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大塚寧々が気鋭の若手陶芸家と対談、作品との出会いは「私の全細胞が喜んでいた」

大塚寧々さんと陶芸家・吉田次朗さんの対談が実現
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女優としてさまざまな話題作で活躍する大塚寧々さん。写真、書道、陶芸など芸術分野にも造詣が深い。「8760 by postseven」で始めた初の連載エッセイ「ネネノクラシ」も話題を呼んでいます。そんな大塚さんの「会いたい人がいる」とのリクエストで、気鋭の人気陶芸家・吉田次朗さんとの対談が実現しました。

そこまで物に惹きつけられた経験はなかった

女優と陶芸家――まったく異なる世界にいる2人が、吉田さんの作品を通して意気投合、心を通わせていく。大塚さんが吉田さんの作品に出会ったきっかけは、旅行先の沖縄で小さな雑貨店を訪れたことだった。

大塚:沖縄の素敵な雑貨店で、小さなトルソー(胴体だけの置き物)が目に留まったんです。見た瞬間に惹きつけられて、吸い寄せられて、目が離れなくなって、私の心を全部持っていかれる感じでした。お店の人に聞いて、吉田さんの名前を知りました。そのときお皿とか他の作品も見て…そこまで物に惹きつけられた経験はなかなかなかった。だから一度、それらを作った吉田さんにお会いしてみたかったんです。

吉田:あれは1個しか作ってないんですよ。ああいう変わった作品を常設のお店で置いているところはなかなかないから、タイミングも良かったんだと思います。

大塚:一緒に置いてあったお皿が欲しくなって、そのお店に注文して半年ぐらい待ちました。お店から連絡をもらって、「送りましょうか」って言われたのですが、たまたま沖縄にいたので「取りに行きます!」って (笑い)。

大塚寧々さん
吉田さんの作品に惹きつけられたという大塚さん
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――岐阜県に工房を持つ吉田さんは、日々の暮らしの中で気持ちよく使える食器や花器、小さな女性像、オブジェなどを製作している。繊細なのに力強く、他にはない自由な作風で、全国の著名なギャラリーなどからひっきりなしに声が掛かる人気作家だ。

大塚:吉田さんのお皿は、我が家に遊びに来る友達みんなに、「これ、誰のお皿?」って必ず聞かれます。

吉田:ぼくが作っている物はそんな難しい技法は何もしてないから、たぶん陶芸をやる方なら誰でも作れると思いますよ(笑い)。

大塚:今回の展示会(2021年11月開催)では、グレーや白などいろんな土のタイプの物がありましたが、初期の作品は白っぽい感じの物が多かったですよね?

吉田:白い物は釉薬(ゆうやく)がかかってるんです。陶器って吸水性があって、使っていくと変わっていくというか…お茶道具なども表情が変わっていくので「育つ」というのですが、呼吸をしてるような感じです。

使いやすさで考えると、磁器の物で釉薬がかかってツルッとしたもののほうが、衛生的だし使いやすい。しかも丈夫です。だけどそういう物って、世の中にはたくさんありますよね。ぼくは使っていって触りたくなる、どんどん表情が変化していく物が好きなので、そういう素材でずっと作っています。

作品作りの根本は、「好き」という感情

吉田:作品を作る時に意識しているのは、「好き」とかそういう単純な感情なんですよ。いろんなことを考えて作ってはいるんですけど、質感が好きとか形が好きとか、自分の中の好きだなっていう気持ちが広がって形になるんです。

世の中には使いやすい物はたくさんあるのですが、自分が使うんだったら、ちょっと使いにくくても自然に触りたくなるとか、愛着が持てる物がいいなって。 もともと器の原形って、葉っぱや手のひら、骨や何かの実だったりする。

今われわれが使っている焼き物って100年から200年ぐらいの歴史だと思うんです。でもその前には何万年もの歴史があって、土器とか須恵器とか。そういう素材の力って、すごく濃いものがあると思うし、素材の力が自分と共感できるんです。だけど近代の陶芸になってくると、そういうものがどんどん薄れていくから、もっと何か自分の感覚に近いものでできたらいいなと思いながらやっています。

大塚寧々さんと吉田次朗さん
食器を眺める大塚さん。普段、吉田さんが作った食器を愛用しているという
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大塚:そんな吉田さんの食器を、私は普段何にでも使います。洋菓子やちょっとしたデリみたいな物をのせたり。割らないように割らないように、かけないようにかけないように、洗う時もすごく気をつけて大切にしています。それってすごく大事なことだなと思っていて、手洗いしているときですら愛おしいんです。

吉田:ぼく、洗うのが一番好きなんですよ。一番さわれる時だから。ぼくの食器は洗うと水気を含むから、しっかり乾かしてからじゃないとしまえないんです。

大塚:水を含む感じですよね。それも好き。

吉田:呼吸してる感じですね。

もともと地球にあるものに、感謝も喜びも幸せもある

大塚:今、私たちって、いろんなことが過剰になってる気がするんです。消費社会ですし。でもそんなに消費しなくても、もともと地球にあるものを大切にして生活すること、感謝して、喜びも幸せも感じられるっていうのが、やっぱり大切なことだなと思っていて。吉田さんの作品はそれをすごく感じるんですよね。

吉田次朗さんの作品
吉田さんの作品は食器から小さな人形まで幅広い
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吉田:ぼくもやっぱりそういう気持ちがあるので、自分が大事にしたいとか好きという気持ちで作った物で、こうして初めて会った人同士がつながるってすごいなって思います。「こういう物なんですよ」って説明してそれを受け取ってもらうのではなくて、根本のところが自分と同じような考えの方が、同じように器を見てくれるっていうのはすごいことだなと思います。

その表情に吸い寄せられていく

吉田:大塚さんは素材に対する目とか愛情があるから、そうやって見てくださるんだと思うんです。ぼくがすごいというよりは、使ってくださる方が選んでくださって、それを大事に使ってくださることのほうがすごいなと思います。

大塚:今日は吉田さんの作品にたくさん触れることができて、もう本当に幸せです! 今日は手のひらサイズの小さなトルソーを買いましたが、吉田さんが作る表情に、どうしても吸い寄せられるんです。

吉田:あれは野焼きで焼いた土器の人形です。掘ってきた土で形づくり、裏庭で、倒れた竹や樹木で焼きました。そこには何もお金はかかっていないんです(笑い)。

大塚: それがそうだろうと、すごいなって思うんですよ。私が沖縄で初めて吉田さんのトルソーを見た時もそうなんですけど、なんとなく懐かしいなって。

頭の隅で、「なんだっけ、この感じ?」っていう、自分の中では懐かしさみたいなものに近くて、静かな幸せ。私の全細胞が喜んでいるっていうのがわかるんです。そんな気持ちになることって、普段あんまりないですよね。

大塚寧々さん
「吉田さんが作る表情に吸い寄せられる」という
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吉田:人形を作る時って、何個か並行して作っていくんです。なぜかというと、能のお面が角度を変えただけで表情を作っていくことにも通じるんですけど、ちょっとした角度とか、音楽が高い音と低い音の波で生まれるように、いろいろな音のもので流れのようなものが作れたらと思って制作しています。

その瞬間にある空間の光とか周りにある空気の流れ、そういうことを考えながら飾ったりする。大塚さんは写真を撮られるからわかると思うんですけど、物を置くことで そこに今ここから光が入って、そのちょっとした角度でも表情がガラッと変わる。自分が見る目線の角度とか、置くことで感じる趣がある。一つの装置というんですかね。どんなものでも感じられるとは思うのですが、それが人の形をしているので、より気持ちが入りやすいのかな。

そうやって作っていくのは、本当に楽しい。みなさんが自分の家に持って帰って、こうやって置こうかな、ああやって置こうかなっていうところを想像するのも楽しいんです。

大塚寧々さんと吉田次朗さん
吉田さんの作品に独特の美しさを感じるという
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大塚: 確かに角度がありますね。その時の気分によって、こうやって置こうか、ああやって置こうかって。吉田さんの作品には独特の美しさがあって、触れた時の質感が力強くもあるんですけど静ひつさも感じられて、それが私にとってはすごく心地がいいというか、本当に幸せな気持ちになるんです。

私が持っているトルソーの表情もそうで、もともと陶器好きなのですが、“もうすごい好き!”って思ったんです。シンプルな美しさ、余分なものが削ぎ落とされた美しさ、素材の力強さとか、だから私は惹かれるんだと思います。(第2回に続く)

大塚寧々さんと吉田次朗さん
陶芸のことからお互いの仕事のことまで対談は60分以上続いた
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◆大塚寧々(おおつか・ねね)
1968年6月14日生まれ。東京都出身。日本大学藝術学部写真学科卒業。『HERO』、『Dr.コトー診療所』、『おっさんずラブ』など数々の話題作に出演。2002年、映画『笑う蛙』などで第24回ヨコハマ映画祭助演女優賞、第57回毎日映画コンクール主演女優賞受賞。写真、陶芸、書道などにも造詣が深い。夫は俳優の田辺誠一。一児の母。現在、出演映画『軍艦少年』が公開中。https://happinet-phantom.com/gunkanshonen/

◆吉田次朗(よしだ・じろう)
陶芸家。1979年生まれ。東京都出身。東京都立工芸高等学校で陶芸に出合い、全国から才能のある陶芸家が集まる「studio MAVO」(岐阜県多治見市)で本格的な製作を始める。その後、山口県の大津島、宇部市を経て、現在は岐阜県に工房を構え、全国のギャラリーなどで個展を開催。
http://www.yoshidajiro.com/
https://www.instagram.com/yoshidajiro/

撮影/網中健太 ヘアメイク/長縄希穂(マービィ) スタイリスト/安竹一未(kili office) 取材・文/田名部知子

撮影協力/うつわ菜の花
神奈川県小田原市南町1-3-12
※企画開催時のみ営業
http://utsuwa-nanohana.com/?page_id=3173

大塚寧々さん衣装/ワンピース(ラリーニュ ロペ/ジュンカスタマーセンター)、ストール(スロー)、ブーツ(ロランス/ザ・グランドインク)イヤリング、リング(すべてラミエ)

ザ・グランドインク https://www.laurence.jp
ジュンカスタマーセンター https://www.rope-jp.com/laligne_rope/
スロー https://www.throw.co.jp
ラミエ http://www.lamie-lamie.com

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