王道ストーリーなのに、予想を裏切ってくる
一市民であるゴヌが、大手貸金業者という巨悪に立ち向かう王道の勧善懲悪ストーリーながら、その展開はたびたび予想を裏切ってくる。最初に「おお!」と驚くのは、いかにも敵役といった雰囲気で登場するホン・ウジン(イ・サンイ)のキャラクターだ。
ゴヌとウジンは、ボクシングの新人戦で出会う。コロナの影響で、試合は無観客で行われた。ウジンはいかにも血の気が多そうで、人を殴ることや倒すことそのものを楽しんでいる。それに対して、ゴヌは基本に忠実で、スポーツとしてボクシングに向き合っている雰囲気がある。
ゴヌは試合で戦っても遺恨を残さず、強い相手を認める素直さを持っている。試合の後にゴヌに食事に誘われたウジンは、どうして敵と一緒にご飯を食べなければいけないのかと、戸惑いの表情を見せる。このまま反発し合って敵対するのか……と思いきや、兵役で海兵隊に所属していたことなどの共通点を見つけ、態度を一変させる。今度はウジンのほうからグイグイとすごい勢いで距離を縮めていった。あっという間に「アニキ」「親友」と呼び合う仲になる。
借金に困るゴヌに仕事を紹介するため、ウジンは知り合いを何人も訪ねて紹介しようとする。ただの友達や対戦相手にここまでする人はいない。心からゴヌを心配し、助けたいと思っていることがうかがえる。
『ブラッドハウンド』の原作は、Webtoon作品『猟犬たち』。監督は、男性2人の熱い信頼関係を描いた人気映画『ミッドナイト・ランナー』(2017年)のキム・ジュファンだ。
ヒロインらしからぬ冷徹ヒロイン
他にも予想を裏切られる場面がある。ゴヌとウジンは、貸金業のチェ社長(ホ・ジュノ)から、娘のヒョンジュ(キム・セロン)の護衛を頼まれる。ボクサーの男性二人に守られるというとヒロイン的な立場のようだが、ヒョンジュはその枠にハマらないキャラクターだ。
ヒョンジュの護衛中に、ホームレスの老人が暴行を受けて死にかけているのを見たゴヌは、居てもたってもいられずに助けに行く。どうしても人を見捨てられないゴヌに対して、ヒョンジュは知らない人を助ける義理はないと怒り、ゴヌを解雇しようとする。目的のためであれば、ヒョンジュは人を見捨てられる人間なのだ。
これまで一人で戦ってきたヒョンジュにとっては、義理や人情は邪魔なものだったのかもしれない。けれど、正義感が強いゴヌや人懐っこいウジンとともに行動していくうちに、ヒョンジュの考え方も変化する。仏頂面しか見せなかったヒョンジュの表情が、徐々に緩んでいく。