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【65歳オバ記者 介護のリアル】母ちゃんのことを思い出してふさぎこむ気持ちを解消するために鉄旅へ出発!

オバ記者
オバ記者が向かった先とは…
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ライター歴40年を超えるベテラン、オバ記者こと野原広子(65歳)が、介護を経験して感じたリアルな日々を綴る「介護のリアル」。昨年、茨城の実家で母親を介護し、最終的には病院で看取ったオバ記者。母親を亡くして6か月、介護の日々を思い出して朝からふさぎこんでしまうことも。そんな気持ちを振り払うために行ったこととは?

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すごく懐かしいような、振り払いたいような

母ちゃんを見送って半年。やっと去年の今頃は母ちゃんと暮らしていたんだなぁと振り返る余裕が出てきたのかしら。目が覚めた時に「ヒロコ、ヒロコよ」と私を呼ぶ声が聞こえたような気がして、何とも言えない気持ちになるんだわ。すごく懐かしいような、振り払いたいような。

母ちゃんの介護は4か月に及んだ
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自分はやることはやったと思う一方で、あれもしてやればよかった、こんなこともできたなと思ってみたり。要は朝から気持ちがふさいでいるのよ。

28歳で離婚してから、ま、途中、なんだかんだはあったけれど、65歳の今まで独身できた私は、そんな時の特効薬を持っている。それは鉄旅。

高2の秋、寝台特急北陸で金沢へ行って以来、すっかり深夜の鉄道のとりこになって、翌年の秋は青函連絡船に列車ごと乗って札幌へ。上京して靴屋の住み込み店員をしたり時給400円のウェイトレスをしている時も、鉄旅を計画しているだけで夢見心地。食費を削って信州周遊きっぷを買って、夜行列車の旅をしたっけ。

特急サフィール踊り子で伊東へ

なんて青春の1ぺージを振り返り出すともうダメ。実は今年の春、東京駅で見かけてから乗りたくてうずうずしていた列車があったの。それは東京、伊豆急下田間を走っているグリーン車だけの特急サフィール踊り子号。

いつかこれに乗ってみたいと思ったのが金曜日。ネットで発車時刻とか調べてみたら、ん? 席がいくつか残っているではないの。なんの予定もない明日なら伊東の温泉まで日帰りひとり旅ができるんじゃね?

で、次にするのが金勘定よ。急に思い立って行く近場の温泉だと全行程を1万円ちょいでおさめたい。が、サフィールに乗ったら伊東まで片道6970円。有り得ません。ところがところが、私、女性60歳から、男性65歳から入会できる大人の休日倶楽部ジパング会員なのよ。だから3割引き!

お尻が喜んだ?グリーン車のシート
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行きだけサフィールに乗って帰りは直通の普通車のグリーン車を利用したら往復で8000円かからずにいける。伊東に行ったらハトヤ〜♪ じゃなくて、日帰りの私が必ず行くのは、「道の駅 伊東マリンタウン」。ここで海を見ながら入る温泉の入浴代と昼ごはんで、1万円と少々で何とかいける! そうなったときの私の行動力といったらないね。スマホをバッグに入れたと思ったら、みどりの窓口までひとっ走りよ。

サフィールの乗車1時間半は夢の時間。シートの倒れ具合とか、空が見える天井とか、文句のつけようがありません。特にシートの素晴らしさといったらお尻が大喜びで、座ったら最後、いっときも離れたくない、とお尻が言うのよね。

乗車1時間半は夢の時間
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あまりの心地よさになぜか、国鉄時代の深緑色のシートが急によみがえってきて、「ああ、日本もここまできたのね~」とも。

伊東では「道の駅 伊東マリンタウン」で金目鯛の煮付け定食を食べた後、海の見える温泉に入った後、マッサージ機に座って爆睡。ただそれだけなのにこの充足感は何なんだろう。

プレミアムグリーン車で再び

と思うとすぐにリターンマッチをしたくてたまらないのが私。しかも初回よりもグレードアップして。と、この性分のおかげでまともな人生から脱線しっぱなしだけど、ふふふ、昔から「裏を返す」のは遊び人の定石ではないですか。

翌週、名古屋の酉年女、ユミちゃんと熱海で気晴らししようと話がまとまったとたん、私は心に決めたわけ。また格安でサフィール踊り子号に乗ってやれ。ええ~い、どうせ大人の休日倶楽部ジパング会員だから今回も3割引きだ、いっそプレミアムグリーンで行っちゃう? と。

プレミアムグリーンの車内
最高ランクのプレミアムグリーンの車内
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翌日、暴走オバを乗せてサフィール踊り子号は出発進行! プレミアムグリーン車は運転席と前景が一望の一号車で横2列。横3列のグリーン車でもかなりゆったりした感じだけどさすがプレミアムだわ。まるで動く社長室よ。

最前列は中年夫婦で私は2列目。隣は鉄オタ高校生で、前のご夫婦と3人家族旅行なのね。鉄オタくんはやたら信号機に詳しくて得意げにママに説明しているかと思えば山側の私が海の車窓の写真を撮ろうとしたら体をズラしてくれたりして。オタクくんってちょっと偏屈なところがある子がいるけれど、そいう子も同じ趣味の人間には根っから優しいのよね。

で、肝心のプレミアムの乗り心地はというと、そりゃもうその上で最高ランクのプレミアムだもの。いいに決まっているわよ。が、どれだけいいか、どんな風にいいか聞かれたら、さあ、困った。悲しいかな育ちの悪い私は表現する術を持ちませぬ。

それにしてもユミちゃんと泊まった山奥のホテルから見た朝焼けは、息を呑むほど美しくてリゾート気分満点。母ちゃんのことを思い出してふさいでいた気持ちが嘘みたい。

こんなことを言ったらナンだけど、自分の体が自由にならない年寄りが家の中にいると、玄関を入ったときに独特のにおいがして、介護者はそれがたまらないのよね。特に”大惨事”を起こされると鼻腔に残る。それを一掃するには短時間でもいいから旅! そんなことをして自分を保っていたんだなと、母ちゃん亡き後に思い出したのでした。

◆ライター・オバ記者(野原広子)

オバ記者イラスト
オバ記者ことライターの野原広子
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1957年生まれ、茨城県出身。体当たり取材が人気のライター。これまで、さまざまなダイエット企画にチャレンジしたほか、富士登山、AKB48なりきりや、『キングオブコント』に出場したことも。バラエティー番組『人生が変わる1分間の深イイ話』(日本テレビ系)に出演したこともある。昨年10月、自らのダイエット経験について綴った『まんがでもわかる人生ダイエット図鑑 で、やせたの?』を出版。

【313】母ちゃんには理解できなかった私のライター稼業、「マジメに働け」と言われたことも

【312】母親を看取って4か月、「もうちょっとちゃんと話せば…」の後悔

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