
気象病の一種に「9月病」と呼ばれる症状があることを知っていますか? 「秋にも5月病のような症状に悩む人が増えていることが、最近注目されはじめています」と話すのは薬剤師の山形ゆかりさん。今から注意しておきたい9月病の症状や原因、対処方法となるストレスコーピングや食事、有効な漢方薬について教えてもらいました。
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集中力低下、疲労感、イライラ…9月病の症状
9月病は、5月病と症状が似ている「気象病」の一種です。集中力や思考力の低下、強い眠気、疲労感、不安感、気分の落ち込み、イライラ、頭痛、腹痛、消化不良など、心と体にさまざまな不調を引き起こします。

9月病は医学用語ではありませんが、悪化すると心身の病気につながることがあるので、適切な対処が必要です。
9月病は自律神経が関係
気圧・温度・天候の変化などに体がうまく順応できずに、自律神経のバランスが乱れることで気象病が起こります。体のさまざまな器官や感情をコントロールする働きがある自律神経を乱す条件がそろっているのが、9月なのです。
自律神経を乱す条件としてはまず、台風による気圧の変化や昼夜の寒暖差、日中の残暑といった気象による影響があげられます。

そのほか、夏休み明けに仕事や生活サイクルが戻せないことによる生活リズムの乱れ、急な部署移動で生じる仕事や人間関係の変化、子供の新学期の影響でバタバタしているなど、環境から受けるストレスも原因となりえます。
強いストレスを受けると、抗ストレスホルモンが過剰分泌され、自律神経のバランスが乱れます。そうなると感情や体の器官を正常に保つことが難しくなり、結果的に心身に不調があらわれるのです。
さらに、夏と比べて日照時間が短くなる秋は、日光を浴びることで分泌される幸せホルモン「セロトニン」が減少することも、気分が落ち込む原因のひとつと考えられています。
「ストレスコーピング」で9月病の症状を緩和する
ストレスコーピングとは、ストレスの原因(ストレッサー)にうまく対処しようとすることです。上手にストレスコーピングを行うことで、ストレスが原因となっている自律神経の乱れを防いで、9月病の症状を緩和することが期待できます。

ストレスコーピングには3つの方法があるので、できそうなものから実践してみましょう。
問題焦点コーピング
ストレッサーに直接働きかけてコントロールすることで、問題の解決を目指す方法が「問題焦点コーピング」です。
たとえば、気圧の変化による頭痛がストレッサーなら、痛みを我慢せずに頭痛薬などで早期に対処しましょう。
仕事がストレッサーなら、有給休暇を取得するのも解決手段のひとつです。予定がないと有給休暇を取りにくいと遠慮する必要はありません。有給休暇は労働者の心身の疲労を回復させ、仕事と生活の調和を図るためにあり、労働基準法で定められた労働者の権利です。

強い眠気や疲労感などの症状があらわれている場合は家事もお休みして、十分な睡眠をとったり、のんびり過ごしたりするなど、ストレッサーを上手にコントロールして心身を癒しましょう。
情動焦点コーピング
ストレッサーに対する考え方や感じ方を変化させることで解決を目指すのが「情動焦点コーピング」という方法です。
たとえば、急な部署移動が決まったときに「仕事を覚え直さないといけない。大変だな」ではなく「スキルアップのチャンスだ。頑張ろう!」と考えてみましょう。
また、「夫が〇〇をしてくれない」と怒りを感じるのは夫に対する期待があって、その期待を裏切られた気持ちがあるからかもしれません。「初めから期待はしない」と考え方を変化させ、逆に自分のためにしてくれたときには感謝するようにしてみましょう。

このように、ネガティブな気持ちを引きずるのではなく、ポジティブに転換することでストレスの軽減が期待できます。
ストレス解消型コーピング
3つめの「ストレス解消型コーピング」は、感じたストレスを発散させることで解決を目指す方法です。ストレスコーピングという言葉を知らなくても、多くの人が日ごろから行っているストレスへの対処法といえます。

好きな食べ物を食べたり、カラオケやスポーツ、趣味を楽しんだり、リラックスできる環境で過ごしたりするなど、自分にとっていちばん効果的なストレス発散方法を見つけましょう。ただし、食べ過ぎやアルコールの飲み過ぎは体に悪影響を及ぼすこともあるので、気をつけましょう。
9月病対策に効果的な食材
さらに、9月病の原因のひとつであるセロトニンの減少をカバーするため、セロトニンの合成に関わる「トリプトファン」や「ビタミンB6」などの栄養素を含む食材を積極的にとりましょう。
トリプトファンからセロトニンを合成するにはビタミンB6が欠かせないため、トリプトファンを含むほうれん草と、ビタミンB6が豊富な鮭を組み合わせた料理がおすすめです。ソテーやクリーム煮など、組み合わせを考えてみましょう。

また、セロトニンは消化管に多く存在するため、腸内環境を良好に保つことも大切です。そこで、おすすめの食材は栗です。
栗に含まれる「食物繊維」は消化吸収されないため、腸内の老廃物の排出や便秘解消を促し、腸内環境を整えるのに役立ちます。米からもトリプトファンを摂ることができるので、栗の炊き込みご飯にして食べるとよいでしょう。

さらに、味噌汁を添えると大豆に含まれるビタミンB6も摂取できるうえに、発酵食品である味噌には善玉菌を増やす効果も期待できます。
9月病改善には漢方薬も役立つ
9月病は、気候や環境の変化による強いストレス、過度な緊張、過労などで乱れた自律神経を整えることが改善のカギです。そのため、「自律神経の乱れを整える」「イライラを鎮める」「落ち込みや不安を軽減する」「消化・吸収機能を改善して体の内側から心と体を元気にする」といった作用のある漢方薬を選びます。

9月病の症状を緩和する漢方薬
・柴胡加竜骨牡蛎湯(さいこかりゅうこつぼれいとう)
動悸や不眠などの症状がある人に向いている漢方薬です。滞ったエネルギーを巡らせて自律神経を整えることで、イライラや抑うつ、不安感などに働きかけます。
・半夏厚朴湯(はんげこうぼくとう)
滞ったエネルギーを巡らせることで精神の緊張を和らげ、イライラや不安、喉のつかえ感などの症状を緩和する漢方薬です。また、胃の働きを整えて消化不良を改善する効果も期待できます。
漢方薬を始める際の注意点
自然由来の生薬によって体に働きかける漢方薬は体質改善を得意としているため、食事の工夫などでは不調が改善しなかった人でも効果を感じる場合が多くあります。
ただし、漢方薬はその人の体質に合っていないと、よい効果が見込めないだけでなく、副作用が起こることもあります。自分に合う漢方薬を見つけるために、服用の際は漢方に詳しい医師や薬剤師に相談するのが安心です。
◆教えてくれた人:薬剤師・山形ゆかりさん

やまがた・ゆかり。薬剤師、薬膳アドバイザー、フードコーディネーター。病院薬剤師として在勤中、食養生の大切さに気付き薬膳の道へ。牛角・吉野家ほか薬膳レストラン等15社以上のメニュー開発にも携わる。「健康は食から」をモットーに健康・美容情報を発信するMedical Health -メディヘル-youtubeチャンネル(@medicalhealth–7900)で簡単薬膳レシピ動画を公開するなど精力的に活動している。症状・体質に合ったパーソナルな漢方をスマホ一つで相談、症状緩和と根本改善を目指すオンラインAI漢方「あんしん漢方」(https://www.kamposupport.com/anshin1.0/lp/)でも薬剤師としてサポートを行う。