外資系ホテル・LOF Hotel Management日本法人の社長を務める薄井シンシアさん(63歳)。47歳のときに専業主婦から17年ぶりにキャリアを再開してから、紆余曲折な人生を送ってきました。そんな豊富な経験から人生を前向きに生きるヒントを探る連載「もっと前向きに!シン生き方術」。今回は、タイの学校カフェテリアのマネージャー時代に学んだことについて。異なるバックボーンの人たちと共に働く上で大切なこととは――? 職場に限らず、人と人とが交流する上で参考にしたい教訓がきっと得られるはずです。
* * *
子育てに必要なこととスタッフ育成は同じ
前回、前々回は、タイの小中高一貫校のカフェテリアで、子供たちを相手にどう秩序ある空間を作り上げたか、子供たちのニーズをいかにつかんでそれに応えたか、といったことをお話しました。が、食堂のマネージャーですから当然、スタッフの仕事を指揮したり管理したりする仕事も担うわけです。カフェテリアには約60人のタイ人が働いていました。
実は、スタッフ相手のことは、子供相手のことほど、最初から私に確信があったとはいえません。ただ、自分なりにベストを尽くすなかで、その学校の学長が言われたことが、その後の指針になりました。学長は「あなたのマネジメントスタイルは子育てに必要な3つの“E”に基づいている」とおっしゃったんです。
いわく、子育てには「期待する(expect)」「教える(educate)」「褒める(encourage)」の3つが重要なのだとか。「あなたにはこれをやっている」と気づかせてくれました。このお言葉をきっかけに、以降は3つのEを心掛けてスタッフ教育に取り組みました。学長は常に私を観察していたようです。
ルールを破った人を責めるより、誰もが守れる仕組みをつくる
カフェテリアも飲食業ですから、年に数回ある会社が行う検査は一つの正念場です。私たちのカフェテリアは、みんな真面目にやっているのに、検査に失格しました。なぜなのか、検査機関に失格した理由を聞くと、味見用のスプーンを使いまわしていることが原因とのこと。そこで、スタッフとミーティングして、「同じスプーンを洗わずに繰り返し使ってはいけない。味見をするときは、必ずスプーンを変えて」とお願いしました。
ですが、2回目の検査でもまた失格に。理由も1回目と同じで、味見用のスプーンの使いまわし。会議でお願いしても改善されなかったので、今度は厨房の様子を観察してみました。すると、スタッフそれぞれが味見用のスプーンを制服の胸ポケットに差して、いまだ使いまわしてることが判明したのです。それを改善するために、制服のポケットを外してスプーンを持ち歩けない状態を作り、改めて「味見するときはスプーンを変えて」と伝えました。
今度こそはと思っていましたが、3回目の検査でも失格になります。習慣はそう簡単に変わらない。うっかり使ってしまう人が多々います。ここで腹を立てても仕方がありません。私は言ったことがなぜ守られないのか、原因を考えました。
改めて厨房を観察すると、みんな使い終わったスプーンを、自分が作業する近い場所に置いて、そのまま使っていたのです。なので、使い終わったスプーンを入れる平らなトレー、新しいスプーンが入ってるパテという、それぞれの置き場所を用意して、動線上ここにあったら便利だと思う位置に置いてみました。
そこで、ようやくスプーンの使い回しが目に見えて減り始めました。最初は間違える人もいますが、根気よく教えると全員に浸透していきます。この対策後は、検査を一度で通過することが増えましたね。
この話の要点は、ルールは作ったら徹底するということ。でなければルールの意味がありません。ルールを徹底する覚悟がないなら、誰も守らないルールなんか作らないほうがマシ。みんながルールを守れる仕組み・環境を上司の責任で整えるべきです。
ルールが守られない状況を、守らない人たちのせいにするのは無益な考え方です。「みんなの意識が低いからダメなんだ」、そう思ったところで問題は解決しませんよね。うまくいかなかったら自分のやり方のどこがまずいんだろうと考える。そして改善する。それが合理的な問題解決の道筋です。