
かかりやすく治りにくい、猫の皮膚病。その予防策の一つとして有効なのが、ブラッシングです。抜けた毛を取り除いて清潔にしておくと一定の予防効果が期待できます。ただ、猫はブラッシングを嫌がる子も少なくありません。今回は猫のブラッシングの方法について、獣医師の山本昌彦さんに教えてもらいました。
皮膚病の予防や早期発見にブラッシングは有効
猫の皮膚疾患は、比較的かかりやすく、治りが遅くなりがち。この皮膚疾患の予防策にもなるのが、被毛をコームやブラシを使って梳(と)かすブラッシングです。抜けた毛をそのままにしておくと、皮膚病の原因にもなるので、こまめに取り除いてあげましょう。
山本さんは「ブラッシングは、皮膚病対策になるだけではなく、皮膚病を早期発見するのにも役立ちます」と言います。
「毛がごっそり抜ける部分があったり、毛の下の皮膚に赤みや発疹、かさぶたなどがあったりする場合、ブラッシングのときに見つけやすいと思います。ノミやダニなどが寄生している場合にもブラッシング中に発見できる可能性があります。」(山本さん・以下同)
ブラッシングせずに抜けた毛をそのままにしておくと…
また、ブラッシングせずに抜けた毛をそのままにしておくと、猫が自分でグルーミングしたときに抜け毛を大量に飲み込んでしまい、消化器官に毛玉がたまってしまうこともあります。

毛玉は通常、嘔吐したり排泄したりして体外へ排出されますが、まれにうまく出ていかない場合があり、そうしたときは動物病院での処置が必要になります(▶https://j7p.jp/80559)。毛球症予防のためにも、適度なブラッシングは大切です。
「病気予防の意味でも、飼い主さんと愛猫のスキンシップ、コミュニケーションという意味でも大切です。適切な体温調節や血行促進にも役立ちますよ」
ブラッシングは毛の流れに沿って
ブラッシングは、毛の流れに沿ってコームやブラシを通すのが基本のやり方です。
「基本的には、頭のほうからお尻のほうへ。毛の流れに逆らうと嫌がる猫が多いので、それは避けましょう。足先や尾も嫌がる子が多いので、あまり過剰にブラッシングしないほうがいいです。ちなみに、その子によってブラッシングOKな場所やNGな場所も異なりますので、よく様子をみながらしてあげてください」
長毛種は毎日でもブラッシング
長毛種は毎日でもブラッシングを。長い毛はもつれやすいので、絡まっている箇所は猫に痛みを与えないように、ゆっくり梳かしましょう。

「毛玉になっている場合には、無理はしないで動物病院に連れて行ってください。絶対にハサミでカットしないでください。猫が暴れて皮膚を切ってしまうことがあります。長毛種はもちろん、短毛種でもブラッシングはしてあげたほうがいいです。ただ、被毛の薄いところは皮膚を傷つけないように優しく。特にお腹側は撫でるぐらいの感じにしておくと、猫に嫌われずに済みます(笑い)。
わきの下や後ろ足の間など、毛玉ができやすい部分は、ゆっくりブラシを通したいですね」
静電気対策や抜け毛の飛び散り対策として、濡れタオルなどを使ってブラッシング前に被毛を少し湿らせるのも有効です。
嫌がる猫に無理強いするのはNG
ブラッシングにはさまざまな効果がありますが、嫌がる猫も実は多いのだとか。
「猫が嫌がっていたら、無理に押さえつけてまでブラッシングする必要はありません。猫との関係が悪くなると、必要不可欠なお世話もしづらくなってしまいます。優しく声をかけながら、撫でて嫌がらなければ手ぐしを通してみて、大丈夫そうならコームやブラシを使ってみましょう。おやつをあげながらブラッシングしてもいいですね。ブラッシングを気に入る猫もいますので、チャレンジしてみてください」
できなくてもあまり落ち込まず、機会を見て挑戦を
ちなみに、山本さん自身も自宅で長毛種の猫を飼っているそうですが――。
「うちの子は残念ながらブラッシングが嫌いで、基本的に体のどこにブラシをかけても嫌がります。特にお腹を嫌がりますが、顎から頚部にかけては気持ちがいいみたいです。 たまにチャレンジしていますが、やるときには、様子を見ながら無理しない程度にやっています」
ブラッシングの効能は多々ありますが、必ずしなければいけない、しないとただちに健康に関わるという性質のものではありません。できなくてもあまり落ち込まず、機会を見て挑戦してみるのがよさそうです。
◆教えてくれたのは:獣医師・山本昌彦さん

獣医師。アニコム先進医療研究所(本社・東京都新宿区)病院運営部長。東京農工大学獣医学科卒業(獣医内科学研究室)。動物病院、アクサ損害保険勤務を経て、現職へ従事。https://www.anicom-sompo.co.jp/
取材・文/赤坂麻実
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