「やせれば健康になれる」と思いがちだが、実はやせていても長生きできないかもしれない。やせている高齢者ほど、生存率が低く、要介護になるリスクが高いという研究結果もあるほどだ。では、年を重ねても健康をキープするためにはどのようにしたらいいのだろうか。専門家に解説とアドバイスをもらった。
60代以上はダイエットが要介護リスクに
新たに就任した菅義偉首相(71才)は、60代のとき、わずか4か月で14kgものダイエットに成功した。人間ドックで医師から「肥満」と診断され、中性脂肪値やコレステロール値が高く、脂質異常症やメタボリックシンドロームの恐れもあると指摘されたことがきっかけだ。
菅首相はダイエットによって健康体となったが、60才を過ぎてからのダイエットは細心の注意が必要となる。医療ジャーナリストの増田美加さんが言う。
「60代以上になると、ダイエットによって骨格筋量が減少して身体機能が低下する『サルコペニア』という状態を起こしやすくなる。それにより心身の能力が低下してフレイル(衰弱)状態になると、将来的に寝たきりになることも考えられます」
高齢になるほど、ダイエットは要介護になるリスクを高めるということだ。高齢者を追跡調査したデータもそれを裏づけている。
◆高齢者はやせている人の方が生存率が低いというデータ
東京都健康長寿医療センターが高齢者約1000人を8年間追跡した結果(2013年)によると、普通体形の人や太った人よりも、BMI20以下の「やせている人」の方が、生存率が低いという結果がわかっている。
「健康な生活をしている人でも、70才以上の高齢者になると50代と比べて食べる量が約15%減少します。つまり、高齢になるほど太る方が難しいのです。やせることは感染症への抵抗力も低下させます。
さらに、若いときに過度なダイエットを繰り返していた人は閉経後に骨粗しょう症になるリスクが非常に高い。若いときのツケが更年期にまわってくるのです。骨粗しょう症は若い人でもなる可能性があるので、ダイエットのリスクを軽視してはいけません」(増田さん)
太れば長生きできるのか?
●『OECD諸国の肥満比率の各国比較』(2013年までの最近年)
日本人の女性は、世界でも「やせ信仰」が強いといわれ、先進国で組織されるOECD加盟国の中でも、日本は最も肥満率が低く、肥満人口の比率は米国の35.3%に対し、日本はわずか3.7%しかいない。
◆高齢者こそたんぱく質を積極的に摂取を
では、やせすぎの人は高齢期に向けて太れば長生きできるということだろうか。
名古屋市立大学肥満症治療センター副センター長で肥満症専門医の田中智洋さんが話す。
「高齢になると特にやせている人の方が死亡率が上がります。しかし体脂肪を増やして太ればいいという話ではありません。あくまでも筋肉量を下げないことが健康に長生きするために必要なのです。筋肉を維持するために、高齢者こそたんぱく質を積極的に摂取して運動することが重要。ささみや赤身肉、コンビニのサラダチキンなどもいいでしょう」
病的なやせ方はデメリットが多い
加齢による筋肉量の低下以外で急激にやせ始めた場合は、病的なやせ方である「るい痩」という症状が危惧される。脂肪が減少するため骨が突出して床ずれを起こしやすくなったり、皮膚が弾力を失って硬くなる、髪の毛がパサつき抜け毛が増えるといった症状が起きる。
「やせの原因はさまざまですが、摂食障害、消化吸収や代謝の障害などが考えられます。るい痩の判断基準は、6か月以内に10%以上の体重減少がある場合などを指します。BMIが18.5を下回る場合も『低体重』と判定され、肥満同様、健康的には推奨されない状態です」(増田さん)
やせ願望が強い日本女性は、高齢になってもその意識を持ち続ける人が多いという。
◆年齢に合わせて意識を変化させる
これからは年齢に合わせた意識改革が必要だと増田さんは続ける。
「40~50代の中年期の肥満は死亡率に直結するため、お腹回りにつく内臓脂肪に注意し、やせる努力も必要です。その後、60代以上の高齢期に差しかかったら、やせないことが大事。70代になってから、やせているのにお腹がポッコリ出ていることを気にする人がいますが、高齢期はお腹が出ていることばかりを気にする必要はありません」
●高齢になるほどBMIが高い方が死亡率は下がる
コツは、20才の頃の体形や体重からできるだけ逸脱しないこと。簡単ではないが、食事と運動をコントロールし、太ってもやせても慌てずに対処できる“腹が据わった生き方”を目指したい。
※女性セブン2020年10月22日号
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