
記憶力が低下したり、判断力が衰えたり、興味や喜びを感じなくなったり…と、老人性うつは認知症と間違われることも多いそうです。その症状が認知症ではなくうつによるものだった場合、食事によって改善することもできると話すのは、『メンタルは食事が9割』(アスコム)の著者で、うつを食事で克服したという精神科医の宮島賢也さん。そこで、老人性うつと脳の働きに有効な栄養素について教えてもらいました。
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記憶力の低下にはレシチンが有効
老人性うつは記憶力の低下や判断力の低下といった認知症と似た症状が現れますが、60代、70代になって発症するため、認知症と間違われることもあります。認知症でなく、老人性うつだった場合、宮島さんは記憶力を回復させる効能がある「レシチン」の摂取をすすめています。
「レシチンとは、大豆、卵黄、小魚、レバー、うなぎなどに多く含まれる成分で、大豆に含まれるレシチンが大豆レシチン、卵黄に含まれるレシチンが卵黄レシチン。由来は違っても、どちらも同じレシチンです」(宮島さん・以下同)
大豆や卵黄から摂取可能なレシチンですが、宮島さんがおすすめするのは大豆食品から摂取すること。

「日本人は、古来このレシチンを食生活で摂取してきました。レシチンを含む豆腐や味噌、納豆などはおなじみの食品です。したがって、レシチンの摂取を心がけたいときは、大豆食品からとるようにするといいでしょう」
記憶にかかわる海馬を働かせる亜鉛
老人性うつ対策に、宮島さんがもう一つおすすめする栄養素が亜鉛です。亜鉛は、記憶にかかわる重要な役割を担う「海馬」を働かせる力をもっているためです。
認知症患者の多くが亜鉛不足
「海馬をしっかり働かせるには、脳内の神経伝達物質がカギとなりますが、亜鉛は神経伝達物質の分泌を促すことがわかってきました。また、亜鉛は保存されている記憶を引き出すときにも必要と言われており、亜鉛が不足してしまうことで記憶への悪影響が出る可能性があります」
不足することで、記憶への悪影響を及ぼす可能性がある亜鉛。実際、認知症の患者の体の状態を調べてみると、多くの人に亜鉛が不足していることが確認されているそうです。
「そもそも、うつの症状を引き起こすのは、脳の機能が低下して、神経細胞の刺激伝達が滞るためとも考えられています。この意味からも、神経伝達物質を作るために必要な亜鉛が重要となるのです。亜鉛が体内に十分にあることで、脳の機能が高まり、精神を安定させ、うつ状態をやわらげるとされています」
亜鉛を効率よくとるなら「生牡蠣にレモン」
亜鉛を最も豊富に含む食品は牡蠣。このほか、大豆、いわし、海藻、レバーにも亜鉛は多く含まれます。

「効率よく亜鉛を吸収するには、ビタミンCやクエン酸と一緒に食べるようにするのがよいとされています。ビタミンCやクエン酸を含む食べ物はレモンです。となると、『生牡蠣にレモンをかけて』という定番の組み合わせが、実は効率よい亜鉛摂取法だったということがわかります。牡蠣を生で食べれば、牡蠣から食品酵素をとることもできます」
DHA・EPAで脳内の血流を改善
さらに、宮島さんが脳を元気にする食べ物としておすすめするのが青魚。いわしやあじ、さば、さんまなどの青魚にはDHA、EPAという不飽和脂肪酸と呼ばれる脂が豊富に含まれ、脳内の血流改善に効果的であるためです。脳の血流がよくなると、うつによって動きが鈍くなっている心と体をほぐしてくれる効果があるそうです。
「もう少し専門的に説明すると、これらの不飽和脂肪酸はオメガ3系の脂で、血液をサラサラにしてくれる働きがあります。同じ動物性脂肪でも、豚や牛の脂は飽和脂肪酸で、血液をドロドロにするだけでなく、血管に溜まって動脈硬化の一因にもなります。
ところが、青魚の脂は血液をサラサラに変えます。しかも、青魚の不飽和脂肪酸には、血管に付着したコレステロールを掃除して、血管をやわらかくする『血管の若返り』効果が証明されています」

同じ動物性脂肪でも、豚や牛の脂なのか、青魚の脂なのかで、まったく違う働きをします。
「さらに、青魚に含まれるDHAは脳細胞の元にもなるといわれています。なぜかというと、脳は水分を除くとその半分は脂質でできており、そのうち4~5%がDHAでできているからです。つまりDHAをとることは、脳細胞を作ることにつながるわけです」
◆教えてくれたのは:精神科医・宮島賢也さん

みやじま・けんや。精神科医・産業医。防衛医科大学校卒業。研修中、うつ病の診断を受ける。自身が7年間抗うつ剤を服用した経験から「薬でうつは治らない」と考え、食生活と考え方、生き方を変え、うつ病を克服。その経験を踏まえ、患者が自ら悩みに気づき、それを解決する手伝いをする方向へと転換。うつの予防と改善へ導き、人間関係を楽にする「メンタルセラピー」を考案する。著書に『メンタルは食事が9割』(アスコム)など。