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『風のエオリア』で完全に恋に落ちた…徳永英明の「歌いながら泣いているような」歌声が持つ不思議な響き

徳永の歌う『時代』を「いいわねえ」と繰り返し聴く母

徳永英明さんの活動で、もう一つ忘れてはならないのは、カバーアルバム『VOCALIST』シリーズ。女性歌手やガールズバンドの楽曲のカバー、という企画を思いついたのがそもそも素晴らしい!

私がこのアルバムを知ったのは、CDなどめったに買わない母がきっかけであった。「徳永英明さんの『時代』が入っているアルバムを買ってこい」と指令が下ったのである。

そして私も一緒に聴いてハマり、親子で新作が出れば毎回購入することになった。ちなみに、6枚すべての中で私のベストワンを問われたならば、『VOCALIST 3』収録の『やさしいキスをして』と答えよう! ザリザリと砂時計の砂粒のように、心に落ちて溜まっていく感動と追憶よ……。破壊力がすごすぎて、夜寝る前は聴けないけれど。

徳永さんがカバーに着手したのは、2001年に大病を患い「僕の歌う言葉とメロディがその人のプラスアルファの命になったらいいな」と思うようになったのがきっかけだったと、2007年『中居正広の金曜日のスマたちへ』(TBS)で語っていた。そして、きっとその通り、その美しい声で紡ぐ時代に愛された歌たちは、誰かの「命」になっている。慣れない手でCDをプレイヤーに置き、『時代』を、「いいわねえ、いいわねえ」と聴いていた、うちの母もその一人だろう。

女性アーティストの楽曲を多数カバー(写真は2006年、Ph/SHOGAKUKAN)
写真7枚

徳永英明さんの声は水を吸い込んだ和紙のように、心にひたひたとくっついてくる。時には沁みすぎてイタタッなんてこともあるけれど、それもクセになる。

4月1日からは約3年ぶりの全国ツアー「ALL BEST 2」が始まるという。参戦する方、ハンカチが5枚くらい必要かも!

◆ライター・田中稲

田中稲
ライター・田中稲さん
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1969年生まれ。昭和歌謡・ドラマ、アイドル、世代研究を中心に執筆している。著書に『昭和歌謡 出る単 1008語』(誠文堂新光社)、『そろそろ日本の全世代についてまとめておこうか。』(青月社)がある。大阪の編集プロダクション・オフィステイクオーに所属し、『刑事ドラマ・ミステリーがよくわかる警察入門』(実業之日本社)など多数に執筆参加。他、ネットメディアへの寄稿多数。現在、CREA WEBで「勝手に再ブーム」を連載中。https://twitter.com/ine_tanaka

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