なぜ「てんとう虫」がひたすら祝うのか?
「ジューンブライド」に話を戻そう。そもそもなぜ6月なのか、由来を調べようと検索したら、「ジューンブライド あつ森」というワードが出てきた。気になってこちらを先にクリックすると、どうやら人気ゲーム『あつまれ どうぶつの森』内で毎年催されるイベントらしい。2022年版は6月1日〜6月30日。今まさに開催されている。
小さな教会で、アルパカの夫婦「リサとカイゾー」がウエディングアイテムをアレコレ相談している画像を見て、私は昭和のウエディングソングの超定番、チェリッシュの『てんとう虫のサンバ』(1973年)を思い出した。
大人も子どもも歌いやすい牧歌的なメロディ。「森の小さな教会で結婚式を挙げた」というヘルシーかつファンタジーな設定。チェリッシュの美しい歌声。長く愛されるのも当然だ。
しかし、ふと思った。なぜてんとう虫なのだろうか。「森の小さな教会」という歌詞から、長年勝手に「あつ森」の画像のようにプリティな動物が新郎新婦を祝福するシーンをイメージしていた。ところが改めて歌詞を読むと、そんなの一匹も出てこない! 祝福するのはひたすら「てんとう虫」である。
サンバに合わせて踊るのも、口づけしろしろとはやしたてるのも、てんとう虫。虫に囲まれ祝われる……。香川照之さんならとても喜びそうな演出だが、ニッチといえばニッチ。これはどういった意図があったのか。
調べると、ヨーロッパの言い伝えでてんとう虫は四つ葉のクローバーと同じく幸運の象徴なのだそうだ。体に止まると、幸せが訪れるのだとか。しかもてんとう虫を漢字で書くと「天道虫」。おてんとさまの使いである。さらに、日本では1950年代から70年代はラテン音楽ブーム。人々はサンバやマンボ、チャチャチャに心弾ませていた。
なるほど。あくまで私の個人的見解ではあるが、この歌には当時の流行や幸せへの願いが集まっている! と思うだけで心が熱くなる。嗚呼、急にてんとう虫に祝われたくなってきた!
時代とともに結婚式のスタイルは大きく変わっている。ウエディングソングには、そのとき流行ったものや、受け入れられた表現方法に乗せた「愛」と「おめでとう」と「決意」がギュッと詰め込まれている。
聴きながら、ひたすらふんわり幸せのお裾分けをもらおう。そんな気分がちょうどいい。
ジューンブライドの細かい由来を調べるのは、もう少し後にしよう……。
◆ライター・田中稲
1969年生まれ。昭和歌謡・ドラマ、アイドル、世代研究を中心に執筆している。著書に『昭和歌謡 出る単 1008語』(誠文堂新光社)、『そろそろ日本の全世代についてまとめておこうか。』(青月社)がある。大阪の編集プロダクション・オフィステイクオーに所属し、『刑事ドラマ・ミステリーがよくわかる警察入門』(実業之日本社)など多数に執筆参加。他、ネットメディアへの寄稿多数。現在、CREA WEBで「勝手に再ブーム」を連載中。https://twitter.com/ine_tanaka