「睡眠時間は十分なのに、朝起きるのがつらい」「甘いものを食べたい気持ちをコントロールできない」そういった症状が気になったら、冬季うつを疑ってみてください。その症状や原因について、漢方にも詳しいあんしん漢方の管理栄養士・小原水月さんに教えてもらいました。また、冬季うつの症状を和らげることができるという生活習慣や食事、治療に使われている漢方薬についても紹介します。
* * *
過眠・過食の原因は冬季うつかも?
ウィンターブルーとも呼ばれる冬季うつは、秋の終わりごろから冬にかけて「悲しく憂うつな気分になる」「何に対しても心が動かない」「疲労感が強い」などの症状が出ます。一般的なうつと異なり、春が近づくと自然と症状が治まります。
冬はセロトニンが不足しやすい
冬季うつの原因の1つは、セロトニン不足だといわれています。
セロトニンとは、睡眠や体内時計の調整に関わるホルモンのメラトニンを作るのに必要な物質です。メラトニンが不足し体内時計が乱れると、気分が落ち込む、睡眠と覚醒のリズムが乱れる、食欲のコントロールが困難になるなど、冬季うつの症状につながります。
セロトニンは、日光を浴びたり、一定のテンポで繰り返し行うリズム運動をしたりすることで合成されるので、日照時間が短かったり、寒くて運動習慣が減ったりしやすい冬は不足しやすくなります。
過眠や過食は体からのSOS
一般的なうつでは不眠や食欲不振が見られますが、冬季うつでは過眠と過食の症状を訴える人が多いのも特徴です。はっきりとしたメカニズムはわかっていませんが、体内時計の乱れから夜間の睡眠の質が下がることで、その不足を補うために過眠になると考えられています。
また、過食に関しては、血糖値をコントロールするホルモンのインスリンと関係があるともされています。
インスリンは主に食後に分泌されて、血糖値が高くなり過ぎないように働きかけますが、うつになるとインスリンの効果が出にくくなることが多いのです。そこで、インスリンの分泌量を増やすための応急策として、過食が起こるとも考えられています。
冬季の過眠・過食を軽減する生活のポイント
つまり、体がセロトニンを合成できるようにすることと、体内時計を整えることが冬季うつの症状の軽減につながるということです。
積極的に太陽光を浴びる
晴れた日であれば15分程度、曇りの日でも1時間程度日光を浴びると、セロトニンの合成が促され、冬季うつの改善に効果があるといわれています。室内では、明るい光が入る東向きや南向きの窓辺で過ごすようにしましょう。
セロトニンの合成を促すためには、蛍光灯やLEDなどの人工的な照明では光の強さが不十分なので、積極的な外出をおすすめします。
生活リズムを整える
生活リズムの乱れは体内時計の乱れにつながります。そこで、生活リズムを整えるポイントとなるのが睡眠と食事です。
起床と就寝の時刻を一定にすることで、昼夜の切り替えを明確にしましょう。また、体内時計は各臓器にもあります。これは、食事を毎日同じ時間にとることで、整いやすくなります。
冬季うつの改善に効果的な栄養素・食べ物
食事で冬季うつを改善するには、栄養素を効率的に使えるように全体のバランスが整っていることと、セロトニンの材料となるたんぱく質をしっかり摂ることが必要です。
大豆ごはん
すみやかにエネルギーになる炭水化物は、栄養素を効率的に使うために欠かせません。米、パン、麺などに多く含まれますが、中でも米は血糖値の乱高下が起こりづらく、リズム運動でもある咀嚼(そしゃく)がしやすいため、冬季うつ改善の助けになります。
米にもたんぱく質が含まれているので、豊富にたんぱく質を含む大豆と組み合わせた大豆ごはんなら、一石二鳥です。大豆製品と米を組み合わせたおいなりさんや、きな粉おはぎもいいですね。
タラ
冬が旬で価格も手ごろなタラには、良質なたんぱく質が豊富に含まれています。タラちりなどの鍋が定番ですが、あっさりとした味なので、ホイル焼き、煮つけ、トマト煮、甘酢あんかけ、フリッターなど和洋中の幅広い料理に使うことができます。
真ダラが一般的ですが、スケトウダラや塩ダラ、干しダラでも同程度のたんぱく質を摂ることができ、セロトニン合成を助けます。
けんちん汁
ごま油で炒めた野菜と豆腐を出汁で煮込み、しょうゆで味を調えたけんちん汁。
セロトニン合成に役立つたんぱく質を多く含む豆腐に加え、たんぱく質や炭水化物がセロトニンを生み出す際に不可欠な栄養素である、ビタミン・ミネラルを野菜から摂ることができます。
これらの食材を汁物にして食べるけんちん汁なら、水に溶け出しやすい栄養素も無駄なく摂ることができます。