
ゴールデンウィークに突入し、コロナ禍以来の韓国旅行を楽しみにしている人もいるのではないでしょうか。そんな人にぜひお伝えしたい、旅行者でも使えるソウルでの割り勘方法があるんです。2023年1月よりソウルに留学中のライター田名部知子さんが50代ならではの視点で、めざましいスピードで変わりゆくソウルの様子を現地からリポート。最先端の支払い方法でスマートなソウル旅行を体感してみてはいかが?
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韓国には割り勘文化がない!?
3月3日付の経済Webメディア『KOREA WAVE』によると、今年1月のソウルへの日本人韓国客は前年同月比5657.3%増の6万6900人で、主要国で1位に。4月に入ってからは、私が普段使っている弘大(ホンデ)駅や新村(シンチョン)駅に日本人観光客が突然増え始めたので、「春休みが始まったんだな」と感じていたところです。
長年ソウルに通い続けてきた私が最近驚いたのは、食事の支払いがさらにスマートになったこと。韓国ドラマではよく、上司が部下を引き連れて焼肉を食べに行き、「今日は俺のおごりだ!」と気前よく支払っているシーンを見かけますよね。韓国にはもともと割り勘という概念がなく、友達同士のちょっとした飲み会でも誰かが全額を支払い、また次の回では違う誰かが支払うという、日本人からするとすごく不思議な支払い文化があるのです。

職場の食事会では年上の人がすべて支払い、同年代の場合は誘った人が支払ったり、「今回はあなたが払ってくれたから、次回は私が払うわね」となります。恋人同士の場合は一般的に男性が食事を支払い、女性は「それなら私がお茶代を…」となることが多いようです。誰かが一度に会計をするのが基本なので、日本の感覚で割り勘を提案すると、ケチな人だと思われてしまうのも事実なのです。
クレジットカードで割り勘できる!
そんな韓国独特の支払い文化にも、新しい風が吹いています。ある日、日本の割り勘文化にも精通している韓国人の50代の女友達と2人で食事をした時のこと。会計時に彼女が私に「クレジットカードを出して」と言うので、「今日は私が払うんだな」と思っていたら、彼女もまた自分のカードを出したのです。そして店員さんに「エヌブネイル(N分の1)で」と言いました。店員さんは黙って2枚のカードを受け取り、私がぽかんとしていると、店員さんが2枚のレシートを持って戻ってきました。なんとクレジットカードで割り勘ができるというのです。これには本当に驚きました。日本でもクレジットカードで割り勘ができるということはあとで調べて知ったのですが、あまり浸透していないですし、飲食店の手間がかなり増えてしまうので歓迎されないでしょう。

「N分の1」とは会計を人数で割ること、つまり割り勘のことで、複数人で食事をしたり遊びに出かけたりする時、全部の料金をその場の人数で割ってそれぞれが支払う方法です。同様に割り勘を表す言葉として、「トチペイ」(Dutch pay)という表現もあります。近年の不安定な韓国の経済状況下で若者の間で割り勘の風習が広まり、7~8年ぐらい前からは割り勘をクレジットカードでも対応してもらえる新習慣ができたようです。
ある時、日本から遊びに来た友人たちと4人で食事に行ったのですが、その時の会計も4人で「N分の1」となりました。その時は1人が現金で払いたいと言い出して、残り3人がカードで、1人が現金払いでも OK となったのです。さすがにこのパターンは韓国語が話せないと頼めない内容ですが、会計時に人数分のカードを出して「エヌブネイル」といえば、普通は通じるはずです。

この方法を上手に使えば、日本人旅行者が割り勘時に手持ちの少ないウォンを、支払ってくれた人に渡さなければいけない不安もなくなりますし、ウォンへ換金する金額も最低限で済むようになります。このシステムを知って2か月、まだ一度もお店側に断られたり、嫌な顔をされたりしたことはありません。とはいえ少額のランチなどでのカードによる割り勘は、やはりお店に手間をかけさせて申し訳ないので、夕食時などに使用するのがスマートです。また私はこの方法をソウルでしか試していないので、地方都市については把握しきれていません。
ソウルミセスは「エヌブネイル」にどう対応?
この「エヌブネイル」、10~20代の間ではかなり浸透しているようなのですが、中高年にはまだまだ抵抗があるようです。40代後半女性の意見を聞いてみると、「私達の年代だと割り勘自体に、ちょっと抵抗があります。昔からの友人に会う時なども、基本、誘った人が食事代を払ったり、今日はいいことがあったから私が払うね、なんて感じが普通。大人数での会食の場合は誰かがまとめてカードで支払って、あとからカカオペイかネットバンクで送金します。全員でカードを出して割り勘にしてもらうというやり方はさらに抵抗があるので、やったことはないですね」という回答でした。

日本のPayPayやLINE Payのように韓国では「カカオペイ」 を利用している人が多く、使える店舗も多くてとても便利です(※韓国の携帯番号がないと使えません)。登録のある相手と簡単に送金しあうことができるので、割り勘にも便利。モバイルバンキングも送金手数料がかからないか、かかってもとても安いので、払ってくれた人の口座にその場で割り勘の金額を送金することも多いです。韓国では、日本のようにテーブルの上に現金を出して精算をすることはまずありません。

余談ですが、日本にはない 店舗での支払い方法として、「ケジャイチェ/口座振込」も盛んに使われています。韓国は日本以上にクレジットカード大国なので、ガム 1個からクレジット払い可能と言われていますが、それでもカードで支払うのがちょっとはばかられる屋台や市場など、少額の支払い相手に多用されているのが「ケジャイチェ/口座振込」で、自分の銀行から店舗の銀行にその場で直接振り込みます。市場などで買い物をする際、お店の壁に銀行情報が書かれているのを見ることができますし、もちろん「カカオペイ」で支払える場合も多いです。
留学生は無条件に割り勘
私が通っている大学の語学堂のクラスメ-トとは20~30歳ほどの年の差がありますが、クラスランチに行く時などは、“無職の留学生”として堂々と割り勘にしてもらっています(笑い)。 先日も10人でランチに行きましたが、会計はそれぞれがカードを出して順番に支払っていく「エヌブネイル」でした。

韓国に来てから実際、毎日の生活の中で食事をおごってもらったりお茶をおごってもらったり、また自分がおごったりする回数は圧倒的に増えました。「アニョハセヨ」の挨拶の次に、「ご飯、食べた?」と聞くのが日常の韓国。日本だと「元気だった?」と同じようなニュアンスですが、こんな挨拶同様、食事をおごったりおごられたりを繰り越しながら、相手との距離をどんどん縮めていくのが食事を大切にする韓国らしい文化だなと感じています。
◆ライター・田名部知子

『冬のソナタ』の時代からK-POP、韓国ドラマを追いかけるオタク記者。女性週刊誌やエンタメ誌を中心に執筆し、取材やプライベートで渡韓回数は100回超え。韓国の食や文化についても発信中。2023年1月、韓国ソウルで留学生活と人生初めての一人暮らしをスタート。大学が集まる新村(シンチョン)にある西江(ソガン)大学の語学堂に通う。twitter.com/t7joshi