
眠りの質は起きている日中のパフォーマンスに大きく影響します。それを理解しているからこそ速やかに布団に入るのに、なかなか寝付けない。やっと眠れたのに夜中に起きてしまう……。そんな事態にならないよう「夏の安眠法」を医学博士でヨガインストラクターでもある高尾美穂さんに教えてもらいました。
夏の暑さと更年期、Wで眠りを妨げられる
季節を問わず年々寝つきが悪くなっているとしたら、それは女性特有の理由かもしれません。
「40~50代の女性は、閉経前後の更年期に差し掛かっています。更年期症状の1つに“不眠”や、夜中に目覚めてしまう“中途覚醒”があります。それに拍車をかけて夏の寝苦しさでますます睡眠時間を削られては、寝不足からくる体調不良によって、負のスパイラルに陥ってしまいます。
逆にいえば、しっかりと対策をして睡眠をとることで、夏バテに負けない健康的な生活を得られるのです」(高尾さん・以下同)
夏のイベントの影響も
夏はお盆休みなどで里帰りをしたり、家族や友人と旅行を楽しんだりするかもしれません。非日常のイベントは、実は楽しいだけではありません。
「環境が変わることで、いつもよりも睡眠がとりづらくなる可能性があります。また、気持ちが高ぶっていると交感神経活動が優位になり寝付けなくなったり、眠りが浅くなったりします。その結果、体の疲れが取れず、昼間に眠気が襲い、仕事でミスをしたり、ぼんやりとすごしたりすることになってしまいます」

睡眠環境を見直して睡眠改善を
気象庁は、「1898年の統計開始以来、昨年は2番目に暑い夏だった」と発表しました。今年の夏も、昨年と同じかそれ以上に暑いと予想されています。快眠を得るためには、意識して睡眠環境を整えて“寝る準備”をする必要がありそうです。
「暑いからといって、やみくもにエアコンの温度を下げればいいというわけでもありません。私たちは深部体温が下がったときにスムーズに入眠できるので、体が冷え切っていては逆効果になってしまいます。また、冷房の効き過ぎによって体温調節機能がうまくいかなくなる“冷房病”のリスクもあります。
快適な室温は人や環境によって変わりますが、エアコンの温度を1、2度調整してみる、サーキュレーターを使ってみるなど、自分に合う環境を探してください」

昼食後に眠たくなってない?
寝具やパジャマを変える、照明やアロマを変えるなど、睡眠に関わる道具を見直すのも手かもしれません。
「最適な睡眠時間の目安は7時間半ほどですが、個人差がありますし、同じ人でも年齢で変化します。起きてから眠るまでの活動時間に一度も眠気を感じなければ、充分な睡眠がとれている証拠です。電車に乗るとウトウトする、昼食後に眠たくなるという状態は、当たり前ではなく睡眠時間の不足です。自身の24時間の使いかたを見直して改善しましょう。

眠っている間は意識がないので睡眠はおろそかにされがちですが、健康や日中の作業効率に大きくかかわる大事な時間であることを知っていただきたいですね」
睡眠改善ヨガで快適な眠りに導く
眠気が起きない場合は日常生活を見直してみましょう。ブルーライトは睡眠に悪影響を及ぼすため、寝る1時間前にはスマートフォンの使用を控える。夜は間接照明にする。朝起きたら朝食を食べたり太陽の光を浴びたりして体内時計のズレを修正する。昼間は活発に動いて体が休息を欲しがるようにする……。
聞き覚えがあっても、実行していないものがあるのではないでしょうか。
「睡眠を改善するヨガもあります。未経験者にもおすすめなのが、“ヨガの呼吸法”です。深くゆっくりと呼吸することで、横隔膜にある自律神経を刺激します。横隔膜には自律神経が集中しているため、息を吐く時には副交感神経の働きが高まり、リラックスした状態になっていきます。

椅子に座っていても、仰向けになっていても、どちらでも結構です。4秒かけて息を吸い、6秒かけて息を吐き切ります。吐き切ることがポイントです。可能ならば、吸う時には胸を開いて目線を上げ、吐く時には背中のカーブを丸めるようにして目線を下げます」
5回ほど繰り返すと胸がポカポカしてリラックスしてきます。寝付けない夜にお試しください。
◆教えてくれたのは:医学博士・高尾美穂さん

愛知県出身。イーク表参道副院長。産婦人科専門医。日本スポーツ協会公認スポーツドクター。ヨガ指導者としても女性の健康を支えている。著書に『更年期に効く 美女ヂカラ』(リベラル社)、『大丈夫だよ 女性ホルモンと人生のお話111』(講談社)など多数。https://www.mihotakao.jp/
取材・文/小山内麗香