
「最期の瞬間」を施設で迎える人は、この20年で約10倍に増えている。それだけ、高齢者施設を終の棲家とする人は増えているものの、選択を誤ることで、穏やかに安心して過ごすはずだった余生が暗転するケースも少なくない。実際に起きた失敗事例から、後悔しない高齢者ホーム選びのポイントが見えてきた。【全4回の第1回】
人生100年時代のいま、「老後」も「最期」も多様化している。老後をひとりで過ごす人も増えており、いざ支援や介護が必要になったとき、日々の暮らしを支えてくれる「高齢者ホーム」は心強い存在だ。だが選び方を間違えれば、安心して過ごせるはずの場所で心身ともに追い詰められることにもなりかねない。
N-TAKE代表取締役社長で老人ホームアドバイザーの伊藤直剛さんが言う。
「入居後に『必要なサービスが受けられない』『思っていた生活と違う』という入居前とのギャップなどさまざまな理由で、転居を希望する人が多いのが実態です。しかし、頼れる身内がいないなどの理由で、転居先探しが難航するケースも珍しくありません」
“終の棲家”として選んだ場所で、後悔はしたくない。身近に起こり得る失敗談から、判断を誤らないためのポイントを見ていこう。
追加費用がかさみ、想定外の出費に
「母が長生きしてくれてうれしいはずなのに、いつまで支払いが続くのかと考えてしまう。そんな自分が親不孝に思えてつらいです」
会社員のAさん(59才)は、87才の母親が暮らす有料老人ホームから請求がくるたび、気が重くなると打ち明ける。
「母は3年前にがんの告知を受け、年齢的にも長くはないと告げられましたが、働いている私には自宅で介護して看取る自信がなかった。施設にお願いする後ろめたさもあり、せめて住み心地のいいところへと、少し無理をして高価格帯の施設を選びました」
ところが、入居後に届いた請求書には、想定外の費用が並んでいたという。
「基本利用料だけでも高いのに、レクリエーションへの参加や買い物代行費などが、別料金で複数回請求されていたんです。
本当に必要だったのかと疑問に思っても、母は認知症になりつつあり、確認ができない。母の年金だけでは足りず、私の持ち出しもあり金銭的に厳しい状況です」(Aさん)

高齢者ホームには、民間施設と、公的な介護施設がある。前者は費用が高額な分、サービスや設備の選択肢が豊富で入居しやすい施設が多いのに対し、後者は安価で介護が受けられる半面、原則「要介護度3以上」などの条件があり、入居待ちが多いことが指摘されている。
伊藤さんは、施設探しを始める前に、希望する生活やケア、また予算を把握しておくべきだと助言する。
「予算がわからないと施設を絞れません。年金額や預貯金、加入している民間保険などをあらかじめ整理し、家族が把握できるようにしておくことが、いざというときの初動を遅らせないために大切です」
基本料金だけで比較するのは大きな落とし穴。多彩なサービスは入居者のQOLを高めてくれる一方、利益重視の施設もあり、不要なサービスを追加されて想定外の出費につながるケースもある。特に認知症の場合は、希望するサービスを施設に伝え、意思を共有しておくことが肝要だ。
介護・福祉ライターの浅井郁子さんが指摘する。
「散髪や買い物などの追加費用がかかるので、頻繁に利用すると請求書を見て驚くこともあります。どんな項目が別料金とされるのか事前に細かく確認しましょう。また、90~100才まで生きる場合を想定し、年金で足りない分を預貯金で何年補えるのかも計算すること。“なんとなく大丈夫”では危険です」
(第2回に続く)
※女性セブン2026年10月1・8日号