
閉経後の女性に増える傾向がある脂質異常症。健康診断で示されるLDL(悪玉)コレステロールや中性脂肪の数値が不安な人のために、薬剤師の山形ゆかりさんから脂質異常症を予防する生活習慣や食材、漢方薬について教えてもらいました。
血中脂質が多い状態の脂質異常症
脂質異常症は血中脂質の値が基準値から外れた状態を指し、血中LDL(悪玉)コレステロール値が140mg/dL以上、HDL(善玉)コレステロール値が40mg/dL未満、中性脂肪値が空腹時採血で150mg/dL以上・随時採血で175mg/dL以上、Non-HDLコレステロール値(総コレステロール値からHDLコレステロール値を抜いた数値)が170mg/dL以上と定義されています(出典:厚生労働省「脂質異常症を改善するための運動」https://www.e-healthnet.mhlw.go.jp/information/exercise/s-05-003.html)。

自覚症状はほとんどありませんが、血中脂質が多い状態を放置すると動脈硬化のリスクが高まります。動脈効果が重症化すると、心筋梗塞や狭心症、脳梗塞など、重大な疾病のリスクとなります。
50代以降の女性に増える脂質異常症の原因
脂質異常症の原因は、内臓脂肪型肥満、不健康な食生活、アルコールの過剰摂取、喫煙、運動不足、ストレスなど多岐に渡ります。この内臓脂肪型肥満は、50代以降の閉経した女性に増える傾向があります。
女性ホルモンの「エストロゲン」には、内臓脂肪をため込む働きのある「アルデヒド脱水素酵素」を抑える働きがありますが、閉経後にはほとんど分泌されません。
代わりに男性ホルモンの「アンドロゲン」がエストロゲンに変換されますが、その変換率はたったの3%程度です。アンドロゲンには、アルデヒド脱水素酵素の働きを亢進させる作用があるため、閉経後は内臓脂肪がたまりやすくなるというわけです。

脂質異常症、2つの予防方法
脂質異常症を予防するためのポイントを2つ紹介するので、実践してみてください。
運動習慣を持つ
内臓脂肪の代謝には、適度な運動が必要です。
日本動脈硬化学会では、中強度以上の有酸素運動(ウォーキング・速歩・水泳・ジョギングなど)を1日合計30分以上週3回(可能であれば毎日)、または週に150分以上行うこと、生活行動(床掃除や庭仕事など)を増やし、座りっぱなしの生活をできる限り避けることを推奨しています。
まずは、スマートフォンアプリなどを使って、自身の1日の歩数を計測してみましょう。たとえば、計測値が3000歩だった場合、身長が160cmの人では約2km歩行したことになります。分速70mで2kmを歩行すると約30分程度かかるため、1日の目標歩数を3000歩に設定し、これを週に3回以上行うことを実践してみてください。

例えば、利用している駅のひとつ手前で降りたり、エスカレーターではなく階段を利用したりして、意識的に歩行する習慣を取り入れるだけでも歩数を増やすことができます。休日にはショッピングモールや美術館、博物館など空調が整ったところで、楽しみつつ歩行する工夫をすれば継続もしやすいです。
脂質や糖分の多い食事を避ける
運動と併せて食生活の改善も必要です。
それには、LDLコレステロールを増やす「飽和脂肪酸」の過剰摂取や中性脂肪を増やす「高カロリー」の食品は避けましょう。
飽和脂肪酸は肉類や乳製品などに含まれており、とくに肉の脂身やバター、生クリームなどには要注意です。高カロリーな食品には、揚げ物やアルコール、お菓子や砂糖入りの清涼飲料水などがあげられます。

これらを避けるには、食事メニューの置き換えが有効です。たとえば、お肉料理は魚料理に、甘い菓子類はナッツ類や果物など自然由来なものに、アルコールや清涼飲料水はお茶やお水に換えるなど無理なく工夫できることを探してみましょう。
すべてを置き換えるのはストレスがかかるので、お魚料理は週4、お肉料理は週3など魚の比率を増やしてみるなど、できるところから始めてみてください。
脂質異常症対策に有効な食材
脂質異常症を予防するには、LDLコレステロールや中性脂肪を減少させる働きがある「不飽和脂肪酸」が多く含まれる食材が有効です。
不飽和脂肪酸の「DHA」や「EPA」が多く含まれている青魚の中でも、5~9月が旬の「アジ」を食事に取り入れてみてはいかがでしょうか。

DHAやEPAは魚の油に含まれており、火を通す調理方法では流れ出てしまうので、刺身やたたき、なめろうにするのが最適です。
なめろうにする場合は、オリーブオイルを最後にひと回しすると魚の臭みが緩和されたり、不飽和脂肪酸の「オレイン酸」も摂取できたりします。なお、オレイン酸にはLDLコレステロールを低下させ、HDLコレステロールを維持する働きがあります。

脂質異常症の改善には漢方薬も役立つ
脂質異常症には、「漢方薬」を取り入れるのも有効です。漢方薬は根本的な体質改善を得意とするため、運動や食事で変化が感じられなかった人におすすめです。
脂質異常症は内臓脂肪が原因のひとつとして考えられるため、「余分な脂肪を便と一緒に排出する」「脂質代謝を改善する」「血流をよくして代謝をあげる」といった働きの漢方薬を選び、体質の根本改善を目指します。

脂質代謝におすすめの漢方薬
・防風通聖散(ぼうふうつうしょうさん)
体の余分な老廃物の排泄を促すとともに脂肪代謝をよくして、ため込んだ脂肪を減らすのに役立つ漢方薬です。
・大柴胡湯(だいさいことう)
体の余分な熱を取り除き、肝の働きをよくして脂質代謝を改善します。ストレスによる過食やイライラ、便秘などがみられる場合に用いられる漢方薬です。
漢方薬を始める際の注意点
漢方薬は食事の工夫などでは不調が改善しなかった人でも、効果を感じる場合が多くあります。
ただし、漢方薬はその人の体質に合っていないと、よい効果が見込めないだけでなく、副作用が起こることもあります。自分に合う漢方薬を見つけるために、服用の際は漢方に詳しい医師や薬剤師に相談するのが安心です。
◆教えてくれた人:薬剤師・山形ゆかりさん

やまがた・ゆかり。薬剤師、薬膳アドバイザー、フードコーディネーター。病院薬剤師として在勤中、食養生の大切さに気付き薬膳の道へ。牛角・吉野家ほか薬膳レストラン等15社以上のメニュー開発にも携わる。「健康は食から」をモットーに健康・美容情報を発信するMedical Health -メディヘル-youtubeチャンネル(@medicalhealth–7900)で簡単薬膳レシピ動画を公開するなど精力的に活動している。症状・体質に合ったパーソナルな漢方をスマホ一つで相談、症状緩和と根本改善を目指すオンラインAI漢方「あんしん漢方」(https://www.kamposupport.com/anshin1.0/lp/)でも薬剤師としてサポートを行う。