
猫の平均寿命は調査にもよりますがおよそ14~15歳。昔に比べると格段に長寿命化しています。一方で、7~8歳頃から老化が始まり、体力や身体の機能に衰えが見られるようになります。愛猫の生涯の後半を充実したものにするために、飼い主さんはどのようにお世話するといいでしょうか。獣医師の山本昌彦さんにうかがいました。
猫の平均寿命は年々延びる傾向
アニコム家庭どうぶつ白書によれば、ペット保険に加入していた猫の平均寿命は14.4歳(2020年度)。10年前の13.9歳に比べて延びています。猫の年の取り方は、人間でいうと1年で18歳、2年で24歳、以降は1年で4歳ずつ加齢という定説があります。
したがって、猫は7~8歳で人間でいうアラフィフに。体力や筋力が落ちたり、病気にかかりやすくなったりと、変化が現れます。ペット保険業界でも、7~8歳を境に、それより上の犬や猫に対してシニア向け商品を用意している会社が多いようです。
せっかく長く一緒に暮らせるようになったのですから、愛猫にはいくつになっても元気で楽しくいてほしいものです。飼っている猫が年を取ったとき、飼い主さんはフードの与え方や生活環境をどう変えていくべきでしょうか。
低カロリーで消化しやすいシニア用フードに切り替え
山本さんは「フードは7歳頃から高齢猫用のものに切り替えてください」と言います。猫も年を取ると活動量が落ちるので、従来と同じフードを食べて同じだけのカロリーを摂取していると肥満になりがち。また、食欲も低下していくので、それに対応したフードが必要です。

一般に、市販のシニア用キャットフードは低カロリーで、シニアで病気になりやすい心臓や腎臓に負担のかかるリンやナトリウムといった物質の含有量が少なく作られています。また、消化吸収がしやすかったり、食欲がわく香りが強めについていたり、少量しか食べられなくてもたんぱく質などの栄養が取れるように、単位当たりの栄養量が多いものもあります。
無理のない水分補給のためにも
「それまでドライフードをあげていた猫でも、シニアになったら缶詰めやレトルトパウチなどのウェットタイプに切り替える手もありますね。というのは、猫はもともと犬ほど水を飲まない動物で、だから腎臓の疾患にかかりやすいのですが、シニアになって活発でなくなるとなおのこと水を飲む量が減ってしまいます。無理なく水分補給をさせるために、水分を多く含んだフードを与えるのは有効な手段です」(山本さん・以下同)
毛づくろいや爪とぎを飼い主さんがフォロー
猫も高齢になって筋力や体力が落ちると、それまで自分でしていたことをしなくなる場合があるそうです。
「年を取って筋力が落ちたり、あちこちの関節が痛くなったりすると、若い頃にはなんでもなかった動きも取りにくくなってきます。例えば、毛づくろいを若い頃ほどしなくなる猫がいます。そうした場合は、ぜひ飼い主さんがフォローしてあげてください」
皮膚や毛を清潔に保つ方法がおすすめ
具体的には、ブラッシングをしたり、ドライシャンプーを使って、皮膚や毛を清潔に保つ方法がおすすめだといいます。

「ドライではない普通のシャンプーを使ってシャワーで流すやり方は、ストレスに感じる猫も多いですし、シニア猫の場合は疲れてしまうと思うので、あまりおすすめできません」
爪とぎも頻繁にはしなくなる猫がいるのだとか。猫の爪も伸びてくると内側へ曲がっていわゆる“巻き爪”になって肉球に刺さったりしてしまい、痛みが出たり傷ができたりします。これもやはり、飼い主さんが爪とぎに代わるお手入れをしてあげる必要があるでしょう。
「猫が室内を歩くときに爪が床に触れてカチャカチャ音がするようなら、爪の切りどきです。ただし、爪の内側には血管が通っているので、深爪はしないように。長くなった分だけをこまめに切るようにしてください。難しければ月に1回程度、健康診断に行きがてら、動物病院で切ってもらうといいと思います」
キャットタワーやベッドを見直してみる
愛猫の生活環境も年齢に応じたものに変えていきましょう。屋外で飼っている場合でも、高齢になったら、なるべく室内飼いに移行すると安心です。寒さがこたえるようになりますし、街中で遭遇するさまざまな危険から身を守ろうにも、機敏には動けなくなっているからです。室内の生活環境については、キャットタワーなどの大型遊具を見直しましょう。
「そもそもキャットタワーを使わなくなる子もいますが、中には登ろうとして失敗する子、登ったはいいけれど下りるときに失敗する子もいて、けがのリスクが若い頃より高くなります。高さを調節したり、背の低いものに交換したりできるとベターです」
ベッドをこれまで以上に快適なものに
また、1日の中で眠っている時間が長くなるので、ベッドをこれまで以上に快適なものに置き換えると、猫のQOLを高めることができます。

「高さが抑えてあってアプローチしやすいものや、横になったときに体にかかる圧力を分散する仕組みを持ったものなど、シニア向けに開発されたベッドの導入を考えてもいいでしょう」
環境の変化は少ないに越したことはない
遊具やベッドの見直しを提案しましたが、一方で、猫は環境の変化を嫌う動物なので、変えずに済むところはなるべく変えないのも、シニア猫のQOLにとって大切なことです。
「ストレスになるような変化は極力避けましょう。新しく後輩猫を迎えるのは、なるべくなら先輩猫がまだ若いうちがいいですね。シニアになってからだと、ストレスに対する抵抗力も落ちている場合があるので。お引っ越しも同じ理由で、もしも計画できるなら、猫を飼い始める前か、飼い猫の若いうちがいいです。シニア猫を新しい環境に住まわせるのはなるべくなら避けたほうがいいと思います」
保険に加入している飼い猫の平均寿命は15年前後ですが、野良猫は一般に5年前後だといいます。野良猫が長く生きられないのは、飢えや感染症、事故、寒さなどの要因がありますが、過酷な環境で生きるストレスも影響していると考えられます。猫にストレスは禁物です。常にのほほんと暮らしてもらえるように、できるだけのことをしてあげたいですね。
◆教えてくれたのは:獣医師・山本昌彦さん

獣医師。アニコム先進医療研究所(本社・東京都新宿区)病院運営部長。東京農工大学獣医学科卒業(獣医内科学研究室)。動物病院、アクサ損害保険勤務を経て、現職へ従事。https://www.anicom-sompo.co.jp/
取材・文/赤坂麻実
●シニア猫ほどリスク高まる「内分泌疾患」 早期で気づくための注意点と予防法