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【65歳オバ記者 介護のリアル】四十九日を終えて母ちゃんの「死」が「ストンと腑に落ちた」瞬間

納得した養老孟司先生の言葉

最近、テレビを見ることはめっきり減った代わりに、よくYouTubeを見るんだわ。で、お気に入りの番組のひとつが『バカの壁』の著者、養老孟司先生の講話なの。先生は、「人の死はこの世で1つだけなんですよ」と言うの。

自分の死は自分はわからないんだから無い。見ず知らずの他人の死も、自分と関わらないから無い。人の死をきちんと感じるのは、深く自分と関わった親や兄弟、夫や家族や親しい人の死だけなんだって。

オバ記者とオバ記者の母親
生前、2人で撮った最後の写真
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「そんな死を体験すると人は変わります。必ず変わります」と養老先生はおっしゃっていたけど、母ちゃんの死に直面してすっかり納得したわ。

「死んでやる」「てめえなんか死んじめぇ」といくら言っても、憎まれ口や罵り言葉の「死」は想像上のことなんだよね。実際に息を引き取った母ちゃんが通夜や葬式、三十五日という儀式を通してその現実をだんだんに認めていくんだけど、最後の最後、「この世のどこにもいない。二度と会えない」という強烈な現実が受け入れられないのよ。

世の中の景色がガラッと変わって見えてきた

「ヒロコぉ。飯まだか」「ヒロコ、ちめてえ(冷たい)水くろや」「ヒロコ、どご(どこ)ほっつき歩ってたんだ」「ヒロコ、はぁ(もう)、仕事なんちゃいいがら、寝ろ」

母ちゃんの声はちゃんと耳に残っているのに姿がない。去年の夏から冬の入り口まで座敷に布団を敷いて枕を並べて寝ていた母ちゃんはどこへ行ったんだ?

と、しょうもないことを考えているうちに突然、世の中の景色がガラッと変わって見えてきたのよ。

オバ記者の母親
家でリハビリしていたのはつい最近のよう
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母ちゃんが行ったところは、いずれ私も行くところ。何もないところからやって来て、何もないところに行く。みんな行く。生まれてきた生物はみんな逝く。なんだ、それだけのことか。

当たり前といえば当たり前のことが、ストンと腑に落ちたら、悲しいとか、喪失感がスルッと体から抜けていったんだわ。そして目に見える世界がとてもありがたくて、優しくて、大きくていい感じに思えてきた。

な~んてことを言うと、おかしな宗教でも始めたのかと思われそうだけど、この感覚は今でないと言葉にできないような気がして、書いてみたんだ。

オバ記者と母親
新年早々、母ちゃんの一言でキレたことに後悔はない
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とはいえ、後悔がないわけではない。最後に別れたとき、母ちゃんは「てめなんか死んじめ」と私に悪態をついたあと、半泣きになって老健から遠ざかる私と弟夫婦を見送っていたけれど、あのときもっと優しい言葉をかければよかった、なんてことは思わないの。あれはあれでよかったと思う。

後悔するのはもっとささいなことなんだよね。最晩年、急に牛肉が好きになって、しゃぶしゃぶにすると「この倍くらい食いてえ」と言った母ちゃんに、もっと上等な肉にすれば良かったなとかね。

もっとも、目の前の肉が100グラム1500円したなんて知ったら、「なんだとぉ! おめはバカが」と怒りだしたに違いないんだけどね。

◆ライター・オバ記者(野原広子)

オバ記者イラスト
オバ記者ことライターの野原広子
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1957年生まれ、茨城県出身。体当たり取材が人気のライター。これまで、さまざまなダイエット企画にチャレンジしたほか、富士登山、AKB48なりきりや、『キングオブコント』に出場したことも。バラエティー番組『人生が変わる1分間の深イイ話』(日本テレビ系)に出演したこともある。昨年10月、自らのダイエット経験について綴った『まんがでもわかる人生ダイエット図鑑 で、やせたの?』を出版。

【297】介護中の母ちゃんを元気づけていた「恋」のお話

【296】「介護した人はお葬式で泣かない」ヘルパーの言葉通りに でも涙が止まらなくなった瞬間

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