卵巣がんじゃなくて良かった
その晴れやかな顔を見たら、ほんとに卵巣がんじゃなくて良かったと、そう思った次の瞬間、また意識が遠のいた。足首にはマッサージ器かはめられ、あらゆるところに管が通されていた当日のことはもちろん、「さぁ、歩きましょう」と体を起こされた翌日も自分の開腹の傷をチラッと見た3日目も、記憶はみんな断片でしかないんだよね。
その中で、日を追うごとにきつくなったのは食事タイムよ。手術の前日から手術3日目の夜までキッチリ4日間、ガスが出るまで絶食だもの。
食べろと言われても体が受け付けないのは百も承知。だけど日に3度、同室の人に運ばれたメニューが私の鼻に襲いかかるんだわ。みんなが食事を楽しんでいるときにのけものになったことが昔、あったんだね。どんどんいじけて意固地になって、どーせ私なんか、どーせ、どーせ、どーせ! ああ、うるさい!
痛みがあると悩みや世の中のことがどうでもよくなる
そんな声が、重湯が出された日の朝から聞こえなくなったんだから現金だよね。あ、卵巣がんと境界悪性腫瘍の違いは、私の中ではかけていたがん保険が降りるか降りないかの違い。医学界で境界悪性腫瘍は、「同じがんの教科書に載ってますけど」とE先生はおっしゃったけれど、私が加入している保険会社ではがんと認めてないらしい。
そんなことも体に痛いところかあるとどうでもよくて、ついでに言えば世の中のことも、悩みの数々もどうでもよくなるのよね。きっとこれは私だけじゃなくてみんなそうだと思う。
痛み、最強だわ!
◆ライター・オバ記者(野原広子)
1957年生まれ、茨城県出身。体当たり取材が人気のライター。これまで、さまざまなダイエット企画にチャレンジしたほか、富士登山、AKB48なりきりや、『キングオブコント』に出場したことも。バラエティー番組『人生が変わる1分間の深イイ話』(日本テレビ系)に出演したこともある。昨年10月、自らのダイエット経験について綴った『まんがでもわかる人生ダイエット図鑑 で、やせたの?』を出版。
【319】65歳オバ記者「卵巣がん疑い」に 検査から告知、手術直前までをレポート