
いよいよ夏到来。熱中症対策はもちろん欠かせませんが、それ以外にも犬や猫を飼っている人が夏場に気を付けるべきことがあります。獣医師の山本昌彦さんにまとめて解説してもらいました。
水は大量に飲ませなくてOK
暑くなってくると、テレビから「こまめな水分補給を心掛けましょう」といったアドバイスがよく聞こえてきます。犬や猫も、暑い日はたくさん水を飲んだほうがいいのでしょうか。実は、暑いからといって水を過剰に与えるのも考えものだと、山本さんは言います。
「水入れに清潔な水を絶やさないようにしておけばよく、無理に飲ませる必要はありません。あまり水分を取りすぎると、今度は胃酸が薄まって、食べた物を消化する能力が落ちてしまい、消化不良になってしまいます」(山本さん・以下同)
“いつもより少し多め”を意識
食べ物の消化が通常通りに進まないと、胃もたれを起こして吐いてしまったり、下痢をしたりと、苦しい思いをすることになります。脱水症状になるのを恐れるあまり、水を考えなしにどんどん与えるのではなく、フードをウェットタイプに変更するなど、“いつもより少し多め”を意識することが大切です。

「犬の場合は散歩中もこまめに水を飲ませてあげてください。ただ、飼い主さんが日頃飲んでいるミネラルウォーターを分け与えるのはやめておいたほうがいいです。人間にはよくても犬や猫にはマグネシウムなどのミネラル分が過剰で、結石の原因になることがあります」
フードは“塩分いつも通り”、総量“いつも以下”
フードはいつも通りでいいのでしょうか。人間の場合、暑い日にスポーツや肉体労働をする人は塩タブレットなどで塩分補給に努めることがありますが――。
「犬や猫には必要ありません。犬も猫も人間に比べると汗腺が少なく、汗をかく量は多くない。人間と同じ感覚で夏場だからといって塩分を多く与えてしまうと過剰になって、心臓や腎臓に負担がかかってしまいます」
犬(去勢避妊手術済み)は体重5kgの場合で0.18g、猫は0.33gです。日本人は平均体重が男性約64kg、女性約53kgで塩分摂取量は男女とも1日6g未満が推奨されています。人間と比べると、犬や猫は体格差以上にもともと塩をあまり必要としない(またはそれほど受け入れない)体質であることが分かります。
フードをウェットタイプに切り替える
一方、食欲が落ちた場合や、水を飲む量が少ない場合に、フードをウェットタイプに切り替えるのは効果的な方法だと言います。
「ただし、ウェットタイプは傷みやすいので、食べ残したらそのままにしないですぐに下げてください。フードの全体量は、特に減らす必要はないですが、増やす時期でもないと思います。冬場は体温維持にカロリーを他の季節より多く消費しますが、夏場はそれがないので。普段通りかやや少ないぐらいが適量でしょうね」
夏の強い日光は浴びすぎると皮膚炎のリスクが
環境面は、熱中症や皮膚炎を予防する意味で紫外線対策が重要です。犬や猫には被毛がありますが、夏用に毛を短くカットしている場合や、もともと被毛や色素が薄い場合には、日光の影響を強く受けます。

「室内で飼っている猫でも、メラニン色素の薄い白猫などは、窓辺に長くいると日光皮膚炎になる可能性があります。日差しのきつい時間帯は愛猫が日向に行かないように行動範囲を制限したり、紫外線をカットする窓ガラス用フィルム、レースカーテンなどを利用したりして、注意してあげてください」
散歩はできれば朝か夜に
犬は散歩中が高リスクになります。散歩はできれば朝か夜に。夕方でもアスファルトの余熱で肉球を火傷することがあるので、なるべく日没から時間をおきたいところです。公園や遊歩道などでは土の上を歩いて、アスファルトやマンホールを避けると安心ですね。
フィラリアやノミ・ダニも最盛期に
蚊が多い季節なので、フィラリア症の予防もしっかり継続したいところです。
「フィラリア症は蚊によって媒介される感染症で、蚊が身の周りに増える夏場は本当に要注意です。予防薬を動物病院で処方してもらいましょう。犬の予防薬はおやつタイプや錠剤、皮膚に滴下するタイプ、注射薬などがあります。猫は滴下タイプになります」
ノミ・ダニも夏場は活発化するので特に注意が必要です。春先から、あるいは通年で、対策をされている飼い主さんも多いと思いますが(関連記事)、予防薬の服用あるいは塗布を忘れずに。1種類でフィラリアもノミ・ダニも予防できる薬もあるので、かかりつけ医に相談しましょう。

さらに、夏季ならではのこんな注意ポイントも。
「犬も猫も音に敏感な子は、打ち上げ花火や雷の音を怖がったりします。屋外で飼っている子もそういうときは家の中に入れて、窓やカーテンを閉めてなるべく音を遮断したり、一緒にいてあげたりするといいですね」
夏レジャー、熱中症や水難事故、動植物に注意
夏は飼い主さん家族が長期休暇に入ったりして、愛犬を連れてアウトドアを楽しむシーンも増える傾向に。ここでも、注意すべきポイントがあります。
「犬を連れて行く場合は自動車での移動が中心になると思いますが、車内で熱中症にならないように気を付けてあげてください。ちょっとの休憩でも、犬を車内に置き去りにしないこと。ケージやキャリーは内部に熱がこもるので、真夏は保冷材や保冷シートを活用したいですね」
山や海に到着したあとは、水の事故や他の動物に注意が必要です。夏は多くの動植物が活性化するので、ヘビやハチに攻撃されたり、毒を持ったカエルをかまってしまったりして、事故が起きる可能性があります。
「アジサイのつぼみ、ソテツの種、キョウチクトウ(全体)など、犬や猫が誤食すると中毒を引き起こす植物もあるので、誤って口にしないように気を付けなくてはいけません。また、バーベキューなどをしていると、飼い主さんもつい気が緩んで、犬がタマネギを誤食したり、熱を持った道具に触れて火傷したりしやすいです。どんなときも、愛するペットのことは気にかけてあげてください」
◆教えてくれたのは:獣医師・山本昌彦さん

獣医師。アニコム先進医療研究所(本社・東京都新宿区)病院運営部長。東京農工大学獣医学科卒業(獣医内科学研究室)。動物病院、アクサ損害保険勤務を経て、現職へ従事。https://www.anicom-sompo.co.jp/
取材・文/赤坂麻実
●犬の熱中症、応急処置は「まず体を冷やすこと」獣医師が解説する注意点&対応策