
猫ほどではないですが、犬も最近では大半が室内飼いされるようになってきました。室内飼いとなると、飼い主さんが頭を悩ませるのがトイレのしつけ。「トイレとは異なる場所でオシッコをする」「犬が自分のウンチを食べる」などの悩みを抱えている人も多いようです。獣医師の山本昌彦さんにしつけのポイントなどを聞きました。
最初は大きなトイレで始めて、徐々に小さく
犬のトイレ(排泄行動)にまつわる悩み。まず、犬にオシッコやウンチをトイレですることを覚えてもらうにはどうしたらいいでしょう。
「最初は、サークル内いっぱいにペットシーツを敷き詰める。そうすると、そのどこかで排泄することになるので、そしたら褒めてあげる。シーツを使われない位置のものから取り除いて減らしていき、最終的にシーツ1枚分のスペースまでトイレを小さくできるといいですね」(山本さん・以下同)
犬がサークル内のどこをトイレにするか、自分で選ぶやり方です。ただ、飼い主さんの意向とは異なる場所を犬が選ぶ可能性もあるので、そのときはトイレの位置を何日も時間をかけて少しずつずらしていき、理想の位置を目指します。飼い主さんが設置したかった場所にトイレが到達すれば、トレーニングはいったん完了です。
覚えたはずが、また失敗し始めることも
ところが、一度、トイレで排泄することを覚えたはずなのに「トイレとは別の場所でするようになってしまった」というのもよく聞く話です。どうしたらいいのでしょうか。
「いろいろ原因はあると思いますが、1つはトイレでオシッコやウンチをしたいと犬が思えていないのかもしれません。最初のうちはトイレで用を足すと飼い主さんからすごく褒めてもらえたのに、トレーニングが完了したという判断で飼い主さんが褒めなくなると、犬的にはモチベーションが微妙になってきます。しつけ通りにできたことは、特に子犬のうちは何回目でも飽きずに褒めてあげてください」

遊びに夢中になっていて失敗することも
トイレ失敗の原因は他にもあります。例えば、遊びに夢中になっていて、トイレに間に合わなかったり、場所が分からなくなったりするケース。
「そういうときは、トイレ外で排泄したそうにソワソワし出したり、実際に排泄し始めたりしたときは、抱っこしてトイレに運んであげてください。トイレに着いたら、褒めてあげるのを忘れずに。排泄しやすいタイミングがあると思うので、その子のタイミングが分かってきたら、飼い主さんが見計らって連れて行ってあげてもいいですね。
それから犬によっては、トイレを室内のどの場所だとか、見た目だとかではなく、だいたいの場所と足の裏に感じるペットシーツの肌触りで認識している子もいるので、そういう子の場合は、トイレの習慣が完全にでき上がるまでは、トイレシーツに似た感触のマットやカーペットをいったん外したり遠ざけたりしたほうがいいですね」
トイレの失敗は叱ってはいけない
一度は覚えたトイレの失敗で、飼い主さんの中には「嫌がらせなのかな」と感じる人もいるようです。
「嫌がらせのつもりはないんでしょうけれど、先ほどお話したように、褒めてくれなくなったから、じゃあいいやと思っているのかもしれません。もう一つ、トイレの設置場所が犬的にはいまいち気に入っていない可能性もありますね。そういう場合は、犬が気に入る場所にトイレをいったん戻して、それからまた時間をかけてずらしていくか、飼い主さんが妥協するか検討しましょう」

気が付いたらトイレ外にウンチやオシッコがしてあった場合は?
犬がトイレ外で排泄している場面を目撃したら、すぐトイレに連れて行くべきということでしたが、気が付いたらトイレ外にウンチやオシッコがしてあった場合はどうでしょうか。
「どちらの場合も、犬のことは叱らないでください。犬は『トイレ以外の場所でしたから叱られた』とは理解できません。『家の中でしたから叱られた』と思って散歩に行かないと排泄できない子になってしまうかもしれません。飼い主さんに排泄物を見られて叱られたから、今度から隠してしまえということで、ウンチを食べてしまうこともあります。叱ってもいいことはありません」
犬の食糞、健康には害がないけれど……
愛犬が自分のウンチを食べてしまう、食糞(ふん)のことでお悩みの飼い主さんも実は多いようです。食糞は健康被害につながったりしないのでしょうか。
「健康上は問題ありません。お母さん犬が子犬のお尻をなめて排泄を促してやったりしますし、お尻をなめたりウンチを食べたりすることは、犬にとっては汚いことや悪いことではないんです。
ただ、飼い主さんにしたら、さっきウンチを食べたその口で飼い主さんの顔をなめに来られるとなかなかつらいものがありますよね。シンプルに臭いですし。また、お腹に寄生虫がいる場合には、ウンチの中にその卵などが排泄され、食糞でまたお腹に戻る…というケースもあるので注意が必要です」
やめさせるのは食事量を見直すことも効果的
犬の健康には害がないとしても、なんとかやめてもらいたい行動です。やめさせる方法はないのでしょうか。

「ウンチをなるべくすぐ片付けることと、食事量を見直すことでしょうか。今はペットフードも進化して、犬にとって魅力的な香りがするので、それが排泄された後も残っていて、お腹が空いているとつい食べてしまうのだと考えられます。市販のペットフードは与える量の目安がパッケージに記載されているので、それを参考に適切な量をあげてください」
フードを手作りする場合や、自分で計算してみたい場合は、まず安静時のエネルギー要求量(kcal)を「体重(kg)×30+70」の計算式で求め、それに係数1.6を掛けて1日あたりのエネルギー要求量(kcal)を求めましょう。ただし、係数は年齢や筋肉量などによって変わるので、かかりつけの獣医師に相談したほうが正確です。
去勢手術をするなら生後6か月をメドに
愛犬がソファーやテーブルの脚など、ところ構わずマーキング行動を取ってしまうというお悩みも多いようです。
「これも本能なので制御するのは難しいですが、去勢手術をするとそういった行動は無くなったり少なくなると考えます。ただ、何度もマーキングを繰り返した子は、去勢手術をした後も、習慣としてマーキング行動が残ってしまうことがあります。去勢手術をお考えの場合は、生後6か月ぐらいのマーキング行動が出始めるタイミングで手術できるといいですね」
◆教えてくれたのは:獣医師・山本昌彦さん

獣医師。アニコム先進医療研究所(本社・東京都新宿区)病院運営部長。東京農工大学獣医学科卒業(獣医内科学研究室)。動物病院、アクサ損害保険勤務を経て、現職へ従事。https://www.anicom-sompo.co.jp/
取材・文/赤坂麻実
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