
NHK朝の情報番組として人気の『あさイチ』。そんな国民的番組に「まさかのオファー」がきて、出演することになったオバ記者ことライターの野原広子(65歳)。自称“ダイエット失敗の権威”としてスタジオ出演したオバ記者が、人気番組の舞台裏をレポートします。
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温泉帰りに出演依頼のメール
「うっそ! 『あさイチ』といったら国民的朝の情報番組だよ。もう一回、ちゃんと確かめた方が良くない?」
最初にNHKから出演依頼のメールが届いたと聞いたのは、伊東の日帰り温泉からの帰りの新宿湘南ラインの中。これは何かの間違いに違いないと思わずわが耳を疑ったわよ。

それが間違いでも行き違いでも勘違いでもないとわかり、とうとう9月21日(水)の放送日を迎えたというわけ。
しかしよくよく振り返ってみると雑誌のライターを生業にして44年。テレビとは本当に縁がなかったのよね。私の書いたエッセイを読んで企画書を持ってきてくれた制作会社もあったし、そうそう、今はなき『笑っていいとも!』からも出演を打診されたことがあったのよ。
だけどどうしたことか企画の段階でつぶれてしまい、まあ、縁がないものは仕方がない。私は私の道をゆくわ、と“けもの道”を分け入っていたはずなのに、なぜか人生の折々にNHK局だけは大小の縁ができるんだよね。
私の日頃の言動を知っている人からは、「なんで?」と首を傾げられるけれど、私だって不思議だわよ。ま、大小の縁の中で今回の出演は間違いなくメガトン級のご縁だけど、その話は後回しにして、と。
NHKドラマにエキストラ出演したことも
二度あることは三度あるというけれど、私が『半径5メートル』というNHKのドラマのモデル(?)になったのは去年の春のこと。(?)なのは、制作にあたって取材を受けた女性週刊誌のライターは私だけではないので、「そこはくれぐれも誤解がないように」と念を押されているの。

それでも自分の書いた記事を永作博美さん扮する”オバハン記者”がリメイクしてくださったのは、どれだけ誇らしいか。その時は最終回にちょろっとだけエキストラとして出演させていただいたものだから、SNSで自ら大拡散したわよ。
さて、時をさかのぼることさらに42年。当時私は23歳の駆け出しのライターで、仕事といえば男性週刊誌に女の子の下ネタ話を書いたり、今は日本を代表する大企業になった警備会社の広報誌のリライトをして、やっと風呂なしアパートの暮らしが成り立つかどうか。それで地元の居酒屋でアルバイトを始めたとたん、半年後に結婚することになった夫(当時31歳)と知り合ったの。その夫がNHKの外郭団体の職員だったのよ。

夫との結婚生活はいいこともあったし、4年後には離婚したので我慢のできないこともあったけれど、65歳の今となればどうでもいいし、昔は気づかなかった私の不徳もよくわかるしね。
著書がプロデューサーの目に留まり…
さてさて今回の『あさイチ』出演だけど、昨年秋に出版した私と漫画家の有田リリコさんの共著『で、やせたの?』が、NHKのプロデューサーU氏の目に留まったことがきっかけ。と、事前に聞いてもピンとこなかったけれど、「いや、ほんと面白い本で」と、U氏は付箋いっぱいの自署を手にしてスタジオでお会いして、初めて腑に落ちたんだけどね。
『あさイチ』って初めてのテレビ出演って、その道の“権威“が出演するじゃない? 私がその“権威“になったわけよ。どんな権威かというと、ダイエット失敗の権威(笑)。

『で、やせたの?』は私が『DIETポストセブン』での連載や、17才から始めた数々のダイエット体験と、その時々に流行ったダイエット法を、有田リリコさんの楽しい漫画と共に綴った本なんだけどね。そういえば「こうすれば痩せます」という本はうなるほどあっても、「やっては見たけど、結果みんなリバウンド」を一冊まとめた本はこれまでなかったのよね。
それだけにたいした注目も集まらず、それゃそうか、と納得し始めていたところに、ドカーン!と今回の話(笑い)。
用意していた服2着が却下!
で、出演にあたってメイクはNHKのメイク室でしてくれるけれど、洋服は自前。「ストライプは画像が乱れるのでまずいんですけど、ほかは特に制限はありません」と打ち合わせにいらしたディレクター女性から告げられたの。

それを聞いたときから毎日、頭の半分以上が「何を着るか」で占められて、結果、これでもない、あれはどうかと、不安の分だけ買いに買った。で、最終的に決めたのがオレンジのニットカーディガンとベージュのカットソー。ボトムはテロンとした素材の幅広のパンツ。あと、友人のYちゃんが送ってくれた深紅のチュニックを抑えにもっていったわけ。
ところがその2着が却下されたのよ。前日、スタジオでのリハーサルというか、打ち合わせの時に、美術担当の方から「背景とかぶるからオレンジとベージュは避けてくださいねー」と言われて、オレンジのニットを背景と合わせたら色味までいっしょ。「じゃ、これでは?」と深紅のチュニックを合わせたらごちゃごちゃ度は増すばかり。

「いま着ている紫のブラウスがいいじゃないですか? すごくお顔が映えますよ」と美術の人がしきりにすすめてくれて決定したんだけどね。翌日、本番前にゲストの友近さんの楽屋にご挨拶に行ったら、ウソッ! 友近さんも全く同じトーンの紫のブラウスではないの! そしたら、「あ、私はかまいませんよ」と友近さんは即答してくださって一件落着。
博多華丸、大吉の朝ドラ受けの直前姿
そうそう、『あさイチ』といえば出だしの朝ドラ受けが有名だけど、本当に本番直前まで、それこそスタジオのスタッフ全員で朝ドラを見ているのよね。「10分前!」「5分前!」とフロアディレクター氏が刻々と時間を告げる中、「ほうほう」とか「あはは」とテレビ画面に釘付けになっている博多華丸、大吉さんと友近さん。私も一緒になって朝ドラに釘付けの顔をしてみたけど、正直、心臓バクバクでそれどころじゃないって。

いよいよ、番組スタート! 局アナの石井隆広さんから「数々のダイエットを経験していらしたライター歴44年のオバ記者こと野原広子さん」と紹介された私が何を話したかというと、「ダイエットとはひとり暮らしの私のお友達。ダイエットをしている間、全く寂しくないのは、これを食べろ、これはやめとおけという正しい自分と、どうでもいいんじゃね?というクーダラの自分がいつでも賑やかな会話をしている状態」ということ。


20年前に流行った『ビリーズブートキャンプ』を紹介のシーンでは、「私も入隊したけれど、ビデオの中でビリーさんがひとりの女性ばかりに指導するのが気になって、早々に脱走した」とか、「3年前にビリーさんから個人レッスンを受けたときはすごく優しくてチャーミングで思わず触らせていただいちゃった! ウフッ!」とか。

そんな話も司会の博多華丸、大吉さんやゲストの友近さん。鈴木奈穂子アナと進行役の石井隆弘アナがふんわりと引き出してくださるから話せたんでね。皆さんの話芸とお人柄といったら、身近に接してファンにならない人っているかしら。
というわけでまだ夢の中にいるようよ。朝、目が覚めるたびに、『あさイチ』であの日、あたたかな目でフォローして下った皆さまの顔を見るたびに、私の出演は幻だったのかしらと、しばし天井を見上げてしまうのでした。
◆ライター・オバ記者(野原広子)

1957年生まれ、茨城県出身。体当たり取材が人気のライター。これまで、さまざまなダイエット企画にチャレンジしたほか、富士登山、AKB48なりきりや、『キングオブコント』に出場したことも。バラエティー番組『人生が変わる1分間の深イイ話』(日本テレビ系)に出演したこともある。昨年10月、自らのダイエット経験について綴った『まんがでもわかる人生ダイエット図鑑 で、やせたの?』を出版。