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《飼い主に緊急事態が起きた時に愛するペットを守る12の方法》緊急連絡先、エンディングノート、ペット信託、遺言…大切な「わが子」のために準備すべきこと

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《飼い主に緊急事態が起きた時に愛するペットを守る12の方法》とは?(写真/PIXTA)
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急速に高齢化が進む中、警察庁の推計では年間約6万8000人の高齢者が、独居状態で死亡しているという(※警察庁による2024年「死体取扱状況」より推計)。なかにはペットとともに遺体で発見されることもある。不慮の事故や病気で緊急入院するなど、ペットが置き去りにされるケースも少なくない。自分がいなくてもかわいいペットが困らないために、大切な家族のために何をすればいいのか? すぐにでも、準備すべきこととは。

CAP 2024年の東京都健康長寿医療センターの研究では、高齢者がペットを飼うことで認知症の発症率が低下することがわかっている
2024年の東京都健康長寿医療センターの研究では、高齢者がペットを飼うことで認知症の発症率が低下することがわかっている(写真/PIXTA)
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飼い主が病気や事故などで亡くなった後に愛するペットが直面する悲しい現実

飼い主が病気や事故などで亡くなった後に、愛するペットが直面する悲しい現実についてペットライターの富田園子さんが説明する。

「遺族や知り合いが世話をしてくれればいいのですが、残念ながらそうとは限りません。自分にはかわいい家族でも、遺族にとっては邪魔になることがあるんです」(富田さん・以下同)

扱いに困った遺族が、ペットを保健所に持ち込むケースが後を絶たないという。

「2022年度の環境省統計資料によると、9559匹の猫と2576匹の犬が、飼い主や親族によって保健所に持ち込まれています。

収容されると、一定期間は世話をしてもらえますが、里親や引き取り手が見つからなければ殺処分される可能性があります」

しかも、人に飼われていたペットは極力引き取らない保健所もあるという。

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人に飼われていたペットは極力引き取らない保健所もあるという(写真/PIXTA)
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「これは、2011年に動物愛護管理法が改正され、『飼い主の責任として動物の終生飼養(動物の面倒を最期までみること)』という項目が盛り込まれたためです。そうなると、ペットを外に放り出す人が現れます。しかし、家で飼われていたペットは、いきなり外では生活できず、食べ物もうまく探せないためガリガリにやせ細り、最悪、命を落とすこともあります」

飼い主が事故などで意識を失った場合も、室内にいるペットの存在に誰かが気づいて救ってくれなければ孤独死してしまうこともある。愛するわが子にそんな悲しい末路を辿らせないために、できることがある。

【1】飼い始めたら“もしも”の準備を始める

自分でペットの面倒をみられなくなる日がいつ訪れるかは、誰にもわからない。

「いくら若くても、いつ何が起きるかわかりません。だからこそ、ペットを飼い始めた日から準備が必要です」と、富田さんは言う。

うさぎ
ペットを飼い始めた日から準備が必要(写真/PIXTA)
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「2024年の日本少額短期保険協会の調査によると、孤独死した人の平均年齢は約62才と、元気に動ける世代です。また、若い世代の孤独死も増えています。自分が倒れて意識がなくなった後でも、犬なら吠えることで誰かに気づいてもらえるかもしれませんが、猫はその習性でつらくてもじっとがまんする子が多いので、鳴いて気づいてもらえることは少ないでしょう」

運よく誰かに気づいてもらえても、どうにもならないケースもある。

「ペットの存在に気づいて助けたいと思っても、法律上、ペットは飼い主の所有物なので、飼い主本人の許可がないと手を出せません。このような状況を避けるために、ペットを飼うと決めたときから、自分がいなくなった後に世話をしてもらえるための仕組みを作っておくことが大事です」

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自分がいなくなった後に世話をしてもらえるための仕組みを作って(写真/PIXTA)
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【2】託せる人を探す

ペットを飼い始めた直後の人も、すでに一緒に暮らしている人も、「何かあったときに託せる人を見つけることが重要」と言うのは、獣医師の奥田順之さん。

「動物は相続財産の一部となり、基本は相続人が引き取ります。ただ、相続人の家族に動物アレルギーの人がいたり、ペット不可の住宅に住んでいる場合などは引き取るのが難しい。まず、家族や親戚の中に適任者がいないか探し、打診してみましょう」(奥田さん・以下同)

候補者が見つかったら、1対1で直接会って話すことが大切だ。

「本人だけではなく、同居者の意思や環境を確認することも必要です。親族が多い場合は、『この人に託す』と事前に決めておかないと、後で揉める原因になりかねません。もちろん、身内に託せる人がいない場合は、友人や知人、ペット仲間に相談してみるといいですね。ペット仲間の場合は、ペット同士の相性も確認しておきましょう」

託せる人には合鍵を渡す、または鍵のありかを伝えておくといい。

「飼い主が救急搬送されたときにペットを救出するためにも、託せる人が家に入れるようにしましょう」

託せる人のチェックリスト
託せる人のチェックリスト
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【3】緊急連絡カードを作る

託せる人が見つかったら、「緊急連絡カードを作り、持ち歩きましょう」と、富田さんはすすめる。

「名刺サイズのカードを用意し、表に自分とペットの名前や連絡先を。裏には、託す人の名前や自分との関係、電話番号(できれば、託す人の自宅、かかりつけ獣医師などの連絡先と携帯電話の両方を)、住所などを書きます。

託す人には自分にもしものことがあった場合、警察などから連絡が行くことを事前に伝えておきます」(富田さん)

緊急連絡カード
緊急連絡カード
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【4】エンディングノートに記す

エンディングノートにもメモを残したい。

「ペットがかかった病気やけが、好きなフードの種類やおもちゃ、苦手な食べ物、具合が悪いときのサインなど、できるだけ細かく書きましょう。そのほか、『年に一度は健康診断を受けさせたい』『死に瀕したら緩和ケア治療を受けさせて』など、希望事項を書いておきましょう」(富田さん)

エンディングノートにもメモを
エンディングノートにもメモを
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【5】「ペット後見」を検討する

身寄りがなく、託せる人がいない場合は「ペット後見」を利用することもできると、奥田さんは言う。

「ペット後見とは、病気や認知症、高齢などを理由にペットを飼えなくなったときのために、あらかじめ託す先を決め、飼育費用を残しておく制度です。

ペット後見は万が一の事態が発生した際に自宅に駆けつけ、ペットを一時保護し、その後、信頼できる新しい飼い主を見つけるか、受け入れ施設で終生飼養をして最期まで看取ります。費用はペットの種類などによって異なるので、ペット後見を請け負う団体に問い合わせを」(奥田さん)

ペット後見の一例
ペット後見の一例
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【6】ペット用の資金を確認する

ペット保険の『アニコム損保』が2023年に行った調査によると、年間飼育費の平均は、犬1匹につき約34万円、猫1匹につき約17万円かかる計算になる。

また同社の「アニコム家庭どうぶつ白書2021」によると、生涯の飼育費は、犬(平均寿命14・1才)で480万円以上、猫(同14・3才)が240万円以上と推測されている。

「これはあくまで参考値。一度、“わが子”の年間飼育費と、この先どのくらい生きるかを考えて生涯飼育費を試算してみましょう。高齢になるとペットも医療費が必要になります」(富田さん・以下同)

【7】ペットのための保険を活用する

「飼育費用を試算したところ、充分な蓄えがないという場合は、保険を活用するのも手」と言うのは、富田さんだ。

「飼い主が亡くなった、または重度の障害になった場合などに支払われる保険があります。受取人は、親族以外の人や団体でも可。支払われた保険金はペットの飼育費にあてられます」

保険の中には飼い主が入院したときに、飼い主へ入院給付金を支払うものもある。ネットで「ペット 飼い主 入院保障」などで検索してみよう。

ペットに役立つ保険の一例
ペットに役立つ保険の一例
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【8】遺言やペット信託を結ぶ

「自分の死後、飼育してくれる人や団体に遺産を渡す場合、遺言書が必要です。遺言書を残した上でさらに役立つのが、『ペット信託』です」

ペット信託とは、自分に万が一のことがあった際に、信頼できる人や団体に飼育のための財産を託す契約を結ぶ制度のことだ。

「委託された財産は、飼育以外には使うことができません。心配な場合は、財産管理と飼育を見守る『信託管理人』を置くこともできます。

信託管理人は、弁護士や行政書士が担うことが多いのですが、彼らへの報酬も別途必要となります」

ペット信託の仕組み
ペット信託の仕組み
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【9】ペット可の高齢者施設を探す

「ペットと一緒に入居できる高齢者施設は、全国にあります」と富田さんは言う。

「ネットで検索したり、利用予定の候補施設があるなら問い合わせてみて。気になる施設は実際に見学してストレスのない環境かどうかを確認しましょう」

ペット可の施設は、民間の場合、入居費用が高額なケースも。

「ペットと一緒に入居可能な施設でも、飼い主が亡くなった後は遺族に返されます。そうなってから遺族が困らないように、これまで見てきたさまざまな準備を怠らないことが大切です」

【10】老犬・老猫ホームを探す

老犬・老猫ホームというと、高齢の犬や猫が対象のようだが、「実は多くの施設が全年齢のペットを受け入れています」と、東京ペットホーム代表の渡部帝さんは言う。

「高齢の飼い主などから『飼育が困難になった』と相談を受けて、必要に応じて預かり、飼育をします。

一生、飼育をすることも一時的に預かることも可能。会いたくなったらいつでも会えます」(渡部さん)

費用は施設やペットの種類、年齢、介護度により異なるが、年間100万円程度になる。

介護が必要なペットは、専門知識を持ったスタッフが世話をする(写真提供/東京ペットホーム)
介護が必要なペットは、専門知識を持ったスタッフが世話をする(写真提供/東京ペットホーム)
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【11】自分の見守り先も考えておく

「大事なペットを守るために、自分が倒れたときに気づいてもらえる『見守りサービス』の利用をふだんから考えるべき」と、富田さんは話す。

「民間の総合警備会社の中には、室内にセンサーなどを設置し、一定期間動きがなければ異常と判断して駆けつけてくれるところもあります。

また、多くの自治体は高齢者の見守りサービスを実施しており、なかには費用の助成を行うところもあります。自治体窓口に問い合わせてみましょう」

【12】災害時の準備をしておく

ペットを「ひとりぼっち」にするリスクは、病気や死別だけではない。地震や浸水など災害時にペットが家に取り残されるケースも少なくない。愛犬家で知られる歌手の伍代夏子(63才)は、家が罹災し、避難所に行かなければいけないなどの事態に備え、自分自身の防災グッズと同様、愛犬の備えも欠かさないという。

「ウチの玄関には避難用のリュックが4つ並んでいるんです。主人(歌手の杉良太郎・80才)と私、カニンヘンダックスフンドの陸と空のものです。犬たちの分も最低3日分の食料と水を準備しています」(伍代・以下同)

伍代は、災害時に人とペットが同じ場所へ避難できる環境の実現を目指して、2023年より「りく・なつ同室避難推進プロジェクト」を立ち上げて、活動に励んでおり、防災グッズも同室避難を見据えている。そのひとつが、混合ワクチンや狂犬病予防接種証明書のコピー類が入った“陸くん&空くん用財布”だ。

「名前や犬種、生年月日からマイクロチップID、鑑札登録番号、抗体検査日などをすべてまとめた『ペット防災プロフィール』です。一括管理しておけば、避難所でペットの登録をするときに役立ちます」

「りく・なつ同室避難推進プロジェクト」アンバサダー・伍代夏子(63才)
「りく・なつ同室避難推進プロジェクト」アンバサダー・伍代夏子(63才)(写真提供/「りく・なつ同室避難推進プロジェクト」)
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これらはペットが行方不明になってしまった際に必要な情報だ。

「捜索は時間との勝負。写真入りのプロフィールがあれば、すみやかに周囲と情報共有できます。万が一に備えて、ペットの画像はスマホに保存しておきましょう。最近は飼い主情報などにアクセスできるQRコードが付いた迷子札もあって、陸や空にも付ける予定です」

そうはいっても現状ではまだまだペットの受け入れがない避難所は多く、自分がけがをしてしまえば一緒に避難できない場合もある。飼い主としてペットの預け先を確保することも考えておくべきだろう。

「親戚やかかりつけの動物病院の先生など、ペットになじみのある場所に相談して決めておくことをおすすめします。私が頼りにしているのは、犬のママ友サークル『犬バカ倶楽部』の仲間。ワンちゃん同士も仲よしで、預かり合いを通じてそれぞれの家にも慣れています。飼い主と離れて知らないところに預けられたら、ペットも不安です。『ママと一緒じゃなくても楽しい』とストレスなくお泊まりできる環境を備えておけるといいですね」

“ペットのママ友との親戚づきあい”も防災のひとつだと、伍代は語る。

「災害対策の基本は自助と共助。わが子のために持ちつ持たれつの信頼関係を築いておきましょう」

迷子になっても安心なサービスが続々!

「りく・なつ同室避難推進プロジェクト」のホームページにある「迷子保護・捜索用の画像生成ツール」を使えば、迷子の保護・捜索用のデータを作成、保存可だ。

https://www.riku-natsu.jp/maigo-hogo/

●「りく・なつ同室避難推進プロジェクト」とは

災害時に家族として迎えたペットと一緒に避難する重要性を発信し、「同室避難」実現へ向けて飼い主の意識を高める働きかけに取り組む。ホームページでは「ペット防災プロフィール」作成ツールなど、さまざまな防災情報を提供している。

ペットの詳細情報をウェブで管理できる

QRペットプロフィール」小型犬向けで4070円~/迷子のお守りshop
QRペットプロフィール」小型犬向けで4070円~/迷子のお守りshop(写真提供/迷子のお守りshop)
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ペットの詳細情報をウェブで管理。発見者がQRコードで照会できる。捜索用のチラシを無料で作成するサポートも。防水素材の首輪タイプ。「QRペットプロフィール」小型犬向けで4070円~/迷子のお守りshop

飼い主へ地図で居場所を伝える発見連絡ツール

「ミッケ calulu powered by おかえりQRペット」/calulu
「ミッケ calulu powered by おかえりQRペット」/calulu(写真提供/calulu)
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二次元コードを通じて飼い主へ地図で居場所を伝える発見連絡ツール。状況を画像で共有も可。首輪に装着型、サービスは1年有効(年間コスト2970円サービス料込)。「ミッケ calulu powered by おかえりQRペット」/calulu

◆ペットライター・富田園子さん

ペット関連の書籍を多数手がける。日本動物科学研究所会員。近著に『私が死んだあとも愛する猫を守る本』(日東書院本社)。

◆獣医師・奥田順之さん

獣医行動診療科認定医、犬猫の殺処分問題に取り組む「人と動物の共生センター」代表。テレビや雑誌などでも活躍。

◆「東京ペットホーム」代表・渡部帝さん

老犬・老猫などを預かり、ペットの介護などに携わる。

◆伍代夏子さん

63才。2023年には「りく・なつ同室避難推進プロジェクト」のアンバサダーに就任。音楽活動以外に旺盛な社会貢献活動を展開。

取材・文/廉屋友美乃、渡部美也

※女性セブン2025年5月1日号

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