
ホルモンバランスが変化する更年期には、体のあちこちに変化が生じます。そのひとつがヒゲが濃くなる現象です。ヒゲが濃くなって化粧ノリが悪くなる、周りの人に気づかれたくない、という悩みも生まれます。そこで、薬剤師の藤田佑莉さんから更年期にヒゲが濃くなるメカニズムや対処法、ヒゲが濃くなるのを抑える効果が期待できる食材などを教えてもらいました。
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更年期にヒゲが濃くなるメカニズム
更年期の女性は、女性ホルモンよりも男性ホルモンの作用が優位に働くことがあるため、あごや口周りにヒゲが増え、目立つようになることがあります。
女性ホルモンにはコラーゲンの生成を促進して肌をみずみずしく保つ、体のさまざまな器官をコントロールする自律神経の働きをサポートするといった働きがあり、一方で男性ホルモンは骨格や筋肉量、体毛など、男らしいとされる体を作る機能に働きかけます。
女性ホルモンの分泌量は20代にピークを迎えますが、更年期と呼ばれる一般的に45歳以降には卵巣の機能が低下し、ホルモンバランスの乱れをともないながら徐々に減少していきます。

男性ホルモンも同じように減少しますが、女性ホルモンの減少スピードの方が速いため、男性ホルモンが優位になりやすいのです。こうして男性ホルモンが優位になると、男性ホルモンの作用が体に働き、ヒゲが濃くなるなどの変化があらわれます。
また、卵巣の機能低下のほかにも、食生活の乱れや夜型の生活、過激なダイエットによる急激な体重の変化や栄養不足といった、心身にストレスがかかることも女性ホルモンの乱れや減少を加速させる原因です。
つまり、ヒゲが濃くなる現象を改善するためには、女性ホルモンの乱れを整えたり、減少スピードを緩やかにしたりして、男性ホルモンが優位になりにくい生活を送ることが大切となります。
更年期のヒゲ対策
セルフケアで女性ホルモンの分泌量を増やすことは難しいため、体内の女性ホルモンを増やしたい場合は、更年期障害の治療方法にもなっている「ホルモン補充療法」で人工的に女性ホルモンを投与する必要があります。
一方、女性ホルモンの乱れを整えたり、減少スピードを緩やかにしたりするには、セルフケアで対処が可能な場合もあります。
ストレスをためない
自律神経と女性ホルモンには、自律神経が乱れると女性ホルモンが乱れ、女性ホルモンが乱れると自律神経が乱れるという密接な関係があります。加えて、ストレスは自律神経を乱す原因となるため、ストレスコントロールをすることが、結果として女性ホルモンを乱れにくくすることにもつながります。

自律神経にはアクティブな活動を司る交感神経と、リラックスを司る副交感神経があり、ストレスによって副交感神経がうまく機能しなくなると交感神経が優位となり、自律神経のバランスが崩れてしまいます。
交感神経が高ぶってしまったときは、副交感神経の働きを活性化させる必要がありますが、その方法のひとつが「腹式呼吸」です。深い呼吸をすることで高ぶった交感神経を落ち着かせ、副交感神経が働きだしリラックスへと導きます。以下の手順で腹式呼吸を実践してみましょう。

【1】 仰向けになり、お腹が少しずつへこんでいくのを意識しながら、8秒程度かけて口から息を吐ききる。
【2】 それ以上息を吐き出せなくなったら、今度はお腹を膨らませることを意識しながら、4秒程度かけて鼻から空気を吸う。
【3】 再び、お腹がへこんでいくのを意識しながら、8秒程度かけて口から息を吐ききる。
この動作を5回程度繰り返しましょう。吸う時間よりも、息を吐き出す時間が2倍程度長くなるようにするのがコツです。
なお、空気を吸ったときに肩が大きく上がり、肺が膨らむ感覚が大きい場合は、胸式呼吸になっている可能性があります。空気を吸ったときに、肺よりもお腹が膨らんでいるかどうかを確認しながら行ってみてください。
カフェインの摂りすぎに注意する
カフェインには交感神経の働きを高める作用があるため、コーヒーやエナジードリンクなどを日ごろから摂取する習慣のある人は注意が必要です。
頻繁なカフェインの摂取は体内にカフェインがとどまる時間が長くなり、交感神経が働く時間を長くさせるので自律神経が乱れ、女性ホルモンを乱す原因になる可能性があります。

日本ではカフェインの摂取目安量に明確な規定はないですが、農林水産省が公表しているアメリカの情報(農林水産省「カフェインの過剰摂取について」https://www.maff.go.jp/j/syouan/seisaku/risk_analysis/priority/hazard_chem/caffeine.html)には、健康な大人(妊娠・授乳中の女性を除く)であれば1日400mg以下までなら摂取可とあります。
インスタントコーヒーであれば1日4〜5杯(カフェイン含有量:粉末2gを使用した場合80mg/杯)、エナジードリンクであれば1日2本(カフェイン含有量:36〜150mg/本)までのカフェイン量に抑えましょう。
ヒゲが濃くなってしまったときに摂りたい食材
更年期のヒゲ対策には、「納豆」が効果的です。納豆に豊富に含まれる大豆イソフラボンは植物性エストロゲンとも呼ばれ、女性ホルモンに似た働きをすることが知られています。

ただし、大豆イソフラボンが有効に働くには、腸内細菌の「エクオール産生菌」によって「エクオール」という物質に変換される必要があります。エクオール産生菌はすべての人の腸にいるわけではなく、日本人の保有率は30〜50%といわれています。
さらに、このエクオール産生菌が存在する人でも、その時々の体調によって腸内細菌のバランスが変化するため、大豆イソフラボンを摂取しても効果が感じられない時期もあるのです。
つまり、エクオールを作り出すには、エクオール産生菌が存在しやすい腸内環境を作る必要があります。
そこで大豆製品の中でも、善玉菌を多く含み、腸内で乳酸や酢酸などを生成することで、酸性の環境では生存しにくい悪玉菌を減らす効果が期待できる納豆がおすすめなのです。

ただし、大豆イソフラボンはたくさん摂取すればいいというわけではありません。大豆イソフラボンの1日の摂取量は70〜75mg/日までとされています。そのため、大豆イソフラボンやエクオールサプリメントを服用している人は、食事で摂取する大豆イソフラボンの量に注意しましょう。
なお、食品ごとに含まれる大豆イソフラボンの目安は、100gあたりの平均値として納豆73.5mg、豆腐20.3mg、豆乳24.8mgです。(食品安全委員会「大豆及び大豆イソフラボンに関するQ&A」https://www.fsc.go.jp/sonota/daizu_isoflavone.html)
自分にエクオール産生菌がいるかどうかは、「エクオール検査キット」などで判定が可能です。エクオール産生菌がいなかった場合は、エクオールサプリメントなどを活用するといいでしょう。
ヒゲが濃くなってしまったときに服用したい漢方薬
更年期のヒゲ対策には、漢方薬も選択肢のひとつです。漢方薬に直接的な除毛効果があるわけではありませんが、ヒゲが濃くなる根本原因である女性ホルモンや自律神経の乱れの改善に間接的に働きかけることが期待できます。

一例として、「女性ホルモンのバランスを整える」「血流をよくして自律神経のバランスを整える」「ストレスを和らげて自律神経を整え、睡眠の質を向上する」などの働きをもつ漢方薬を選びます。
更年期のヒゲにおすすめの漢方薬
・加味逍遙散(かみしょうようさん)
血流をよくして、自律神経を整える働きのある漢方薬です。更年期の冷えのぼせや、イライラ、動悸、不眠などに悩む人にも用いられます。
・柴胡加竜骨牡蛎湯(さいこかりゅうこつぼれいとう)
「気」(エネルギー)を巡らせて体にこもった熱を冷ますことで、ストレスを和らげて自律神経を整える働きのある漢方薬です。不安、動悸、不眠、イライラや抑うつなどの神経症などに悩む人にも用いられます。
漢方薬を始めるときの注意点
漢方薬は食事の工夫などでは不調が改善しなかった人でも、効果を感じる場合が多くあります。
ただし、漢方薬はその人の体質に合っていないと、いい効果が見込めないだけでなく、副作用が起こることもあります。自分に合う漢方薬を見つけるために、服用の際は漢方に詳しい医師や薬剤師に相談するのが安心です。
◆教えてくれたのは:薬剤師・藤田佑莉さん

ふじた・ゆうり。薬剤師。北里大学卒業後、産婦人科門前の調剤薬局で働く中で女性特有の不調に悩んでいる方が多いと実感したことから、漢方薬による根本治療の大切さを広めたいと考え「あんしん漢方」(https://www.kamposupport.com/anshin1.0/lp/)で薬剤師としてサポートを行う。