
「6月の花嫁」という言葉がある通り、例年この季節には、結婚式や2次会が街のあちこちで催され、新郎新婦の門出を祝う歌が聞こえてきます。1980〜1990年代のエンタメ事情に詳しいライターの田中稲さんがウエディング・ソングの歴史をさかのぼり、たどり着いたのは昭和の名曲『てんとう虫のサンバ』。田中さんが綴ります。
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「エンダーイヤー」で検索できる
6月といえば「ジューン・ブライド」である。古くから、ヨーロッパでは「6月に結婚する花嫁は幸せになれる」とされているそうだ。
私の家の近くに大きなホテルがあり、結婚式が行われていると、チャペルの鐘が聞こえてくる。そんなとき、思わず口ずさんでしまうのが、結婚式の入場曲として大人気だったあの曲。……ほらあの曲!
「エンダーーーイヤーアァァ♪」
である。1992年の大ヒット映画『ボディーガード』の主題歌で、ホイットニー・ヒューストンが歌っていたアレである。ほらアレ。悔しい。タイトルが思い出せない! 一か八か「エンダーイヤー」で検索すると、同じもどかしさを抱えている方が多いのだろう。「エンダーイヤーの歌」「エンダーイヤー 歌詞」など続々と検索候補が出てきて、あっさり調べがついた。
タイトルは『I Will Always Love You(邦題:オールウェイズ・ラヴ・ユー)』。サビの歌詞の意味は「私はあなたを永遠に愛し続ける」。全歌詞を読むと別れの歌だと知ってビックリしたが、いいのだ、サビは愛に満ちているから!
安室、モー娘。、木村カエラ…平成は名曲揃い
日本のウエディング・ソングは、希望と愛の言葉がいっぱい詰まっているものが多いが、特に平成の女性アーティストの曲は本当に可愛らしくハッピーだ。

モーニング娘。の『ハッピーサマーウェディング』(2000年)、西野カナさんの『トリセツ』(2015年)、木村カエラさんの『Butterfly』(2009年)、そして安室奈美恵さんの『CAN YOU CELEBRATE?』(1997年)……。多くのカップルの新たな門出の背中を押したのではなかろうか。

もちろん男性によるウエディング・ソングも捨てがたい。山根康広さんの『Get Along Together』は殿堂入りと言っていいだろう! 1993年のヒット曲だが、その後もロングヒットどころかロングロングロングヒットくらいに長く愛され続けた。この曲と長渕剛さんの『乾杯』は、私も友人の結婚式で聴き、ホロリときた覚えがある。
私がもし今後、誰かの結婚式に招待され、一曲頼まれる日が来たならば、歌おうと狙っているのが星野源さんの『恋』(2016年)である。「恋ダンス」をマスターし、軽快なメロディを歌い踊り、体全体で新郎新婦を祝いたい!
余談だが、「『恋』というタイトルの曲はもれなく超名曲説」がある。昭和は松山千春さんの『恋』(1980年)が素晴らしく、カラオケに行けば男性陣が奪い合う人気曲だった。
そのため、ジェネレーションギャップによる切ないハプニングも起こる。松山千春さんの大ファンである友人が自慢の喉を披露すべく、職場のカラオケ二次会で「『恋』を入れてくれ……」と端末を持つ部下に頼んだ。
ところが「恋、入りました—ッ」と元気な声とともに聴こえてきたのは、チャーラララリララー♪という星野源さんの『恋』。
「踊っちゃってください!」と全員に手拍子をされ、「違うこの曲じゃない」と言えないまま、アワアワと歌い切ったそうだ。
ということで、年齢差のあるカラオケで『恋』を歌う場合は、アーティスト名までちゃんと伝えよう。

なぜ「てんとう虫」がひたすら祝うのか?
「ジューンブライド」に話を戻そう。そもそもなぜ6月なのか、由来を調べようと検索したら、「ジューンブライド あつ森」というワードが出てきた。気になってこちらを先にクリックすると、どうやら人気ゲーム『あつまれ どうぶつの森』内で毎年催されるイベントらしい。2022年版は6月1日〜6月30日。今まさに開催されている。
小さな教会で、アルパカの夫婦「リサとカイゾー」がウエディングアイテムをアレコレ相談している画像を見て、私は昭和のウエディングソングの超定番、チェリッシュの『てんとう虫のサンバ』(1973年)を思い出した。
大人も子どもも歌いやすい牧歌的なメロディ。「森の小さな教会で結婚式を挙げた」というヘルシーかつファンタジーな設定。チェリッシュの美しい歌声。長く愛されるのも当然だ。
しかし、ふと思った。なぜてんとう虫なのだろうか。「森の小さな教会」という歌詞から、長年勝手に「あつ森」の画像のようにプリティな動物が新郎新婦を祝福するシーンをイメージしていた。ところが改めて歌詞を読むと、そんなの一匹も出てこない! 祝福するのはひたすら「てんとう虫」である。
サンバに合わせて踊るのも、口づけしろしろとはやしたてるのも、てんとう虫。虫に囲まれ祝われる……。香川照之さんならとても喜びそうな演出だが、ニッチといえばニッチ。これはどういった意図があったのか。
調べると、ヨーロッパの言い伝えでてんとう虫は四つ葉のクローバーと同じく幸運の象徴なのだそうだ。体に止まると、幸せが訪れるのだとか。しかもてんとう虫を漢字で書くと「天道虫」。おてんとさまの使いである。さらに、日本では1950年代から70年代はラテン音楽ブーム。人々はサンバやマンボ、チャチャチャに心弾ませていた。
なるほど。あくまで私の個人的見解ではあるが、この歌には当時の流行や幸せへの願いが集まっている! と思うだけで心が熱くなる。嗚呼、急にてんとう虫に祝われたくなってきた!
時代とともに結婚式のスタイルは大きく変わっている。ウエディングソングには、そのとき流行ったものや、受け入れられた表現方法に乗せた「愛」と「おめでとう」と「決意」がギュッと詰め込まれている。
聴きながら、ひたすらふんわり幸せのお裾分けをもらおう。そんな気分がちょうどいい。
ジューンブライドの細かい由来を調べるのは、もう少し後にしよう……。
◆ライター・田中稲

1969年生まれ。昭和歌謡・ドラマ、アイドル、世代研究を中心に執筆している。著書に『昭和歌謡 出る単 1008語』(誠文堂新光社)、『そろそろ日本の全世代についてまとめておこうか。』(青月社)がある。大阪の編集プロダクション・オフィステイクオーに所属し、『刑事ドラマ・ミステリーがよくわかる警察入門』(実業之日本社)など多数に執筆参加。他、ネットメディアへの寄稿多数。現在、CREA WEBで「勝手に再ブーム」を連載中。https://twitter.com/ine_tanaka