴型
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テレビや映画、友達とのおしゃべりを楽しみたい!Bさんの場合(仮名・86才)

・Bさんプロフィール(仮名・86才)

59才と55才の2人の娘は結婚し、夫は7年前に他界。現在は愛猫と暮らしている。10年ほど前からめまいに悩まされて耳鼻咽喉科に通院。運動療法で症状は軽減されたが、今度は難聴の症状が出始めた。

テレビや映画、友達とのおしゃべりを楽しみたい
猫ちゃんの声の聞こえ方にも変化が!?(イラスト/たばやん)
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テレビや映画を見るのが大好きなBさんが補聴器を購入したのは、3年前の83才のときだった。

「テレビを見ていて、肝心のせりふが聞こえないことにイライラが募るようになったんです。特に小声でつぶやくようにせりふを言う俳優さんは何を言っているのかわからない。また週に一度、女性のためのマージャン教室に通っていて、午前中に2時間ほどゲームをした後、お友達とおしゃべりしながらランチをするのが楽しみなのですが、ゲームはもちろん、食事の際の会話が聞き取れなくなったんです。特に冗談を聞き逃すと、『もう一度言ってくれる?』などと言えません。せめてテレビの音くらい聞こえるようになればと、最初は集音器を買いました」(Bさん・以下同)

ところが、集音器は思ったより聞こえず、結局補聴器の購入を検討するようになったという。

「試用期間を経て、納得して購入しましたが、補聴器をつけた当初は違和感がありました。私の場合、風の音や食器のぶつかる音、自分の足音が耳障りで、慣れるまでに2か月ほどかかりました。

いちばん意外だったのは、うちの猫ちゃんの声。これまでは、奥ゆかしく小さな声で鳴く子だなぁと思っていたのですが、補聴器をつけて聞いたら、結構大きくて野太い声だったんですよ(笑い)」

聞こえ方は体調によっても異なり、疲れているときは、いまだに音がわずらわしく感じられる。そんなときは補聴器を外し、自宅でくつろぐなどして静かに過ごし、無理のない範囲で活用しているという。

私の補聴器はコレ!

メーカー/フォナック
タイプ/耳かけ型RICタイプ(充電式)
価格/両耳で約50万円

電池式は旅行には向かないと気づいて…Cさんの場合(仮名・71才)

・Cさんのプロフィール(仮名・71才)

夫(72才)と息子(38才)との3人暮らし。最初に聴力の低下を指摘されたのは55才で受けた人間ドック。「50代で難聴になるわけがない」と放置していたら、60代に入って急激に聴力の低下を実感。

夫に指摘されて、補聴器の購入を決意
海外の場合、聴力の落ちた耳で外国語を聞き取るのは難しく…(イラスト/たばやん)
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「ぼくが言っていること、聞こえている?」と夫に指摘されて、補聴器の購入を決意したCさん。62才のときだった。定年まで正社員として働き、ある程度の貯蓄もあったため、さほど検討せずに、約50万円の耳穴型(電池式)の補聴器を両耳購入した。

「2週間ほど試用期間があったので、相談や微調整のために補聴器店に足を運びましたが、行くたびに担当者が変わるので調整が進まず、面倒になっていきました。それで、『音は聞こえるし、これでいいかな』と妥協してしまったんです」(Cさん・以下同)

しかし、調整が不充分だったせいか雑音がひどく、使い勝手も悪かった。

「私は旅行が趣味なのですが、電池式はここぞというときに電池切れになることが多くて困りました。海外の場合、聴力の落ちた耳で外国語を聞き取るのは難しくて」

4年ほどがまんして使ったものの、近所に新しい補聴器店を見つけたのを機に、再購入を決めた。

「今度は海外でも不自由なく使えるタイプがほしいと、認定補聴器技能者と相談を重ね、充電式の耳かけ型に決めました。私はショートヘアなので、できるだけ目立たないデザインがよかった。それで耳穴型にこだわっていたのですが、いまは耳かけ型もスマートでおしゃれなデザインのものが多いことがわかりました」

微調整にも丁寧に対応してくれる専任の技能者と出会え、いまは不具合を感じないという。

補聴器は商品の質だけでなく、認定補聴器技能者選びも重要なのだ。

私の補聴器はコレ!

メーカー/フォナック
タイプ/耳かけ型RICタイプ(充電式)
価格/両耳で約100万円

予算内でニーズに合う最適な補聴器を求め5店舗を巡ったDさんの場合(仮名・72才)

・Dさんのプロフィール(仮名・72才)

夫と5年前に死別し、いまは40代の娘と2人暮らし。スポーツが趣味でジムに通っているが、5~6年前から聞こえにくくなって、友達に声をかけられても気づかず無視してしまうことが増えた。

さまざまな店で試用し、購入を決めたのは3年前
さまざまな店で試用し、購入を決めたのは3年前(イラスト/たばやん)
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補聴器デビューを考え始めたのが5年ほど前。娘との会話で聞き返すことが増えたからだというDさん。その後、さまざまな店で試用し、購入を決めたのは3年前だ。

「私の父が『補聴器はわずらわしくて嫌だ』と、せっかく買ったのに使わずにいたのを見ていたせいか、購入するまでかなり迷いました」(Dさん・以下同)

しかし、耳鼻咽喉科で加齢性難聴と診断されたうえ、スポーツジムでも、友達からの声かけに気づかず無視することが増えたため、迷っていられなくなった。

「娘は『高額でも性能のよいものを選んだ方がいい』とアドバイスしてくれましたが、私としては使ってみないとわからないので、30万円台くらいにしておこうと決めていました。予算内で自分のニーズに合ったものを選ぼうと専門店を5店舗ほど回って、さまざまなメーカーの補聴器を試しました」

試用期間は、2週間から3か月と店によって異なり、3か月試しても購入しないケースもあった。

「補聴器は、購入後もメンテナンスが必要で、聴力の変化によっては買い替えなければなりませんから、担当者が親身になってくれることが大切だと思いました」

最終的に、説明が明確で要望を理解してくれる技能者のいる専門店で、耳かけ型を購入した。

「眼鏡やマスクのかけ外しの際には注意が必要ですが、激しい運動をしても落ちないので安心して使っています。無視や聞き返しも減って会話がスムーズになりました」

複数の店舗を回るには体力が必要なので、その力があるうちに購入を考えるのがおすすめだ。

私の補聴器はコレ!

メーカー/フォナック
タイプ/耳かけ型RICタイプ(充電式)
価格/両耳で約35万円

50代で難聴になっていたが気づかず事故を起こし…Eさんの母・Fさんの場合(仮名・87才で他界)

・Eさんの母・Fさんのプロフィール(仮名・87才で他界)

夫と娘のEさん(仮名・現在55才)との3人暮らしだったFさんに聴力の低下がみられたのは50代のとき。補聴器をつけ始めたのは60代半ばで、他界するまでの約20年間、必需品だった。

50代で難聴になっていたが気づかず事故を起こし…
50代で難聴になっていたが気づかず事故を起こし…(イラスト/たばやん)
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「私の家系は、もともと耳に問題があるようで、母は30代から耳鳴りに悩み、50代には聴力の低下が始まっていました」

と、亡き母・Fさん(仮名・享年87)について語ってくれたのは、介護の仕事をする娘のEさん(仮名・55才)だ。

「母は53才のとき、スクーターで走行中、背後から来た車に気がつかず接触事故を起こしました。幸い母は軽傷、先方は車体のかすり傷ですみましたが、肝を冷やしました。母は『急に車が出てきた』と主張していましたが、クラクションが聞こえなかったのだと思います」(Eさん・以下同)

聞き間違いも増え、イライラするようになったという。

「テレビも大音量なので、指摘すると、『聞こえる人には私のつらさがわからない』と怒り出す始末」

しかし60代になると、本人も不便を感じるようになったのか、自ら補聴器を買うと言い出した。耳鼻咽喉科の医師から「感音難聴ですね」と言われたのを「かなりの難聴ですね」と聞き違えたのがきっかけになったようだ。

「補聴器をしてから母はイライラすることがなくなったように見えました。補聴器の電池交換や調整は私がサポートしていたので、それに対する感謝から親子関係もよくなりました」

現在、Eさんが勤める介護施設にも、補聴器によって表情が明るくなり、社交的になった人が大勢いるという。

「補聴器は本人だけでなく、家族にとっても救いになることがあるので、聞こえに問題がある高齢者には、できるだけ早く補聴器の装用をおすすめしたいですね」

母の補聴器はコレ!

メーカー/リオネット補聴器
タイプ/耳穴型(電池式)
価格/両耳で約30万円

◆認定補聴器技能者・田中智子さん

補聴器専門店「うぐいす補聴器」代表。ニーズに合った補聴器の普及を目指す。

◆耳鼻咽喉科専門医・市村恵一さん

補聴器適合判定医。東京みみ・はな・のど サージクリニック名誉院長。

取材・文/上村久留美 イラスト/たばやん

※女性セブン2026年4月9日号