新型コロナウイルスの感染拡大はいまだに収束の見通しは立っていない。一部の地域では緊急事態宣言が解除されたが、多くの人は不安を感じながら生活している。そんな中で、ストレスが限界に達している人が増えている。
産業医事務所セントラルメディカルサポート代表で心療内科専門医・石澤哲郎さの元には、5月にはいってから「コロナうつ」を訴える患者が急増中だという。なぜ、どのような人が「コロナうつ」になるのか。そしてその予防法、対処法にについて石澤さんに解説してもらった。
コロナうつとは?
「コロナうつ」とは、新型コロナウイルスに伴うストレスがきっかけで起こる、心の不調のこと。
「わかりやすく、ストレス耐性をコップのサイズ、ストレスをコップの中の水に置き換えて考えてみましょう。精神的な負担が増えるにつれ、コップの水位はどんどん高くなり、やがて満杯に達してしまう。そんなとき、さらに強い衝撃が加わるとコップ自体がパーンと割れてしまいます。
◆コロナ関連の新たなトレスが影響
普段から心に余裕のある人は、コロナ関連のストレスが多少加わってもコップの水位はあふれません。一方、もともと仕事や家庭などのストレスでコップの水位が高かった人が、在宅ワークを始めて家事や育児の負担が増え、さらに“私も仕事を失うのではないか”といった不安が上積みされると危険水域に達します。そこに新たなストレス要因が加わり、ついにコロナうつを発症してしまうのです」(石澤さん・以下同)
コップの水が満杯になる前に、あるいは満杯になってもコップが割れてしまわないよう、早めに症状に気づいて対処することが大切だ。
コロナうつにならないために…気をつけたい2つの初期症状
では、どんな症状が出たら要注意か。
「うつ病には、『気持ちが落ち込んでいる』、『食事がとれない』などいくつかの診断基準がありますが、中でも特に気をつけたい症状は2つあります。
1つは睡眠。通常、ストレスがかかって疲れてくると、人は眠くなり、睡眠で疲れを取ろうとします。ところがストレスが過剰にかかったり、少しうつ気味になって精神的に不安定になると、『疲れているのに眠れない』という状態になります」
◆うつ病罹患前に8~9割の人が不眠症状
実際、うつ病患者への調査では、うつ病に罹患する前に不眠症状があった人が8~9割いたというデータもあるという。自分が「コロナうつかもしれない」と思ったら、睡眠がしっかり取れているか、確認したい。
もう1つは、趣味が楽しめているかどうかという点。
「つらいことがあっても、スポーツや読書など何かしら趣味が楽しめてリラックスできればストレスは和らぎますし、その間、つらいことや不安も忘れられればコロナうつにはなりにくい。ところが、例えばお笑いの動画を見ていても頭のどこかでコロナのことを考えてしまう。その結果、本来楽しめていたことが楽しめなくなってしまう。今まで笑えていたことが笑えなくなると、要注意です」
こうした「眠れない」「何をしても楽しめない」といった初期症状は、うつ状態が進んだ抑うつ状態より早めに出るという。この時点で、手を打つことが肝要だ。
コロナうつの予防・対処法
もちろん、対処すべきは初期症状がある人に限らない。何も症状がない人でも、常に“コップの水位”を少量に保てるよう、これから紹介する方法を心掛けてほしい。
「コロナうつの原因の1つに、コロナという目に見えないものへの恐怖と不安からくるストレスがあります。これに対しては、情報に振り回されず、正しい知識を持つことです。例えば、“子供が感染したらどうしよう”という不安に対しては、小児は感染しても致死率が非常に低く症状も軽いことがわかっています。新型コロナウイルスは対処できない病気ではない。みんながこまめに手洗いをして、3密を防ぐなどしっかり予防すれば十分立ち向かえる病気だという認識を持つことが、まず不安の軽減につながります」
◆コロナのニュースから遠ざかることで予防に
その上で、不安要素となる情報をわざわざ入手しないことも大切だ。
「コロナうつになりやすい人は、その日倒産した企業のニュースなど、マイナスな情報ばかり積極的に集めて不安やストレスを上げてしまう傾向にあります。
ですが、毎日のニュースは、基本的にほぼ同じ情報しか流れていません。毎日新しい情報を入手するにしても、1日1回だけにするなど、時間を決めましょう。例えばテレビは1日1時間ニュース番組を見ればその日必要な情報は手にはいります。それ以上にコロナ関連の情報を浴びてもいい気づきは得られませんから、楽しい映画を見たり、本を読んだりして、コロナから意識を遠ざけるようにしましょう」
コロナうつ対策のカギは、「朝の過ごし方」
環境の変化でストレスが増えている人は、生活リズムが崩れていないか、見直してみよう。
「人は環境の変化に弱い。特に、この春から在宅ワークになって朝起きる時間が遅くなり、外に出ない分、身体的疲労も少ないため夜は眠れなくなり不眠につながります。眠りが浅くなり、疲れも十分に取れないまま、翌日は遅い時間に目覚め、どんどん生活リズムが狂っていきます。その結果、さらに体調が悪くなり、悪循環に陥ってしまうのです」
このパターンに陥っている人は、どんなに夜眠れなくても、翌日から朝は必ず起きるようにしたい。
◆朝、早めに起きることでセロトニンを分泌
「私は、コロナうつに限らず、うつ病の患者さんには“朝の光をしっかり浴びてください”とお話ししています。うつ病の患者さんほど、朝は、“幸せホルモン”と呼ばれるセロトニンの分泌量が少なく、気持ちが憂うつになって活動できない傾向にあります。朝は早めに起きて、ベランダに出て、朝の光を浴びることで、セロトニンの量を増やしてほしい。そうすると、体内のホルモンバランスがリセットされて、うつになりづらい体を作ることができます」
朝起きてもなかなか覚醒できなければ、思い切って早朝の散歩に出るのもいい。
「これは、朝日を浴びられるだけでなく、運動効果で心身の調子がよくなるメリットもあります。実際、体を動かす時間が少ない人はうつになりやすいというデータもあります。心と体は双方向に作用していて、体が凝り固まってしまうと心もリラックスできなくなりますし、スポーツをしているとその間は他のことを忘れやすくなるからです。人混みを避け、手洗いを行い、マスクをつけるなどしっかりと対策を行った上で、人の少ない時間帯にランニングやウォーキングに行く。この習慣をぜひ生活の一部に取り入れてほしい」
折しも、今は新緑のまばゆい季節。この緑の色自体がリラックス効果を生むといわれている。
そして朝食をしっかり食べ、間食や“ダラダラ食い”を控える。体内リズムを規則正しく保つことが、心身の健康には欠かせない。
「家でも化粧して小ぎれいな格好」も予防に
また、自宅で過ごすからと、メイクをせず1日パジャマで過ごすのも避けたい。
「自分を尊敬する気持ちを意味する『セルフエスティーム』という言葉がありますが、お化粧をせずだらしない格好をしている自分を毎日のように鏡で見ていると、それだけでセルフエスティームが下がってしまうきっかけになります。たとえ誰とも会う予定がなくても、お化粧をする、自分が好きな服を着る、普段つけられないような装飾品をつける。それだけで心が弾んでゆくはず」
◆Zoomでオンライン飲みや雑談
それでも面倒に感じるなら、身ぎれいにするきっかけを作ってはどうか。友人とZoomなどのアプリを通じて、オンライン飲みや雑談をするのもおすすめだという。
1日20分は、同居家族以外の人と雑談を
石澤さんは、雑談の重要性をこう強調する。
「普段は仕事の合間に、周りの人と雑談を通じてコミュニケーションを取っていたのが、最近それが減っている。人は、自分の気持ちを吐き出すことで気持ちが軽くなることもあります。“相手に迷惑では”と考えてしまいがちですが、実は相手も同じように話し相手を求めているかもしれません。特に、子供を見守りながらの在宅ワークをしている人は、同じ立場の友達も、同じようにストレスを抱えている可能性が高い。互いに愚痴を言うだけでもいいし、工夫を話し合うのでもいい。とりとめのない話を1日1回、20分だけするだけでも気持ちは大きく変わってきます。友人に声をかけづらければ、実家の家族でもいいでしょう」
◆夜はダラダラと仕事をしない
LINEなどで文字やスタンプだけのやりとりをするのもいいが、画面越しでも相手の笑顔を見ると気持ちがほぐれることもある。「ビデオ動画だと部屋の背景が映るのが困る」という人は、Zoomの場合、壁紙をダウンロードして背景に設定することで部屋は隠せる。
夜は遅くまでだらだらと仕事を続けず、友人や離れて暮らす家族の笑顔を見て笑い合ってから、早々に眠りにつく。そうすると、翌朝すっきりと朝を迎えられるだろう。こうした1日1日の積み重ねが、コロナうつの予防になるのだ。
「今申し上げた予防や解消法のうち、どれかができなくても、他のどれかはできるかもしれません。減らせるストレスから徐々に減らし、“コップの水量”を下げていってほしい」
コロナうつチェックリスト
最後に、コロナうつを見極めるチェックリストを作成したので参考にしてほしい。1週間以上あてはまる項目が、1つでもあったら要注意。今すぐ生活を見直そう。
□普段からストレスが多い
□最近、疲れているのに寝つきが悪い
□以前は楽しめていたことが楽しめない
□新型コロナのニュースを見ると極端に不安になる
□在宅ワークになり、朝起きられなくなった
□同居家族以外の人と雑談していない
□以前と運動量は変わらないのに、食欲が落ちてきた
□イライラして怒りっぽくなった
□1日中漠然とした不安を感じている
□人と話すのがつらい
□悪い考えばかり思い浮かんでしまう
□なぜか疲れがたまっている
□飲酒やタバコの量が増えた
この人に聞きました:石澤哲郎さん
産業医事務所セントラルメディカルサポートの代表、ワーカーズクリニック銀座院長。心療内科専門医として、契約企業の従業員に対し、メンタルヘルス対策やストレスチェック対応などのメンタルのサポートを行う。
取材・文/桜田容子
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