
大人女性にとって、親の家や部屋の片付けは、いつか課題となることのひとつ。しかし、片付けを始めるのも、親を説得するのも、意外と苦労するものです。幸せ住空間セラピスト・家事効率化支援アドバイザーで、20年以上にわたり片付けに悩む家庭の現場を見てきた古堅純子さんによれば、親の持ち物の片付けるときはコミュニケーションにコツがあるそうです。
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親の家を片付けるときに「しない」3鉄則
同居している家に親の物があふれていて困っているという悩みや、久しぶりに実家に行ってあまりの物の多さに驚いたという話をよく耳にします。けれど、強引に片付けを進めると、口論になってしまうことがあります。
歳を重ねるほど判断力が鈍ります。だから物が捨てられなくなり、家の中にあふれてしまうのです。それなのに、一気に捨てるような決断を迫ると、うまくいかないことが多いです。
その問題はコミュニケーションの仕方にあります。親の気持ちを踏みにじらないように、相手の考えや事情、思いをくんで話を聞くことが、一緒に片付けをスタートするうえでの第一歩です。3つの「しない」鉄則を、コミュニケーションをとるときに心にとめておきましょう。
いらない物を決めつけない
たくさんあふれた親の持ち物を目の前にすると、つい「これ、いらないよね?」と口走ってしまいがちです。けれど、ガラクタにしか見えないような物も、親にとっては大切な物かもしれません。

子どものときに使っていたカップなんていらないように思いますが、親にとっては当時が楽しくて、懐かしくて、幸せだったから捨てられないのです。
ですから、簡単に「これ、いらないんじゃない?」と失礼な質問をするのはやめましょう。大切にしてきた物にそんなことを言う相手には、たとえ血がつながっていても、家の中の物を指一本触れさせてたまるものか、とかまえてしまいます。
おおらかに返事をして、いちいち反応しない
高齢者は身の回りの変化を嫌う傾向にあります。自分が衰えてきたことがよくわかっているがゆえに、余計に今のままにこだわるのです。なので、片付けをする過程で、いろいろと文句をつけてくることがあります。
しかしその多くは気まぐれだったり、わがままだったりします。それに、昨日言ったことをすぐ忘れてしまうということもあるので、親が言う細かいことにいちいち過剰に反応せず、どこかで割り切って片付けを進めるのが重要です。
大まかなゴールがあるのであれば、結果的にそこにたどりつけばいいのですから、ひたすらコミュニケーションをとりながら、途中経過は話半分で聞いておくというおおらかさが必要です。自分の親は文句を言えるくらい元気なんだ、と思うのが子どもの愛情です。
自分ひとりで片付けをしない
今、親と別の場所で生活している人は、自分ひとりで実家に出向き、片付けをやろうとしがちです。でも、それでは心理的にも肉体的にも負担が大きく、一対一だと親も子も感情的になってしまい、トラブルが大きくなることがよく見受けられます。

そこで、片付けはできるだけ複数の人たちと、できれば第三者的な人も加えて行うと、お互いにストレスが少なくて済むのでおすすめです。例えば、親にとっては婿に当たる夫を連れて行くと、遠慮がありますよね。けんかになっても夫が仲裁に入って、中立的な立場で意見を言ってくれるので、親子の感情がこじれずに済むことがあります。
相手が自分の子どもだけなら文句を言いそうな場面でも、婿が片付けてくれたところに文句をつけるわけにはいかず、スムーズに片付けが進む、というケースがよくあるんです。
ポジティブに片付けを進める方法
してはならない3つの鉄則と合わせて知っておきたいのは、ポジティブに片付けを進めるための言い回しのコツです。
否定ではなく質問をする
例えば処分したいいすがあったとき、「いらないでしょ」「座らないでしょ」と一方的に決めつけられると、言われた側は感情的になって反発したくなります。

あなたが決めるのではなく、「どうしたい?」と希望を聞きましょう。親は自分で考えて、アイディアを出します。「座ることがないのなら、不要かもしれない」と、自ら捨てる気になるかもしれません。また、「座りたい」と言うのであれば、座るためにまわりを片付ける、座りやすいいすに買い換えるなど、なぜ使っていないのかという理由を見つけて、それをカバーする新しい提案をすることで、片付けが前に進んでいきます。
ほめて相手のうれしい体験と結びつける
たくさんある食器を「こんなにいらないでしょ」と言われた親は、散らかっている、汚いと決めつけられたと思い、イライラしてしまうことがあります。
そうではなく、相手をほめることを意識しましょう。「すてきな食器がいっぱいあるね。お母さんは料理が得意だから、昔のようにたくさんお客さんがきたら楽しいよね。ここを少し片付けて、もう一度お客さんをたくさん呼ぼうよ」と、空想の中で楽しい未来を広げるのです。

実際にできるかどうかは置いておいて、楽しい想像が浮かぶと、人は自らそこに向かって、物の選別を始めるようになることが多いのです。
命令ではなく、お願いや提案をする
変化を好まないお年寄り相手には、棚ひとつ移動するのも説得が大変でしょう。そんなときは、「邪魔だから移動する」ではなく、「リビングに置いたら今より便利だよ」などと提案し、お願いする口調で穏やかに話しかけてみましょう。
「これをやって」「こうするからね」ではなく、「こうやってもいいかな?」「こうしたらダメかな?」とお伺いを立てると、その中身に異論があっても、自分に意見を求めてきた、というプライドを満足させることができるので、意外と素直に言うことを聞いてくれることがあるんです。
こちらの都合で片付けを進めるのではなく、本人の暮らしがよりよくなるように提案することが大切です。押し付けず、思いやりを持って親と話をしましょう。
◆教えてくれたのは:幸せ住空間セラピスト・古堅純子さん

幸せ住空間セラピスト、家事効率化支援アドバイザー。整理収納アドバイザー1級、整理収納アドバイザー2級認定講師、企業内整理収納マネージャーの資格を所持。1998年、老舗の整理収納サービス会社に入社。20年以上現場第一主義を貫き、クライアントのもとへ通う。5000軒以上の家でサービスを重ね、古堅式メソッドを確立。オンラインを含むコンサルティングやメディア出演や講演も行う。著書は累計60万部で、最新著は『「シニアのための なぜかワクワクする片づけの新常識』(朝日新聞出版)。YouTubeチャンネル「週末ビフォーアフター」は、1000万回再生を突破。チャンネル登録者数9万1000人(2022年4月現在)。https://s-d-m.jp/talents/jyunko-furukata/
構成/イワイユウ