母ちゃんもパーシャのように思い出になるのか
それからまた長い時が流れ、格闘家のような体格のロシア人・パーシャと知り合ったんだわ。知り合いの再婚相手で、駒込の海鮮居酒屋で飲んだら日本語も気づかいも完璧。夫婦で起業してかなり成功したらしい。
その彼が酔って、「ソ連時代に戻ればいいのにな」と言い出したんだわ。「ソ連って中はパラダイスだったんだよ。一日の仕事が終わったら村中の人が広場に集まってギターに合わせて歌って飲んで。競争がないし、仕事も適当でいいし」。
ビールで赤ら顔になった彼の夢見るような横顔を見ていたら、大国に守られてのんびり暮らしていた時代が確かにあったんだなと思い、一夜くらいその村人の中に混ぜてもらいたくなった。
しかし時の流れって誰にも止められないのね。今回の塩っ辛いニュースを見ていたら、私がちょっとだけ触れたソ連と彼、パーシャのことを思い出したわけ。
そしていつか母ちゃんも、ロシアに帰って会えなくなったパーシャのように、思い出になるのかなと、茨城に思いを馳せる。母ちゃんがいて原チャで走る田舎の農道と、いなくなってから走るのは、どんな違いがあるのか、ないのか、とかね。
◆ライター・オバ記者(野原広子)
1957年生まれ、茨城県出身。体当たり取材が人気のライター。これまで、さまざまなダイエット企画にチャレンジしたほか、富士登山、AKB48なりきりや、『キングオブコント』に出場したことも。バラエティー番組『人生が変わる1分間の深イイ話』(日本テレビ系)に出演したこともある。昨年10月、自らのダイエット経験について綴った『まんがでもわかる人生ダイエット図鑑 で、やせたの?』を出版。
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