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郷ひろみ、山口百恵、近藤真彦、TOKIOほか…鉄道開業150年に聴きたい、懐かしの名曲たち

1978年発売の山口百恵『いい日旅立ち』は国鉄のキャンペーソングだった
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昭和の昔から名作揃いの鉄道会社のキャンペーン・CMに、旅情を掻き立てられてきた方は多いのではないでしょうか。そこで欠かせないのは、旅立つ心を一気に盛り上げる名曲たちです。聴けば心を鉄道の旅に連れて行ってくれる名曲の数々について、1980〜1990年代のエンタメ事情に詳しいライターの田中稲さんが綴ります。文中に散りばめられた楽曲にまつわるフレーズ、あなたはいくつ見つけられますか?

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2022年は鉄道イヤー!

今年は鉄道開業150年なのだそうだ。日本初の鉄道が新橋・横浜間に開業したのが1872年10月14日。ということで、今年の4月1日からJRグループ「鉄道開業150年記念キャンペーン」(https://railway150.jp/)が実施されている。

そもそも「免許がない」「ガソリンのにおいに酔う」「方向音痴」という三拍子が揃った私は電車に足を向けて眠れないほどお世話になっている。車窓からの眺めや、到着時間がわかるのも大きなポイントだ。

ならばヨッシャ今回は数多ある鉄道の名曲の中で、ほんの一部をピックアップし、妄想旅行に出るとしよう!

スタートは郷ひろみさんが歌うアドレナリン放出ソング『2億4千万の瞳-エキゾチック・ジャパン-』でGO GO GO!

この曲はJRがまだ「日本国有鉄道(略して国鉄)」という公共企業体だった時代、1984年のキャンペーン「エキゾチック・ジャパン」のCMソングだったのだ。なんとステキなエキゾチックジャペアオオン!!

『2億4千万の瞳』は郷ひろみのシングル50作目だった(写真は1984年、Ph/SHOGAKUKAN)
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名曲だらけの新幹線CMソング

ガタン、ゴトン、列車が発車すると、見送る側のセンチメンタルは爆発する。

太田裕美さんの『木綿のハンカチーフ』、そして近藤真彦さんの『ブルージーンズ メモリー』……。さよならなんて言えないよバカヤロー! 都会に染まらないで! 列車で別天地に向かう恋人を見送るアイドル曲は、どれも胸が苦しくなるほどエモーショナルだ。

しかし旅立つ方は解放感。駅が見えなくなれば、あとはもう「新たな人生だぜイェー!」状態であろう。

心高まるのがTOKIOの『AMBITIOUS JAPAN!』。新幹線や列車の発車のベルが鳴ると同時にこの曲を心で歌うと、旅先で悪いことが起こる気がしない!

さらに私は関西在住ということもあり、新幹線の旅には谷村新司さんが外せない。JR西日本の旅にチンペイあり、である。

特に『三都物語』は京都・大阪・神戸に行くときの心のBGM。谷村新司さんの「昨日今日あーすーぅ……」というねっとりとした歌声により「この三都を一人で巡れば、インド旅行レベルの自己発見がありますよ」と断言された気になるのだ。

また、谷村新司さんが作詞作曲を手掛けた『いい日旅立ち』(『いい日旅立ち・西へ』)は、JR西日本の東海道・山陽新幹線車両の車内チャイムになっている。山口百恵さん、鬼束ちひろさんの歌唱バージョンも切ないが、シンプルな音のみの車内チャイムバージョンは、別種のものすごい哀愁を感じる。これが鳴ると、旅の解放感と寂しさ、心強さと心細さというアンビバレンツな感情がドカッと襲い来るので、帰路の夕暮れJR西日本はかなり危険だ。

山口百恵『いい日旅立ち』は100万枚を売り上げた(写真は1978年、Ph/SHOGAKUKAN)
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余談だが、私は若かりし頃、友人の結婚式でカラオケを促され、アワアワとタイトルで選んでこの曲を歌った。しかしその後、何かの歌番組で谷村さんが「この曲を結婚式で歌う方がいらっしゃいますが、そんな明るい歌ではありません」といった内容を話しておられ、「そんな気がしたんだよ……」と頭を抱えたのだった。

ということで、この曲はやはり旅で聴くのが一番である。

『あずさ2号』でデビューした狩人(写真は1978年、Ph/SHOGAKUKAN)
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「あずさ2号」はもう走っていないけれど

列車の旅はあまりテンションを上げたくない。ゆっくりしたい──。そんな方にピッタリなのが狩人の『あずさ2号』(1977年)である。「あずさ2号」は新宿−松本(長野県)を走るJR中央線特急。ダイヤ改正などにより現在「あずさ2号」は存在しないらしいのだが、歌はみんなの胸に残るもの。妄想の世界で、多くの失恋ウーマンを乗せ走っている。きっと!

考えることが多過ぎて頭がいっぱい、現実を忘れ、なにも考えず電車で揺られたい方。私も今そのモードなので、原由子さんの『花咲く旅路』で一緒にボーッとしませんか。1990年、JR東海のCMで流れていた歌なのだが、穏やかなメロディと「日本を休もう」というキャッチコピーにぴったりだった。

何も考えない日もあってええんやで……。そんな気分になる一曲である。

これまた余談なのだが、リラックスといえば煙草、という人もまだいらっしゃるだろう。この間、中島美嘉さん主演の映画『NANA』を観たのだが、主人公NANAが新幹線の座席でぷかぷか煙草を吹かしていてビックリした。この映画が上映されたのは2005年。こんなに最近まで喫煙OKだったのか!

調べてみると、初めて禁煙車が登場したのが1976年。ここから全国の鉄道会社禁煙車が続々と導入されていったが、JR東日本管内の新幹線、特急列車が全て禁煙となったのが2007年3月のダイヤ改正時。全鉄道車両から喫煙席が消えたのは2020年4月1日以降、とまだまだ最近だ。時代の移り変わりの早さはビックリする。

旅は続くよどこまでも

さて、余談であっちこっち遠回りしたが、それも旅の醍醐味である。

ラストは個人的に「おおっ!」と嬉しかった曲で旅を締めさせていただきたい。2021年のJR東日本のCM「行くぜ、東北。」にGO-BANG’Sの1989年の大ヒット曲『あいにきて I・NEED・YOU!』が起用されていた。これは今聴いても新鮮! 新幹線の中で幼馴染とばったり出会い「ちょっとちょっと、相変わらずステキじゃん!」とキャッキャした感覚に陥った。

妄想とはいえ、旅は本当に心を揺らす。人生の線路はまだまだ続くので、ここで一度、中島みゆきさんの『ホームにて』で解散いたしましょう。故郷行きのきっぷをどうぞ。

もちろん、旅に出たくなればいつでも駅へ。列車は、栄光まで運んでくれるはず。

まだ発車気分じゃないなら、遠くで汽笛を聞きながら、ゆっくり待てばOK。

できればまた、鉄道開業記念の10月にまだまだたくさんある名曲を持ちより、一緒に心の旅を!

ピ—ッ、ガタンゴトン……。

◆ライター・田中稲

田中稲
ライター・田中稲さん
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1969年生まれ。昭和歌謡・ドラマ、アイドル、世代研究を中心に執筆している。著書に『昭和歌謡 出る単 1008語』(誠文堂新光社)、『そろそろ日本の全世代についてまとめておこうか。』(青月社)がある。大阪の編集プロダクション・オフィステイクオーに所属し、『刑事ドラマ・ミステリーがよくわかる警察入門』(実業之日本社)など多数に執筆参加。他、ネットメディアへの寄稿多数。現在、CREA WEBで「勝手に再ブーム」を連載中。https://twitter.com/ine_tanaka

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