大黒摩季が語る坂井泉水
彼女がメディアに出なかったのは、極度のあがり症だったのが理由の一つだったという。同時に、周りにとっても「土足で踏み荒らしてほしくない聖地」というか、隠したくなる人だったのかもしれない。
5月19日放送の『中居正広の金スマスペシャル』(TBS系)で、大黒摩季さんが出演し、坂井さんとのエピソードを語っていた。徹底管理に置かれていた坂井さんが、脱出を図る際、頼りにしたのが大黒さんだったという。
2人で近所のコンビニにいったり、オープンカフェにいったり。「怒られるのはいつも私なんだけど」という苦笑いも微笑ましくて切なくて、大切な時間だったことが伝わってきた。そして、「(坂井さんを)守ってあげたかった。いつも壊れそうで、真面目で」という言葉がとても印象的だった。
坂井泉水の「飾らない迫力」
ZARDの歌には、「君」という人称が多い。坂井さんが甘い声で好きな人を「君」と呼ぶところに、切ない距離感を感じる。想いが届くかどうかわからない。それでも見守りたい、というような。そんな彼女の願いは、『負けないで』のなかにも出てくる、心はそばにいる、という表現に集約されているのかも。
『揺れる想い』から30周年、デビューから32周年。直接歌う姿はもう見ることができないけれど、その歌は愛され続け、輝きを増している。
時折見る彼女の画像の多くは、Tシャツや無地のシャツにデニム姿が多く、ライブ映像でも、とてもシンプルな服装で、髪もメイクもまったくといっていいほど飾らず。アクセサリーもほとんど着けていない。ただただ、ひたむきに歌っている。
その姿は、あまりにも無防備というか、何も持たずして戦いの最前線にいるようで、儚いけれど、同時に凄まじい強さを感じる。
テレビやメディアの露出がとても少ない彼女だったが、見方を変えれば、こんなにむき出しだったアーティストは、なかなかいないのではないかな、とも思うのだ。
◆ライター・田中稲
1969年生まれ。昭和歌謡・ドラマ、アイドル、世代研究を中心に執筆している。著書に『昭和歌謡 出る単 1008語』(誠文堂新光社)、『そろそろ日本の全世代についてまとめておこうか。』(青月社)がある。大阪の編集プロダクション・オフィステイクオーに所属し、『刑事ドラマ・ミステリーがよくわかる警察入門』(実業之日本社)など多数に執筆参加。他、ネットメディアへの寄稿多数。現在、CREA WEBで「勝手に再ブーム」を連載中。https://twitter.com/ine_tanaka