健康・医療

「更年期のフェムテック」はどう進化しているのか?尿漏れ、頻尿、膣の乾燥などを治療やセルフケアで改善する方法【医師監修】

白衣に紫のカーディガンを羽織った関口由紀さん
医師の関口由紀さんが語る「フェムテックの進化」とは?
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女性のライフステージにおける生理や妊活、産後や更年期などのさまざまな課題を解決する製品やサービス、ケアの周知を指す「フェムテック」。大人女性にとっては更年期に関する情報が気になるところ。日々進化しているというフェムテック分野の更年期医療について、日本フェムテック協会の代表理事を務める医師の関口由紀さんに話を聞きました。

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「更年期」と「ポスト更年期」で変わる症状

女性は閉経を迎えると、体にさまざまな症状が現れます。関口さんによると、かつては医療があまり追いついていなかったそうですが、現代は技術が進歩し、医療で解決できることも増えてきたそうです。

医療が更年期症状の治療に追いついてきた現在

50歳前後で閉経とともに起こる更年期障害と、50代半ば過ぎ〜60代の更年期が過ぎた時期を指すポスト更年期の症状について教えてもらいました。

「更年期障害の症状は個人差があり、そこが医師としても難しいと感じるところです。更年期は精神的なことに加えて、女性ホルモンの減少による自律神経の乱れなどによる不調が起こるのですが、そのほとんどは、医療分野で以前は病気として認識されていませんでした。

メンタルや自律神経失調症などをコントロールして、その人のQOLを上げることは医療技術ではなかなか難しいこととされてきました。しかし、HRT(ホルモン補充療法)などの治療が受けられるようになるなど、近年では医療分野も進化してきています」(関口さん・以下同)

そけい部を触っている
ポスト更年期と更年期以降の症状の違いについて解説(Ph/photo AC)
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更年期以降の症状は女性の問題として認識されにくいことも

一方、ポスト更年期では、骨密度の低下や、血管の老化にによって起こる動脈硬化や骨粗鬆症、認知症、フェムゾーン(腟・外陰部・肛門周り)の不調、癌の発生といった5つの問題が起こりやすいと関口さんは言います。これらは治療法があるものの、医師によっては知識不足から、閉経による女性ホルモンの減少で起こることだと判断しないケースもあるといいます。

「ポスト更年期では、特に閉経にともない卵巣の働きが衰え、女性ホルモンの分泌が急激に減少して起こるGSM(閉経関連尿路生殖器症候群)に悩む患者さんが非常に多くなります。閉経して3年ほど経つと、陰部が乾燥して痒みや痛み、頻尿や尿もれなどの症状が起こるんです。セックスのときに痛く感じるということも、GSMの症状。年齢のせいとあきらめず、医師に相談してもいい悩みなんです」]

白衣に紫のカーディガンを羽織った関口由紀さん
GSMの症状は年齢のせいとあきらめず、医師に相談を
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更年期以降向けの最新医療とは?

フェムテックの分野の一つである更年期やポスト更年期の治療。最新の治療はどのようなものがあるのでしょうか?

レーザー治療でフェムゾーンやオーガズムを改善

病院でできるフェムゾーントラブルの治療には、炭酸ガスレーザーやエルビウムヤグレーザーなど腟粘膜の細胞を活性する施術があり、デリケートゾーンのうるおい不足による乾燥や痩せ、尿もれなどの症状を解決できるのだとか。

「レーザー治療は、肌のくすみやシミを目立たなくさせるフェイシャルレーザーや超音波の力でリフトアップを行うハイフといった美容クリニックで行われる施術と同じような技法を用います。しっとりさせたい、ふっくらさせたい、引き締めたいなど、理想の腟に合わせて治療法が選べますよ」

また、ヒアルロン酸を入れてボリュームを出したり、年齢とともに伸びが気になることもある小陰唇を切って小さくすることもできるそうです。

ヒアルロン酸のイメージ
最新の治療にはヒアルロン酸注入なども(Ph/photoAC)
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「尿もれなどのわかりやすい症状だけでなく、オーガズムを向上させてセックスをよりよくしたい人にもレーザー治療が効果的です。オーガズム障害も、病気ではないと思われがちですがQOLの低下という点では尿もれと変わらないと考えていいと思いますし、不調の原因は尿もれと同じところにあり、治療法も実は同様なんです」

骨盤底筋群を治療して尿もれや頻尿の悩みを解決

腟や外陰以外にも、尿もれや頻尿の原因となる骨盤底筋群の衰えの治療も可能なのだそうです。筋肉を刺激し、筋力を高めることで骨盤底筋群を鍛える磁気刺激の機械も、以前より効果がパワーアップしていると関口さんは言います。

「磁気刺激だけでなく、ハイフにもフェムゾーントラブルをターゲットにするものだけでなく、粘膜より下の筋肉層を刺激する、骨盤底筋群に効果的なものがあります。さまざまな女性のトラブル解決を叶える腟エネルギー照射治療種類が出てきています」

更年期以降のトラブル解決ができるセルフケア法

関口さんによると、医療に頼るだけでなく、セルフケアでも更年期以降のトラブル解決が叶うこともあるのだそうです。どんなことがおすすめなのでしょうか。

医師がすすめるフェムゾーンのセルフケア法

セルフケアにおいて、腟周りの保湿とトレーニングが大切だといいます。

「更年期以降はデリケートゾーンのうるおいが減少して痩せてしまい、下着で擦れるなどの痛みが発生することも。どちらの症状も、腟の保湿と健康状態のチェックを欠かさないようにしましょう」

お風呂上がりにデリケートゾーン専用の保湿オイルやローションを用いて「腟マッサージ」を定期的に行うことで、状態の変化に気づくことができると関口さんはいいます。

せっけんや保湿剤のイメージ
デリケートゾーン専用のアイテムも登場している
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やり方は、人差し指の第2関節ほどを腟に入れて、内側を一周するように押し、コリのある部分は優しくマッサージして、内側の血液の巡りを整えるようにほぐします。挿入した指をキュッと締め付けることで、骨盤底筋のトレーニングにもなるそうです。

「骨盤底筋のトレーニングのやり方をすんなりと理解して実践できる女性は半数程度。自分で腟の中に軽く指を入れるとその周囲は骨盤底筋なので、それをギュッと締めて上に持ち上げるという“自主練習”だけでもOKです。それでもやり方のコツがつかめない場合は、看護師、助産師などのプロでこうした分野に詳しい人に教わるとよいでしょう」

更年期以降こそセルフプレジャーや性交渉をすることが大切

そして、腟マッサージだけでなく、セルフプレジャー(マスターベーション)や性交渉をしている人のほうが、痛みや自身の健康状態の異常に気づきやすいのだそうです。

「セルフプレジャーやセックスでオーガズムを感じることは、オキシトシンやドーパミンなど幸福ホルモンの分泌を促進し、脳の活性化にもつながります。さらに、骨盤底筋が収縮することで、尿もれなどの諸症状改善にもよいという見解もあるのです」

白衣に紫のカーディガンを羽織った関口由紀さん
更年期以降もセルフプレジャーや性交渉を推奨する関口さん
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毎日ケアをしても改善されないときは医療機関へ

関口さんは、フェムゾーンのケアも顔のケアと同じだと語ります。

「毎日欠かさず、顔の保湿をしますよね。体も同様に、特に30歳を過ぎたら乾燥しやすくなるので保湿するべきなんです。陰部も全身の保湿クリームでかまいませんので、尿道と腟とその中も軽く保湿して、ギュッと締めて上にグッと持ち上げて、毎日セルフチェックをしておくといいです。さらに骨盤底筋群を動かすトレーニングをして、症状が80%程度でも回復したらOKだと思いましょう」

「顔もセルフケアでは足りなくなったら、レーザーなどのエネルギー照射治療やヒアルロン酸注射などにステップアップしますよね。フェムゾーンも同じ考え方でいいんです」と関口さん。まずはセルフケアを実践して、それでも気になる症状が変わらないようだったら、医療技術に頼るのがよいでしょう。

◆教えてくれたのは:一般社団法人日本フェムテック協会代表理事・関口由紀さん

一般社団法人日本フェムテック協会で代表理事をつとめる医師の関口由紀さん(アタリデータ)
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女性医療クリニックLUNAグループ理事長、(株)フェムゾーンラボ社長、女性泌尿器科医師、医学博士、経営学修士、横浜市立大学客員教授、日本泌尿器科学会専門医、日本東洋医学会専門医、日本性機能学会専門医、日本排尿機能学会専門医。2006年に横浜元町女性医療クリニック・LUNAを開業。2022年に女性のためのインターネットサイト「フェムゾーンラボ」を開設し、『女性のからだの不調の治し方』(徳間書店)など著書も多数。www.luna-clinic.jp

撮影/小山志麻 取材・文/イワイユウ

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