
老いも若きも、女性も男性も虜にする甘い、甘いチョコレート菓子。これまでメーカー各社から数多の人気商品が登場しましたが、それらの大ヒットを後押ししたのは、時代を象徴する豪華スターが起用されたテレビCMと言えるでしょう。1980年代〜1990年代のエンタメ事情に詳しいライターの田中稲さんが、今年で創業100周年を迎えた老舗メーカーの名作CMを中心に振り返ります。
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カリッと青春! グリコの「超名作」チョコCM 3選
CMを見れば時代が見える。チョコレートのCMを見れば、時代が誇る「青春のアイコン」が見える。ということで、今回チョコレート菓子のCMを調べていたら、2022年2月11日で、江崎グリコが100周年を迎えていたことを知った。100年とはなんと長い歴史……。おめでとうございます!
ならば余計にチョコレートのCMを振り返らねば。誰にも頼まれていないが勝手に使命感に火が着いたので、グリコの名作CMをほんの少しピックアップ!
まずは、1982年、赤い傘を差した堀ちえみさんが、駅で好きな人を待っている「セシルチョコレート」のCM。
まず、チョコレートのCMで雨の日を舞台にしようと思いついたことが凄い! 当時の日本で、いや世界で、赤い傘が最も似合う10代女性は彼女だった。そう断言できるほどカワイイ。そこにそよ風のように流れる杉真理さんのCMソング『バカンスはいつも雨(レイン)』が柔らかくやさしくて良き!
次に、松田聖子さんと田原俊彦さんの共演が胸キュンすぎた1980年の「アーモンドチョコレート/セシルチョコレート」のCM。バックに流れるのは田原俊彦さんの『ハッとして!GOOD』(1980年)である。

歌詞の通り、高原のテレフォンボックスで、偶然ばったり会うシーンが再現されているのだ。パーフェクト……! 聖子ちゃんの、素で運動神経がなさそうなテニスシーンも萌えた。それを見て、字でかけるような「あはははは」笑いをするトシちゃん。最高……! 誰もが思ったはずだ。「ユーたち、つきあっちゃいなよ」と!
そして1977年とかなり時代は遡るが、三浦友和さんの「アーモンドチョコレート」のCMを素通りするわけにはいかないだろう。三浦友和さんは動くギリシャ彫刻のようで、恐ろしいほど美しい。松崎しげるさんの歌声(CMソングが『愛のメモリー』)、外国のロケ地の非現実的なムードもプラスし、グリコアーモンドチョコは「一粒で10か国くらい周れるエネルギー食」くらいに壮大な印象を持った。
この 3つは「設定」「CMソング」「アイドル性」「チョコにドラマを感じる」という4条件をクリアした超名作といえよう。ただ、このほかにも名作は数多ある。「南野陽子の旅シリーズはどうした」「三浦友和を挙げるなら、百恵ちゃんと共演したホームパーティー風CMの方を出すべき」「キョンキョンと渡辺徹ははずせないだろう」など、心の中でもう一人の自分がツッコんでいる。私一人ですらこうなのだから、読者の方の思い出CMはもっとさまざまだろう。議論が勃発するのは容易に想像できる。が、それも良し。懐かしエンタメは、ざわめくくらいがちょうどいい。

映画にまでなった「ポッキー四姉妹」
ポッキーのCMも名作が多い。近年では(といっても16年前であるが)2006年の、新垣結衣のポッキーダンスは衝撃だった。ここまでタレントのポテンシャルを余すところなく引き出したCMはなかなかない!
もう少し遡ると、CMという枠を飛び越え、スピンオフ映画までつくられた「ポッキー四姉妹」(1993年から1996年放送)も伝説。長女・ちなみが清水美砂さん、次女・すなみが牧瀬里穂さん、三女・こなみが中江有里さん、四女・えなみが今村雅美さんだった。華やか!
特に牧瀬里穂さんのサバサバ感は素敵だった。『若草物語』のジョーの現代版という感じ。可愛いのに、良い意味で色気やあざとさがゼロ。彼女が、「実は女だった」という設定の沖田総司を演じた映画『幕末純情伝』(1991年)は名キャスティングだったなあ。もう一度観たい。
『幕末純情伝』から4年後の1995年に「ポッキー四姉妹」が映画となったわけだが、調べてみると、なんと映画のストーリー原案が赤川次郎の『三姉妹探偵団』だったそう。さささ三姉妹探偵団!! 持ってたわ、好きだったわ! あまりにツボなノスタルジイ・リレーに、私はその場で一人バックドロップをしてしまった。
存在の大きさに気づいたときには…
ああ、ポッキーとグリコアーモンドチョコが無性に食べたくなってきた。せっかくなので、ポッキーは久々に「ポッキー・オン・ザ・ロック」としゃれこむことにしよう。ちなみに「ポッキー・オン・ザ・ロック」とは、ポッキーをマドラー代わりにし、氷やらジュースやらウイスキーやらをクルクル混ぜて食べる、粋な食し方である。
松田聖子さんがCMで歌いながらクルクルしているのに憧れ、真似した人も多いのではないだろうか。もちろん私もその一人だ。さあ皆さん、思い出もともにかき混ぜよう。乾杯……!
ポッキーはオッケーだ。しかしもう一つ、スライド式の箱入り「グリコ アーモンドチョコレート」がない。どこを探しても見当たらない! そういえば長年コンビニでも見かけない。ま、まさか……。
嫌なカンは当たるもの。2018年12月に生産終了していたそうだ。ショック!
グリコアーモンドチョコだけではない。ロッテ「霧の浮舟」、森永「チョコフレーク」と、私が愛したチョコは軒並み販売終了してしまっていた。存在の大きさに気づいたときには、すでに遅し。
切ない……。思わず遠い目になったが、復刻という名の再会を待とう。
◆ライター・田中稲さん

1969年生まれ。昭和歌謡・ドラマ、アイドル、世代研究を中心に執筆している。著書に『昭和歌謡 出る単 1008語』(誠文堂新光社)、『そろそろ日本の全世代についてまとめておこうか。』(青月社)がある。大阪の編集プロダクション・オフィステイクオーに所属し、『刑事ドラマ・ミステリーがよくわかる警察入門』(実業之日本社)など多数に執筆参加。他、ネットメディアへの寄稿多数。現在、CREA WEBで「勝手に再ブーム」を連載中。https://twitter.com/ine_tanaka