痩せたい。どうしてもこのたっぷりの腹肉を消し去りたい。そんなときに必ず思い出すのは、過去の栄光。私だってね。40半ばで72kgから63kgまで痩せたんだから。
「痩せたね~。どうしたの?」「エーッ、前の体形が思い出せない! 元からスタイルのいい人だった、よね?」「…誰かわからなかった!」
会う人、会う人が目を丸くして、私の体を下から上、上から下へと、ねめ回すように見るの。中でもうれしかったのは、ちびデブの茨城の母親が私を見上げて言った一言よ。
「なんだか背が高くなったみてぇ」
ライター稼業がヒマになって、ビジネスホテルのベッドメイクのバイトを始めたのよ。ベッドメイクと聞いて「シーツの交換?」と思った私がバカだった。用具を持って、「よーい、スタート」。ベッドを整えたら、お風呂の壁から湯船、鏡に熱湯をかけ、洗剤で丸洗いをした後、客の使ったシーツやバスタオルで拭き上げるの。それを2時間半で13部屋できたら一人前。
息をつくヒマもなく、体を動かし続けるアスリートよ。
私らバイトを管理する主任が言ったもんね。ある時、私が10日休みたいと申し出たら、「あ~あ、また体作るまで時間かかるな」と。
仕事が終わって、仲間とファミレスに行くのが楽しみだったんだけど、いったん椅子に座ると立ち上がれないの。同じ世代の女3人で、「コーヒー、飲みたいよね」「飲みたいね」と言いながら顔を見合わせて、「じゃ」と誰かが立ち上がるのを待っている。
ここまで疲れると、食欲もなくなるんだよ。いちばん先に食べたくなくなったのは、グラタンとか、焼肉とか、カレーとかの脂っこいもの。食べたいのはおにぎりやあんパン。家に帰ったらとりあえず寝ていたっけ。