「パートをした場合」なども検討
シンシアさん:ちなみに、1か月いくらあればいいと思った?
菜野さん:自動車税なんかの毎年かかる税金や保険なども入れた総額を12か月で割ると月平均25万円ですね。それもやっぱり、遊園地やレジャー施設にどれぐらいの頻度で遊びに行きたいかとか、そういうことは少なくてもいいんじゃないかとか、“要る”“要らない”に仕分けして考えました。1日5時間以内のパートをした場合は、この生活をさらに延ばせるとか、逆に散財してしまうとこれだけ短くなるとか、いろんなパターンを検討しましたね。
シンシアさん:仕分けで、捨てにくい、捨てるのが苦しいと思ったものはある?
菜野さん:自分の自由になるお金ですかね。洋服や食べ歩きが好きで、働いていた時代はある程度は好きなように使えていたので。買い物や外食もそうだし、マッサージに通ったりもできなくなるんだ、とは思いました。ただ、よく考えたら、十分に睡眠時間が取れるようになったらマッサージには行かなくても大丈夫だし。買い物も、永遠にできないわけじゃない。例えばこの5年間だけ、フリマサイトで工夫しながらっていうのも、期間限定なら耐えられないことじゃないと思いました。
知り合いの医師が「大きくなってから幼少期を振り返って『もっと外食や旅行に連れて行って欲しかった』と言う子はほとんどいない。『もっとお母さんに話を聞いてほしかった』と言う子は多い」と言っていて。そういうことも、仕分けのヒントになりました。
目標の年収に到達しても幸せだと思えなかった
シンシアさん:優季さんはどう? 専業主婦になる決断をするまでのプロセス。
優季さん:1年の予定だった育休が、息子の病気のことがあって3年弱になりました。休業前は正規スタッフ(歯科衛生士主任)でしたが、パートとして復帰することになって、仕事内容も歯科衛生士の資格がなくても務まる助手や雑用が中心に。私も3年のキャリアブレイクで浦島太郎状態だし、自分が必要とされていない空気を、復帰初日に感じ取りました。
シンシアさん:どんな職場でも、誰がいなくなっても回るものだよね。良くも悪くも、世の中はその人がいなくても進んでいく。
優季さん:そういうことだと思います。でも当時はそう割り切れなくて、悔しかったですね。絶対に、休業前のお給料を超えてやるんだ、という気持ちになって。与えられた仕事を選り好みせずに真剣にこなして、新規開業の歯科クリニックに移籍して組織マネジメントの仕事を始めて、5年後にはまた別のクリニックのゼネラルマネジャーに就任しました。
途中で“元のお給料”という目標はクリアしたんですが、また別の目標を掲げて突き進みました。“一般企業の管理職クラスの年収”だとか。<シングルマザー><大病した息子>というタグが付いた私が、平日17時半に必ず退社しながら、そういう事情がない人たち以上に稼いでみせる、という気持ちでしたね。社会に認められたかったんだと思います。
シンシアさん:分かる。元のお給料って変にこだわってしまいますよね。私もそうだった。でも、達成してみると、だから何なのっていう程度の話なんですよ。
優季さん:お金では結局、満足できないんですよね。それで一般企業の管理職並みの年収に到達したあとは、新しい目標を設定する気になれなくて。ちょうどそんな頃に、息子が学校をポツポツ休むようになって。心と体の調子がどうもよくない。それで「1円でも多く稼いでやる!」みたいな、これまでの自分の価値観を、はたと見直しました。お給料ってまだそんなに上げていかないといけないんだっけ、と私も計算を始めたんです。
シンシアさん:やっぱり計算ですよ、鍵は。
優季さん:今これぐらい蓄えがあって、年収はこう。だったら、もう収入アップに躍起にならなくてもいいと思えた。それどころか、むしろ親子2人、しばらくのんびり暮らしていけるだけのお金はあるんだなって納得ができました。それで、専業主婦になったんです。