
腸にいいとされるヨーグルトや納豆、食物繊維などを積極的に摂り、健康長寿を目指して腸活に励んでも、「なんだかスッキリしない」と悩んでいる人は多い。その原因は腸内環境ではなく「腸の形」にあるのかもしれない。本当に腸を整える方法を教えます。
食生活に気を配って、腸を整える腸活はいまや健康のための“常識”のようになっている。しかし「腸内環境だけに不調の原因があるわけではない」と話すのは、久里浜医療センター内視鏡部長の水上健さんだ。
「腸の状態が体全体の健康を担っているのは確かです。そして、腸の健康状態の悪化を示す最大の症状は便秘です。しかし“腸にいい”といわれることを片っ端から試しても、なかなか便秘が改善しない場合は、日本人特有の『腸の形』に原因がある可能性があります」(水上さん・以下同)
腸の役割は、胃から送られた消化物から栄養や水分を吸収し、便を形成して排出することだ。小腸と大腸をまとめた腸管は、体内の免疫細胞の約70%が集中している「最大の免疫器官」だ。さらに、腸と脳は互いに影響し合い、神経、ホルモン、免疫、腸内細菌を介して健康やメンタルにかかわる「脳腸相関」にあることもわかっている。
便秘だけに着目しても、最新の研究では次のような報告がある。
【1】重度の便秘は、心筋梗塞や脳梗塞のリスクが1・23倍になり、くも膜下出血を起こす原因にもなる
【2】便秘の人は、そうでない人より死亡率が高い
【3】便秘薬を使用している人は、使用していない人より死亡率が高い
【4】週2回以上の下剤服用で大腸がんリスクが約3倍に
【5】日常的に下剤服用を続けることで腸が真っ黒になり、ポリープやがんができやすくなる
「たかが便秘」と放置するのは危険なのだ。
日本人の8割の腸はねじれている
「これまで私は、内視鏡医師として約3万人の腸を診てきました。その結果、日本人の約8割の腸があるべき形に収まっておらず、ねじれていたり、お腹の中で下がっていたりと、内視鏡を入れにくい=便秘になりやすい腸の形をしていることがわかりました。欧米人の大部分の腸は、一般的な『コの字型』をしていますから、複雑にねじれた腸の形は日本人特有といえるでしょう」
腸の形はレントゲンを撮らないと確認が難しいが、お腹の状態や便秘の傾向により、セルフチェックができる。

「特に、便秘のときに同じ場所が痛むなら、その付近の腸がねじれて便が引っかかり、詰まっている可能性が高い。腸の形は生まれつきのものなので、ねじれているから悪い、落下しているから病気になるというものではありません。人の顔や体形が違うように、腸の形も個性のひとつです」
ねじれ方も人それぞれだが、A横行結腸と下行結腸の曲がり角部分、B下行結腸がたわんで曲がったり、ねじれている、C通常は時計回りのらせん形をしているのに、反時計回りになっているS状結腸、の3か所がねじれやすく、便がたまりやすいポイントだ。

「私自身もかつて2kgもの便をため込んでいたことがあります。腸のねじれを解消して便秘が改善すると、便器が詰まるのではと不安になるほど排便できました。患者さんの中には4kg程度たまっている人もいますが、多くが解消しています」
力を入れずに指先で腸をゆらす
日頃から運動している人は便秘になりにくい傾向があり、「運動すると便が出やすくなる」、「運動量が減ると便秘になりやすい」という人は多い。
「腸のねじれた部分がゆるみ、便がスムーズに排出に向かうからと考えられます。ラジオ体操やストレッチも効果はありますが、継続することが重要です。ただ、張り切って運動を始めたものの、急に体を動かしたことでひざや腰を痛めて、しばらく運動ができなくなって便秘に逆戻り、というかたも。体の状態にかかわらず腸に刺激を与える方法として考案したのが、『腸ゆらしマッサージ』です」
このマッサージは、内視鏡検査の際、「ねじれ腸」や「落下腸」の人に、自分でお腹を押して腸の形を整えてもらうと、ねじれた部分がゆるみ、内視鏡が奥まで入れやすくなったことがヒントになっているという。
「腸をもんだり、強く押したりするのではなく、運動をしたときに腸がゆれるのと同じように、大腸をゆらすことができます」
お腹に余分な力が入らないよう、起床後に布団の中でリラックスした状態で行うのがおすすめだ。
「指先でトントンとお腹を刺激し、軽くゆらゆらと腸がゆれればOKです。その後、朝食をとれば、スムーズな排便につながります」
上体ひねりや腰回しも効果的
腸をゆらすといっても、 左上腹部(肋骨のすぐ下、脾臓の近く)にある横行結腸と下行結腸の“曲がり角”は、肋骨で覆われているため、指で直接ゆらすことができない。
「体をひねることで、肋骨の内側にある腸をゆらすことができるので、曲がり角もゆるめられます。
このほかお腹をまわすことも、腸ゆらしにつながります。私は運動不足になると便秘になったり、お腹が痛くなるので、毎日ラジオ体操を行うことで便秘改善効果を得ています。ラジオ体操をする時間がない人には、元新体操日本代表選手で東京女子体育大学教授の秋山エリカさん考案の腸ゆらし体操をおすすめします。
背筋をすっと伸ばし、体をひねり、お腹をゆらすことができます。3分程度なので続けやすいですよ」
立って行うのはもちろん、椅子に座ったままでもOKだ。
便秘は体からの「運動不足」のメッセージ
「便秘になると気分が晴れず、体を動かすのも面倒になります。でも、『運動不足』に気づかせるための体からのサインと思えば、運動を始めるきっかけにできます。とはいえ、必ずしも毎日排便しないといけないわけではありません。週に3回程度、または自分なりのペースでスッキリ感があれば便秘ではありません」
何日も出ない、お腹が張るなど不快な症状を感じたら、腸をゆらそう。
《STEP1》起床後に行う、腸ゆらしマッサージ
基本姿勢:仰向けに寝て、ひざを立てる

お腹に力が入ると腸がゆれにくくなるため、リラックスできる姿勢で行う。朝、布団から起き上がる前に行うのがおすすめ。お尻の下にクッションやたたんだバスタオルなどを置くと腰痛予防になるとともに、マッサージ効果もアップする。
※お腹の中でドクドクと拍動(脈拍)を感じる場所は、太い動脈が通っているためマッサージはしないこと。力加減は、指先がお腹に少し沈むくらいで充分。

【1】下行結腸の詰まりを解消する「左腹部トントンマッサージ」
手の置き方:左の腹部に両手を当てる

おへその左下付近に右手の親指以外の4本の指を置き、わき腹には左手の4本の指を置く。指はしっかり伸ばすこと。左右交互にトントンと小刻みに押し、左のわき腹を上下に通っている下行結腸をゆらす。肋骨の下から少しずつ下がっていき、指先が骨盤に当たったら、上に向かってゆらしていく。1分間繰り返す。

【2】S状結腸の流れをよくする「下腹部トントンマッサージ」
手の置き方:おへそのやや下側を覆うように両手を当てる

親指を除く4本の指を伸ばしたまま、S状結腸をはさむように両手を当てる。左右の手の間は10cmほどあける。左右の手で交互にトントンと刺激しながら、恥骨の上からおへそのあたりまでの範囲を上下に手を動かし、リズミカルに押す。腸をゆらすようなイメージで1分間行う。

【3】落ちた腸全体を持ち上げる「腸持ち上げマッサージ」
手の置き方:恥骨の少し上に両手を当てる
両手の親指以外の4本の指をそろえて、指先だけを恥骨の少し上に当てる。落ちている横行結腸をゆさゆさ押し上げるイメージで、おへそ付近までリズミカルに1分間ゆらす。腸をつかむというより、お腹が少し凹むくらいの強さでゆらゆらと動かす。


【4】横行結腸から下行結腸の曲がり角をゆらす「上体ひねりマッサージ」
基本姿勢:両足を肩幅に開いて立ち、両腕を広げる
背すじを伸ばし、両腕を伸ばして広げ、上半身を左右に大きくひねる。


余計な力が入ると大腸を効率よくゆらすことができないので、リラックスして腕がブランブランとゆれるように行う。

正面から体をひねるタイミングで息を吐く。約1分間、左右に20回程度、繰り返しひねる。

《STEP2》全身運動でお腹に刺激を与える腸ゆらし体操
腰をまわすエクササイズは、腸を動かすだけでなく、骨盤まわりのインナーマッスルが鍛えられ、ゆがんだ骨盤を正しい位置に戻す効果も期待できる。
腸のねじれをほぐすとともに内臓の位置も安定し、ぽっこりお腹の解消にもつながる。
【1】骨盤が整い、美姿勢にもなる「腰まわしエクササイズ」



【2】お腹を引き締め、くびれもつくる「ひじ×ひざクロスタッチエクササイズ」
左ひじと右ひざ、右ひじと左ひざというように、体をひねって近づけるエクササイズは、片足立ちになるため、体幹も鍛えられ、くびれづくりにも効果がある。体が前かがみにならないように注意し、しっかり体をひねること。
※片足立ちが難しい場合は無理をせず、椅子に座った状態で行ってもOK。



【3】スムーズな排便をサポートする「骨盤底筋の体操」
骨盤底筋群は排便や排尿に大きく影響している筋肉。筋力低下により骨盤底筋がゆるむと、便を押し出す力が弱まり、残便感や便秘の原因になる。
締める、ゆるめる動作を繰り返すことで骨盤底筋を鍛え、過度に力まなくても自然に排便できるようにしよう。

【1】椅子に座り、足を軽く開く。
【2】排便や排尿をがまんするようなイメージで肛門や腟に5〜15秒、力を入れ続ける。
【3】力を抜き、30秒ほどリラックスしたら【2】に戻り、2〜3回繰り返す。
日常生活の中でもひねり運動
ウオーキングの健康効果はよく知られているが、ただまっすぐ歩くだけでは腸を充分にゆらすことができない。「ねじれ腸」による便秘の改善を目指す場合は、上半身をひねりながら歩くこと。腸をゆらす刺激が加わり、効果が期待できる。

「とにかく、いろいろな場面で体をひねるようにしましょう。湯船の中での『腸ゆらしタイム』もおすすめです。体が温まってリラックスした状態で『腸ゆらしマッサージ』を行った後、紹介した体をひねるエクササイズを行えば、腸の動きが活発になり、便通が促進されます」(水上さん)

◆教えてくれた人:久里浜医療センター内視鏡部長・水上健さん
便秘・IBSの第一人者として、多くの患者の診療にあたる。著書に『快腸大全 便秘外来医が3万人を診てわかった腸の新常識』(KADOKAWA)がある。
取材・文/山下和恵
※女性セブン2026年10月29・11月5日号