「気持ちが落ち込むことが増えた」「最近、声を出して笑っていない」ということはありませんか? もしかしたら、季節の変化に感情が影響を受けているのかもしれません。漢方にも詳しい管理栄養士の小原水月さんによると、食事の内容や普段の生活の中に気持ちの落ち込みを防ぐコツがあるそうです。そこで、気持ちを穏やかに保つためにおすすめの食材や生活習慣、気持ちの落ち込みに効果があるとされている漢方薬について教えてもらいました。
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秋から冬にかけて精神不安定になりやすい理由
秋から冬にかけて、気持ちの落ち込みを感じる場合は「季節性うつ病」が疑われます。日差しが短くなる10月ごろから症状があらわれ始め、日照時間が長くなる3月ごろになると回復するというサイクルを繰り返す人もいます。
日照時間が短くなると、セロトニンやメラトニンが不足するといわれます。これらは一体どんなもので、なぜ気分の落ち込みと関係してくるのでしょうか。
「幸せホルモン」セロトニンの不足
セロトニンは別名「幸せホルモン」とも呼ばれる神経伝達物質で、幸福感や安心感を生み出し、気持ちをリラックスさせる効果があります。秋から冬にかけて外に出て日を浴びる機会が減ると、セロトニンが十分に作られず、憂うつな気分が引き起こされるのです。
セロトニンは、日の光を浴びることで分泌されるほか、一定のリズムで体を動かすリズム運動によって体内で合成されます。
「睡眠ホルモン」メラトニンの不足
セロトニンは、睡眠ホルモンである「メラトニン」の材料にもなるため、セロトニンが不足するとメラトニンも不足します。
メラトニンが不足すると、寝つきが悪くなる、夜中に目が覚めるなど睡眠の質が下がり、脳機能の低下につながります。脳機能の低下は、感情の乱れや、気持ちの落ち込みなどの症状を引き起こす原因になります。
寒い季節のメンタルを安定させるポイント
寒い季節のメンタルケアで大切にしたいのは、日中の過ごし方と食事のバランスです。では、どんなことを心がければいいのでしょうか?
日中に太陽の光を浴びる
日中に外出をして太陽の光を浴びることがセロトニンの生成につながります。光の弱い、曇りの日でも大丈夫です。また、ウォーキングなどのリズム運動と組み合わせるとより効果的です。外出が難しいときはベランダに出たり、窓辺で過ごしたりする時間を作るだけでも効果が期待できます。
バランスのよい食事を心がける
セロトニンの生成には、たんぱく質の一種であるトリプトファンが欠かせません。
一方、栄養素は単体ではなくチームで働きます。たんぱく質だけでなく、脂質や炭水化物、ビタミン、ミネラルなどをバランスよく摂ることで栄養素は期待通りの働きをしてくれます。
「ごはん+具だくさんみそ汁+おかず」の一汁一菜の献立にすると食事のバランスが整いやすいのでおすすめです。薄味の和食ならば、必要な栄養素を摂りながらも、添加物や必要以上の塩分など余分な成分を摂りづらくなります。
メンタルを安定させる栄養素・食べ物とは?
バランスのよい食事をすることは大前提に、さらにトリプトファンを含む食材を意識して取り入れるのがいいでしょう。また、気分を安定させたりリラックスさせたりする効果のある食材も、季節性の気分の落ち込みに効果が期待できます。
トリプトファンを含む米やサバ、香り成分に気持ちの鎮静作用があるレモンを、意識して取り入れてみましょう。薬ではないので即効性はありませんが、気候の変化に揺らぎにくい体作りを目指せます。
米
食材から多くの栄養素を摂っても、エネルギーがなければ活用できません。最も効率的にエネルギーになる炭水化物を摂って、食材の栄養素を活用できる体作りをしましょう。
米は脂質が少ないので胃腸に負担をかけにくく、速やかにエネルギー源となる点で他の食べ物よりも優れています。また、トリプトファンも含まれていて、秋の気分の落ち込みにはピッタリの食べ物です。
サバ
マサバやゴマサバなどさまざまな種類があり塩サバや水煮などの加工品も多くあるサバですが、いずれもトリプトファンを含んでいます。定番の塩焼きや味噌煮、竜田揚げやトマト煮など、いろいろな調理法で積極的に食卓に取り入れましょう。
レモン
レモンにはリモネンという香り成分が含まれており、気持ちを落ち着かせてくれる鎮静作用があります。
そのため、ストレスや落ち込んだ気分の解消につながります。レモンスライスやしぼり汁を入れたレモン水を取り入れてもいいでしょう。
気分の落ち込みなど、心の不調には漢方薬もおすすめ
食事や生活習慣に気を付けていても気分が晴れないときは、漢方薬をのむという方法もあります。
漢方薬は自然由来の成分で体のバランスをととのえて自然治癒力を高めることで、心と体を健康な状態に向かわせることを目的としています。気分の落ち込みなど体の内側からの改善に、心療内科や精神科でも使われています。
気分の落ち込みにおすすめの漢方薬2つ
・柴胡加竜骨牡蛎湯
柴胡加竜骨牡蛎湯(さいこかりゅうこつぼれいとう)は、比較的に体力がある人向けの漢方薬です。些細なことが気になる、イライラする、緊張感が強いときなどに用いられます。
・加味帰脾湯
加味帰脾湯(かみきひとう)は貧血があるときなどにも用いられる、胃腸が弱く、体力がない人向けの漢方薬です。不安感が強い、悲観的になりやすいといった症状を改善します。
漢方薬を始めるときの注意点
自然由来の生薬を組み合わせて作られ、西洋薬に比べて副作用が少なく、繰り返す不調に対して根本からの改善が期待できる薬です。
ただし、漢方薬はその人の体質に合っていないと、よい効果が見込めないだけでなく、副作用が起こることもあります。服用の際は自分に合う漢方薬を見つけるために、漢方に詳しい医師や薬剤師に相談するのが安心です。
食事や生活習慣ではなかなか気候に左右されづらい体質づくりが難しいという人は、専門家に相談して漢方薬の助けを借りるのも選択肢の1つです。自分に合った方法を取り入れ、秋冬も元気に過ごしましょう!
◆教えてくれたのは:管理栄養士・小原水月さん
おはら・みづき。管理栄養士。ダイエット合宿所、特定保健検診の業務に携わりのべ600人以上の食事と生活習慣をサポート。自身が漢方薬を使用して体調回復した経験から、栄養学と漢方を合わせたサポートを得意とする。現在は「あんしん漢方」(https://www.kamposupport.com/anshin1.0/lp/)などで情報発信もしている。