
ライター歴30年を超えるベテランのオバ記者こと野原広子(65歳)。昨年、母の死、自身の大病などを経験。そして最近は心臓にも不安を抱えるようになった。考え始めたのは「終活」――。さて何から手をつけたのか。オバ記者が綴る。
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「母ちゃんはもうこの世にいない」
3月は私と母ちゃんの生まれ月で、母ちゃんが昨年亡くなった月。そのせいかどうか、落ち着きが悪いというか、1年中でいちばん心身共にざわつくんだわ。そのさ中のお彼岸に日帰りでお墓参りに行ってきた私。同行した弟は命日の前々日にお墓参りにきたそうな。

「『あのがぎめ、きやがんね(あの娘は来ないんだな)』って母ちゃん、怒ってたんじゃね?」と言うと、弟は「だな。言うべな」って。そんな話をしながら墓石に手を合わせて、背後の芽吹き始めたケヤキの木を見ていたら、ああ、そうか。母ちゃんはもうこの世にいないんだなと、いまさらだけど実感が湧いてきた。


心臓の持病がまたうずきだした
と、同時に、そうか、次は私も母ちゃんの行ったところにいくのか、というのがスッと腑に落ちたんだわ。というのも、ちょっとだけ身に覚えがあるからなのよ。
「卵巣がんの疑い」の騒ぎで自分でも忘れそうになっていたけど、心房細動と心臓弁膜症の持病がまたうずきだしたの。ほんと、おかしな話よね。婦人科の手術でのた打ちまわっていたときはまったく心臓は異常なし。それが何、婦人科のほうが「境界悪性腫瘍」で決着したらまたぞろ心臓に異変が現れだしたのよ。

私の持病の心房細動はざっくり言うと心臓が不規則に震える病気で、発作が起きるとその分、心臓が疲労する。だから発作が起きたら「1秒でも早く発作止めの薬(頓服)を飲んでください」と、私は循環器が専門のかかりつけ医から言われている。

その薬の減りが最近、激しいのよ。先日、旅先で発作を起こしてからはどこに行くにも持ち歩いている。で、どんな時に発作を起こすかというと、理由は3つで飲酒と睡眠不足と長湯。最近、お酒はめったに飲まないからいいとしても、睡眠不足と長湯が重なるとてきめんなんだよね。
近所の銭湯で突然の発作
先日も近所の銭湯で80代のおばあちゃんに話しかけられて話し込んでたら、つい長くなったのね。湯上がりに左側の背中が重たくなって、そのうち息苦しくなって動けなくなったの。
幸い、私の行きつけの銭湯は大きな休憩所があるのでそこで水をがぶ飲みしながら様子をみていたら、良くもならない代わり好転もしない。そうなって初めて「これ、ヤバいわ」と警戒警報が鳴って薬を口の中に放り込んだわけ。逆に言えばそうならないと「薬!」とならないんだよね。ちょっと息苦しい、くらいなら階段を登っただけでもそうなるもの。
発作にまだ慣れていないこともあるけどよくいう“正常値バイアス”っていうやつ? どこかで「今のは心房細動の発作ではない」と自分で思いたいわけ。ちょっと休めばいつもの通りになる、なんでもないと思いたいわけよ。

でもなぁ。それもいつまでも続くもんじゃないよなぁ、と、朝、夢うつつの中で思うわけよ。若いときはそれなりに“男出入り”があって、40代から50代は男の代わりに訳ありの女が転がり込んできて、19年いっしょにいたオス猫もいたけど基本はお気楽なひとり暮らし。寝てよし、起きてよし。ご飯を食べてよし、食べなくてもよし。こんな明け暮れもいつまでも続くものじゃないんだよね。当たり前だけど。
「身辺整理」を考え始めた
そんな来し方行く末をグダグダ考えていたら、なんだか急に、身辺整理をはじめるなら早いほうがいいかもと思えてきた。

で、何をするか。むっくり起き上がってベッドの周辺に散らばっている洋服や本を片づけていたら、終活の最初の一歩は“捨て活”か? と思ったけれどこれは洗濯ものを拾い上げて何枚かのセーターを畳んだらイヤになった。
で、まあ、身辺整理は徐々にやるとして、私にはもうひとつすごく気がかりなことがあるの。それは私が急に亡くなったときの身の始末なんだよね。夜中に心臓発作や脳梗塞を起こしたときに救急車を呼べるかどうか。そこからして運まかせだけど、問題はその後よ。

亡くなったらどうするか。両親と年子の弟が他界した今、頼れる親族は末の弟夫婦しかいないけれど、金銭的な迷惑だけは何があってもかけられないし、かけたくないんだわ。が、私の貯金残高は3か月分の生活費だけ。さあ、待ったなし、どうする!
とにかく出来ることから始めようと、私は洗面所で冷たい水を顔に浴びせて、鏡に映ったもうすぐ66才になる自分の顔をキッと睨みつけたのでした。
◆ライター・オバ記者(野原広子)

1957年生まれ、茨城県出身。体当たり取材が人気のライター。これまで、さまざまなダイエット企画にチャレンジしたほか、富士登山、AKB48なりきりや、『キングオブコント』に出場したことも。バラエティー番組『人生が変わる1分間の深イイ話』(日本テレビ系)に出演したこともある。昨年10月、自らのダイエット経験について綴った『まんがでもわかる人生ダイエット図鑑 で、やせたの?』を出版。
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