四半世紀前から「春のパンまつり」の顔に
さて、春が来ると松さんを思い出すのは、もう一つ「ヤマザキ春のパンまつり」のイメージも大きいだろう。松さんが山崎製パンのCMキャラクターになったのは1994年から。そしてパンまつりCMに参加したのは1998年から。25年間、2月末から4月末まで行われるパンまつりを松たか子さんにお知らせされているのだ。彼女を見ると「いやー、スプリング・ハズ・カム!」と思うのも当然の長さ! しかもこの「ヤマザキ春のパンまつり」自体、非常に根強い人気を誇っているという。
失礼ながら、キャンペーンの景品はなんの変哲もない白い皿である。なぜここまで人気があるのだろう。シンプルだから使いやすいのか。それとも単価的にキャンペーン的に乗りやすいからだろうか……。
気になって調べてみると、この皿、食器としてレベルがとても高いのだそうだ。高級レストランも採用している「アルク社」製品で、しかもパンまつりのためのオリジナルデザイン。一見陶器に見えるが耐熱性の強化ガラスで、ものっすごく頑丈だという。電子レンジでチンもOK。なるほど、長年愛されるには理由があったのだ。私も今年は参加しよう。間に合うか!?
「変化を受け入れる自立感」が強く聴こえる松の歌
白い皿の魅力は、潔いほど飾りを取り除いた美しさと強さ。まさに松さんとリンクするではないか。歌、CM、演技。どれをとっても彼女のイメージは「上質」である。華美ではなく、ありのままの素材をピカピカに磨いている、そんな感じだ。
彼女の歌には春や桜のほかにも、風、夢、ひとりといった、ふんわりと切ない言葉も多く登場する。けれど、「流され消えていく悲しさ」より「変化を受け入れる自立感」が強く聴こえてくる。凛とした姿勢で、季節の巡りを感じ、進むべきほうを見ている。そんな覚悟が決まった美しさを感じるのだ。
儚さが、こんなにポジティブに伝わってくる佇まいや声を持っている人はなかなかいない。
さあ、どんと来い、春。私も彼女の歌を聴き、揺れず新しい季節を迎えるぞ。
◆ライター・田中稲
1969年生まれ。昭和歌謡・ドラマ、アイドル、世代研究を中心に執筆している。著書に『昭和歌謡 出る単 1008語』(誠文堂新光社)、『そろそろ日本の全世代についてまとめておこうか。』(青月社)がある。大阪の編集プロダクション・オフィステイクオーに所属し、『刑事ドラマ・ミステリーがよくわかる警察入門』(実業之日本社)など多数に執筆参加。他、ネットメディアへの寄稿多数。現在、CREA WEBで「勝手に再ブーム」を連載中。https://twitter.com/ine_tanaka