暑い夏から涼しい秋になると、気分が落ち込みやすくなったり、体がだるくなって疲れが溜まりやすくなることはありませんか? それは季節性のうつ病である、いわゆる「秋うつ」かもしれません。
精神科医の片田珠美さんによれば、コロナ禍でうつ病に悩まされる人は増えているそうです。片田さんに原因と対策を聞きました。
秋うつの原因と、うつになりやすい人の傾向
「季節の変わり目はうつになりやすいと昔から言われています。 “秋の日は釣瓶(つるべ)落とし”というように、秋になって気温が下がって涼しくなり、日が早く沈むことで、もの悲しく憂鬱な気分になりがちです。秋はうつ病になりやすい季節として注意しなければなりません」(片田さん・以下同)
関係しているのは日照時間の減少です。日光を浴びると、脳内では“幸せホルモン”と呼ばれるセロトニンが生成されますが、秋になり日照時間が減り、セロトニンの生成量が減ってしまうことで、気分が落ち込み、うつ病になりやすくなるといわれています。
ほどなく症状が改善することもありますが、毎年のように繰り返し、日常生活に大きな影響が出るケースも少なくないそうです。
体もつらくなり、全身がだるく
「うつ病の症状は、気分の落ち込み、悲哀感、意欲の低下、悲観的思考、不眠、早朝覚醒などがあります。うつ病というと心の病気と思われがちですが、同時に体もつらくなり、全身がだるくなります」
片田さんは「とにかく無理をしないこと」と語ります。
「その予兆を感じたら、無理をしてはいけません。うつになりやすい人は、真面目で頑張り屋さん。周囲からよく見られたい、という欲望も人一倍強い傾向があります。ですから無理をして頑張りすぎてしまい、うつ病が悪化してしまうことがあります」
体をゆっくり休めることが、うつ病の予防になるのです。
新型コロナの影響によってうつ病に悩む人は増加
新型コロナウイルスの影響で、うつ病になる人は増えているそうです。理由は大きく2つあるといいます。
「1つはコロナによって経済的不安を抱えている人が多くなったこと。特に飲食業や観光業などがそうですね。休業や営業時間短縮が続き、物が売れず製造業まで影響は及んでいます。経済的な不安があると喪失不安が強くなります。お金がなくなるのではないかと心配になり、うつ病が重症化しやすいのです。
うつ病の症状として“貧困妄想”があります。これは、自分の家は一文無しになって破産するのではないか、家を失ってホームレスになるのではないか、と極端に心配になるものです。コロナ禍によって現実に収入が減って困窮する人が増え、解雇されてローンが払えなくなるなど、“妄想”とは言えない深刻な状況の人が増えています」
コロナが収束しない不安感
2つ目は、コロナの収束が見えない不安感です。
「昨年の初めから、ずっと自粛生活が続いています。緊急事態宣言も何度も出ている。先が見通せない不安感はうつ病を悪化させます。コロナの影響で職場から解雇され、転職がきっかけでうつ病になる人もいます。人手不足の介護業界に再就職し、慣れない仕事がうまくいかなかったことで心のバランスを崩し、うつ病になったケースもありました」
食事で「秋うつ」を予防する
では、これから秋が本格化する前に「秋うつ」を予防するにはどうしたらいいのでしょうか? 食べ物による対策を片田さんが教えてくれました。
「うつ病を防ぐには、脳内のセロトニンを増やすことが有効です。今の抗うつ薬のメインはSSRI(選択的セロトニン再取り込み阻害薬)というタイプの薬で、脳内のセロトニンを増やす薬です。セロトニンを増やすには、セロトニンの原料となるトリプトファンという必須アミノ酸を増やす必要があります。トリプトファンは体内で生成されないので、食べ物から摂取するしかありません」
トリプトファンを含む「大豆」「乳製品」を
トリプトファンを含む食材でおすすめなのが、「大豆」と「乳製品」です。
「納豆、豆腐、味噌などの大豆たんぱくは、トリプトファンの含有量が多い。乳製品に含まれるカゼインもトリプトファンを多く含んでいるので、牛乳、チーズ、ヨーグルトなどを食事に取り入れてください」
そのほか、ナッツ類もトリプトファンを含んでいます。また、ブロッコリーなどの緑黄色野菜に含まれるスルフォラファンに、うつ予防の効果があるという研究データも報告されています。
「秋うつ」を予防する生活習慣
食事だけではありません。生活習慣もうつ病対策のカギになります。
「よく知られるようになりましたが、やはり朝日を浴びることは、うつ病の予防や治療にかかせません。起きて最初に日光を浴びてから16時間ほどで眠気が来ると言われています。朝6時に日光を浴びたら、夜の22時くらいに眠たくなります。うつ病の人は睡眠のリズムがずれ、昼夜逆転しがちです。決まった時間に起きて朝日を浴びることで、睡眠のリズムを整えることは大切です。
また、日光で網膜を刺激することで、脳内でセロトニンの生成が活発になります。セロトニンを増やす意味でも、朝日を浴びることはうつ病の予防に効果的なんです」
有酸素運動でセトロニンの分泌を促進
前述のように日照時間が短くなる秋は、朝日を浴びることを余計に意識したいところ。さらに、組み合わせてほしい行動があると片田さんは続けます。
「それは散歩や体操です。体に負荷をかけない有酸素運動は、セロトニンの分泌を促進させると言われています。朝日を浴びながら20分ほど運動することで、Wの効果が得られます。無理のない範囲で、毎日続けることが重要です」
◆教えてくれたのは:精神科医・片田珠美さん
大阪大学医学部卒業。フランス政府給費留学生としてパリ第八大学でラカン派の精神分析を学ぶ。精神科医として臨床に携わり、臨床経験にもとづいて、犯罪心理や心の病の構造を分析。『子どもを攻撃せずにはいられない親』(PHP新書)、『一億総他責社会』(PHP新書)など著書多数。https://twitter.com/tamamineko
取材・文/小山内麗香