神尾楓珠の名演が多彩なヒロイン陣の存在をも際立たせる
平さん演じる文学少女の東雲は主人公の西条に似た理屈を重視し、“恋”を論理的かつ客観的に考えようという人物。
馬場さん演じる宿木は東雲とは真逆のタイプですが、“恋”というものの本質を理解できていません(そんなもの100人いたら100通りあるわけですが)。
西野さんが扮する北代は想い人である西条の一番近くにありながらも自分の気持ちにフタをし、変わり者の彼の良き友人であることに努めている。一口に恋愛関係と言っても、とても事情は込み入っているのです。
自分のスタイルを崩さない姿勢を巧みに表現
そんな恋愛物語を展開するカルテットの中心に立つのが、神尾さん演じる西条なのです。
この西条という青年は非常に頭でっかちで、知識は豊富なものの人生経験はとても浅い。それは彼のバックグラウンドが関係してのことでもあるのですが、とにもかくにも彼は感情の動きというものが理解できず、あらゆる事象を理屈で説明できないと気が済みません。
演じる神尾さんは終始鉄仮面で口調はまるで武士のよう。そのマイペースぶりがインパクト大で、正直なところ“神尾楓珠=西条”に慣れるまで少し時間がかかりました。けれどもこの自身のスタイルを崩そうとしないマイペースぶりがあるからこそ、多彩なヒロイン陣の存在が際立っているとも思います。
そして、いくら度を超えてマイペースな西条とはいえ、彼の内面に起きた変化は、冷たい表情や硬い口調といった外面にも影響を及ぼします。この変化の塩梅を間違えると西条像は崩れてしまいかねませんが、神尾さんの表現のさじ加減は絶妙です。