岡田将生の本領が発揮される作品
岡田さんといえば、俳優デビューを果たして間もない頃に、山下監督による青春映画の傑作『天然コケッコー』(2007年)のメインキャストに抜擢され、コメディからサスペンスまで、ありとあらゆる作品に順応しては、エンターテインメント界の最前線を走り続けてきた存在です。そしてその中には宮藤さんが脚本を手がけた作品もあります。そう、今年劇場版も公開される『ゆとりですがなにか』(日本テレビ系)シリーズです。
やはり、監督には監督の方法論があり、脚本家には脚本家のカラーがあるもの。山下監督の作品も宮藤さんの作品も経験したことのある岡田さんは、本作の座長を務める者として申し分ない存在。しかも物語は、“消えた1日”をめぐるミステリアスでユニークなものです。本作は、多様な経験を重ねてきた岡田さんの本領が発揮される作品だと思います。
ハジメ役は岡田将生しか考えられない
ハジメはなかなかにクセのある人物です。ですが、それこそ岡田さんはこれまでに多種多様なクセのあるキャラクターを演じてきました。出演した映画が立て続けに公開された2021年に絞っていえば、『さんかく窓の外側は夜』では除霊師に、『Arc アーク』では不老不死の研究に取り憑かれる男に、国内外で称賛の声を集めた『ドライブ・マイ・カー』では性格に難のある若手俳優を演じ、『CUBE 一度入ったら、最後』では現代社会からはじかれてしまった若者を、そして『聖地X』では口ばかり達者な小説家を演じていました。もちろん、どのキャラクターも多面的であり、ここに記していない一面だって持っています。ただいいたいのは、“岡田将生はクセのあるキャラクターにこそハマる”ということです。
ハジメはいつも一生懸命ですが、周囲よりワンテンポ早いことが原因で空回りしてばかり。それは感情の面でも同じこと。恋をすればすぐに浮き足立ち、1日が消えていることに気づけば困り顔で交番に駆け込みます。そんなどうにも憎めないチャーミングな人物。これを岡田さんは極端なキャラクター化することなく、等身大で演じています。
京都のゆるやかな雰囲気に身を委ねて、豊かな感情を持つハジメを体現する――。これまで挑んできた役によって身につけた各キャラクターの個性を、ごくごく自然に各シーンのハジメの心情に表出させているように感じます。ハジメ役は岡田さんしか考えられないほどです。
早くても遅くても、全然いいのでは?
本作は設定がとてもユニークな作品です。周囲と比べてワンテンポ早い男性とワンテンポ遅い女性が織り成すラブストーリーですから、観ていてクスッとなり、鑑賞後はあたたかな気持ちで満たされることでしょう。
みなさんは周囲と比べて、ワンテンポ早いですか、遅いですか。あるいはもっと早かったり遅かったりするでしょうか。社会の目まぐるしい変化に適応できず、ついつい急ぎ過ぎてしまったり、置いていかれることもあるのではないかと思います。でも、映画館の中で流れる時間は誰にとっても同じです。
早くても遅くても、全然いいのではないかと思います。ただやはり、自分のペースが分からなくなってしまうことは大きな問題。ぜひ映画館に、いまのご自身のペースを確認・調整しに行かれてみてはいかがでしょう。
◆文筆家・折田侑駿
1990年生まれ。映画や演劇、俳優、文学、服飾、酒場など幅広くカバーし、映画の劇場パンフレットに多数寄稿のほか、映画トーク番組「活弁シネマ倶楽部」ではMCを務めている。https://twitter.com/yshun