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坂口健太郎の持つ圧倒的な透明感 話題の映画『サイド バイ サイド 隣にいる人』でまたも新境地

『サイド バイ サイド』場面写真
圧倒的な透明感を見せる(C)2023『サイド バイ サイド』製作委員会
写真9枚

坂口健太郎さん(31歳)が主演を務めた映画『サイド バイ サイド 隣にいる人』が4月14日より公開中です。齋藤飛鳥さん、市川実日子さんらを共演に迎えた本作は、そこに存在しない“誰かの想い”が見える青年と人々の交流を描いたもの。この映画を観る者に特別な癒しを与える、そんな神秘的な作品に仕上がっています。本作の見どころや坂口さんらの演技について、映画や演劇に詳しいライターの折田侑駿さんが解説します。

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特別な映画体験をもたらす作品

本作は、映画『世界の中心で、愛をさけぶ』(2004年)や『劇場』(2020年)、『窮鼠はチーズの夢を見る』(2020年)など数々の名作を手がけてきた行定勲監督が企画・プロデュースを担当し、3月に『ひとりぼっちじゃない』で劇場デビューを果たしたばかりの伊藤ちひろ監督によるオリジナル映画第2弾。

『サイド バイ サイド』場面写真ポスタービジュアル
(C)2023『サイド バイ サイド』製作委員会
写真9枚

美しい大自然を背景に、主演の坂口さん演じる不思議な力を持つ青年を中心とした人々の不思議な交流が描かれています。“リアル”と“ファンタジー”が交差する物語と映像と音響には伊藤監督ならではの美学が感じられ、劇場での鑑賞は特別な映画体験となることでしょう。

不思議な力を持つ青年が過ごす日々

主人公の未山(坂口)は、目の前に存在しないはずの“誰かの想い”が見える青年です。彼はこの不思議な力で、身体や精神の不調に悩まされる人々を癒やし、日々を穏やかに過ごしています。

恋人である看護師の詩織(市川)とその娘・美々(磯村アメリ)と暮らす未山はある日、自分の隣に“謎の男”の存在が見え始めます。

『サイド バイ サイド』場面写真
(C)2023『サイド バイ サイド』製作委員会
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これまでとはまったく異なる強い想いを感じた未山は、この想いをたどり、やがて行きついた東京で男本人と出会うことに。この男は未山に対して特別な感情を抱いていたのです。

さらに男は、未山のかつての恋人である莉子(齋藤)との間に起きていた“ある事件”の顛末について語ります。そして未山はもう2度と会うことはなかったかもしれない莉子と再会。自らの過去に向き合うことになるのです。いったい、未山とは何者なのでしょうか。

齋藤飛鳥に市川実日子、新鋭監督のもとに集った少数精鋭のキャスト陣

脚本家としていくつもの名作に携わってきた新鋭監督の作品とあって、この不思議な物語に配された俳優陣には個性あふれる面々が揃っています。

『サイド バイ サイド』場面写真
(C)2023『サイド バイ サイド』製作委員会
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本作のキーパーソンである未山のかつての恋人・莉子を演じるのは、『あの頃、君を追いかけた』(2018年)や『映像研には手を出すな!』(2020年)で主要キャストを務め、それぞれを話題作へと押し上げてきた齋藤さん。乃木坂46のメンバーであった彼女がスクリーンに登場するのは同グループを卒業して初めてのことで、彼女特有の佇まいには今後の俳優活動を期待せずにいられません。

『サイド バイ サイド』場面写真
(C)2023『サイド バイ サイド』製作委員会
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もう1人のキーパーソンである未山の現在の恋人・詩織を演じているのは市川さん。映画やドラマを愛する人々にとって彼女とは、もっとも信頼できる俳優なのではないでしょうか。その力は本作でも健在。飾らない自然体で静かな好演を刻み、私たちを魅了します。

『サイド バイ サイド』場面写真
(C)2023『サイド バイ サイド』製作委員会
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そのほか、未山の後輩であり東京でミュージシャンとして活躍する男を浅香航大さん、莉子の娘役を磯村アメリさん、未山と交流する人々を茅島成美さん、不破万作さん、津田寛治さん、さらには伊藤監督の前作で主演を務めたKing Gnuの井口理さんが演じています。

この少数精鋭のキャストを主演として率いているのが、坂口健太郎さんというわけです。

坂口健太郎=「国民的俳優」

坂口さんといえばすでに「国民的俳優」と呼んでも差し支えない存在ではないでしょうか。俳優デビュー作である『シャンティ デイズ 365日、幸せな呼吸』(2014年)の公開からまだ10年も経っていませんが、早くから頭角を現し、映画にドラマに舞台にと幅広い活動を展開してきました。

昨年は心優しい青年に扮した『余命10年』とサイコパスなヤクザ者を演じた『ヘルドッグス』という2作が公開され、その振れ幅の大きさが多くの観客を驚かせたものです。胆大心小で硬軟自在な演技を展開できる存在なのだと証明しました。

主演映画の公開が続く一方で、朝ドラでは『とと姉ちゃん』(2016年/NHK総合)、『おかえりモネ』(2021年/NHK総合)でヒロインと心を通わせるキーパーソンを演じ、大変な話題を集めた昨年の大河ドラマ『鎌倉殿の13人』(2022年/NHK総合)では北条泰時という重要なキャラクターを演じました。たったこれだけ坂口さんのキャリアを記しただけでも、 彼を「国民的俳優」だと断言できる証拠は十分でしょう。

作品の世界観をも司る新境地

そんな坂口さんですが、今回の『サイド バイ サイド 隣にいる人』ではまたも新境地に達しています。

『サイド バイ サイド』場面写真
(C)2023『サイド バイ サイド』製作委員会
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本作はとても不思議な作品で、人によっては“難解”なものだと映るかもしれません。“分かりやすさ”からはほど遠い映画だと思います。劇中にはこの映画固有の時間が流れていて、独特のリズムで物語は進行します。そのベースともなっているのが坂口さん演じる未山なのです。

映画公式サイトの監督のコメントに、“これは坂口健太郎さんの持つ圧倒的な透明感に魅了されてできた作品です。”とあります。つまりこれは、坂口さんありきの映画。優しくもどこか現実感を欠いた彼の表情と声は、そのまま本作の手触りに影響しています。

『サイド バイ サイド』場面写真
(C)2023『サイド バイ サイド』製作委員会
写真9枚

キャラクターを演じるだけでなく、作品の世界観をも司る――まさに俳優としての新境地でしょう。

この映画の時間の流れに全身を委ねて

さて、不思議な力を持つ未山とは何者なのでしょうか。『サイド バイ サイド 隣にいる人』といういろんな含みを持つタイトルは何を示しているのでしょうか。

本作は多くの観客の中に、いくつもの「?」を生じさせる作品だと思います。それについてぐるぐる考えてもいいし、「?」は「?」のままにしてもいいのではないかと筆者は思います。未山が不思議な力を持っているように、この映画は不思議な力を持っているのです。

先述しているように、劇中にはこの映画固有の時間が流れています。そんな時間の流れに全身を委ねてみてはいかがでしょう。きっと特別な映画体験になるはずです。

◆文筆家・折田侑駿

文筆家・折田侑駿さん
文筆家・折田侑駿さん
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1990年生まれ。映画や演劇、俳優、文学、服飾、酒場など幅広くカバーし、映画の劇場パンフレットに多数寄稿のほか、映画トーク番組「活弁シネマ倶楽部」ではMCを務めている。https://twitter.com/yshun

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