猫の病気で多いのは、消化器疾患と泌尿器疾患、そして皮膚疾患です。皮膚病は、消化器系や泌尿器系の病気と違って、命にかかわるケースはまれですが、脱毛に発疹、かさぶた、かゆみ、痛みといった症状は、猫にとっても、見ている飼い主にとってもやはりつらいものです。愛猫のQOLを高めるために、飼い主さんが日頃どう気を付けるといいのか、獣医師の山本昌彦さんに話を聞きました。
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防ぎにくく治りにくい猫の皮膚病
猫が動物病院を受診する理由で多いのは、消化器疾患、泌尿器疾患、皮膚疾患。ペット保険の請求割合で15.9%、13.5%、9.5%となっています(「アニコム家庭どうぶつ白書2021」より)。皮膚疾患の罹患率にはあまり年齢差がなく、若い猫も中高齢の猫もかかります。
猫の死因に占める皮膚疾患の割合は1~3%程度と小さく、命にかかわる事態にはなりにくいといえます。ただし、予防がしづらい側面があり、また、治るのに時間がかかることもあります。
猫の皮膚病には6タイプ
山本さんによれば、猫の皮膚疾患は大きく分類すると、原因別に6タイプあるとのこと。
「猫の皮膚病として代表的なのは、細菌感染(膿皮症など)、体表への寄生虫(ダニ、疥癬〈かいせん〉など)、アレルギー(食物性、ノミ)、アトピー性皮膚炎、カビの感染(皮膚糸状菌症)、その他(内分泌性、腫瘍など)でしょうか。もちろん、レアケースでこれ以外の皮膚病もあります。」(山本さん・以下同)
シャンプーはかえって皮膚病を招くことも
予防として最も効果的だと思われるのは、やはり皮膚や被毛を清潔に保つことですが「実はこれが難しい」と山本さんは語ります。
「犬の場合は、犬用シャンプーを使って皮膚や被毛を洗ってあげるのが重要な皮膚病予防になります。ところが、猫の場合、シャンプーすることで、かえって皮膚病になることもあるんです。
猫は毛が濡れることを嫌がる子が多いので、シャンプーのあと、濡れた毛を気にして舐め続けてしまうことがあります。そうやって過剰にグルーミングすると、猫の舌は小さな突起がたくさんあってザラザラしていますから、毛が抜けてしまったり、抜けたあとも舐め続けることで皮膚に炎症が起きたりします。舐め壊し、舐性皮膚炎と呼ばれるものです」
シャンプー療法をあえて取らないことも
定期的に体を洗って清潔にしておくという予防法は、どの猫にでも適用できるものではないとのこと。
「皮膚病の治療中でも、シャンプー療法をあえて取らない判断をすることがあるぐらいです。さらに言えば、猫は飲み薬をエサに混ぜても、気づいて飲まなかったりします。一般的な傾向として、犬より猫のほうが飲み薬に敏感なように思います。
薬を飲んでくれない場合は注射での治療に切り替えたり、投薬はあきらめて皮膚疾患用の療法食に変えたりするんですが、療法食を食べない子もいます。そういうわけで、猫の皮膚病はどうしても完治するまでに時間がかかりがちです」
例えば、真菌(カビ)が体表に付着し、増殖して起きる皮膚真菌症は、治療期間が一般的に8~12週ほど、疥癬では4~8週ほどになるそうです。