
猫を飼っていると、ソファーや壁を爪で傷つけられてしまうことがあります。爪切りなど飼い主さんが爪の手入れをしてあげていても、猫は爪をとぎます。いったい、どんな理由から猫は爪をとぐのでしょうか。猫に爪とぎをやめてもらう手段はあるのでしょうか。獣医師の山本昌彦さんに聞きました。
爪とぎは本能的に出る行動、ストレス発散効果も
猫が爪をとぐ理由は1つではないといいます。山本さんが最初に挙げたのは「本能」でした。
「猫はかつて他の小さな動物を狩って生きてきたので、その狩りに使う大切な武器である爪は、常に手入れを欠かさないという本能があるのだと考えられます。現在、屋内で飼われている猫は、狩りの機会や習慣がない子がほとんどだと思いますが、それでも本能的なものが作用して、爪をとがらせていたいと感じるのかもしれません」(山本さん・以下同)

また、自分の存在をアピールする、なわばりを主張する意味で、爪をとぐこともあるようです。
「マーキングですね。ここは自分の場所だと主張する意味で爪とぎをします。そういうときは、自分を大きく見せたいので、伸び上がって壁や柱などの高い位置でやりがちです。うちで飼っている猫も柱でガシガシするのが大好きですね(笑い)」
イライラしているときにも爪をとぐ
もう一つ、猫が爪をとぐ理由に“ストレス”があります。
「イライラしているときに、スッキリしたくて爪とぎをする猫は結構います。例えば、うちの猫はシャンプーが嫌いなので、身体を洗ってあげると、しばらく休んだあとでおもむろに爪とぎをします。『あ~、嫌だった!』という感じかもしれません」
ストレス発散とまでいかなくとも、猫にとって爪とぎは気分転換やちょっとした感情表現にもなるようです。
「例えば、飼い主さんに構ってほしいとき、『退屈しているよ』と伝えるために爪をとぐことがありますし、一緒に遊んでいてしばらくすると『飽きたから、もうおしまい』のような意味で爪をとぎ始めたりしますね」
“うちの子が好きな爪とぎ”を見つけよう
このように、猫には爪をとぎたい理由が多々あるようです。むやみに爪とぎをやめさせようとするのではなく、爪とぎ用のグッズを用意して、家具や柱、壁への被害を回避しましょう。

「爪とぎができないとなると、それがまた猫にはストレスになるので、気持ちよく爪をとげる場所を作ってあげてください。市販の爪とぎも今はいろいろあります。箱形だったり、壁に貼るタイプだったり、L字形で自立するものだったり。素材も段ボールや布、木などさまざまなので、愛猫が気に入るものを用意してみましょう。飼い主さんが手作りしてもいいと思います」
叱るのはやめて
愛猫がソファーや壁など、傷つけてほしくない場所で爪とぎを始めたときは、どうすればいいでしょうか。
「現場を見つけたら、あわてず騒がず、抱っこして爪とぎを設置した場所まで連れて行きましょう。叱るのはやめてください。猫としては悪いことをしているつもりはないので、叱られてもただストレスに感じるだけ。そんなことで、飼い主さんから猫の心が離れてしまうのは残念です」
さらに、猫が爪とぎをしようとしていた柱や壁に、猫の体長ぐらいまでの爪とぎシートを貼っておくと安心です。
爪とぎは爪とぎ、爪切りは爪切り
猫の爪は薄い層がいくつも重なった構造になっていて、内側から新しい層ができていき、一番外側の層から剥がれていきます。爪とぎで剥がれた外側の爪が室内に落ちているのを、飼い主さんは見かけることがあるかもしれません。このように代謝ができている様子を目にすると、日頃から爪とぎをおこたらない猫なら、爪切りをしなくてもいいのかなと思ってしまいそうですが……。

「それは誤解です。猫は爪を短くしようと思って爪とぎをしているわけではないので、爪の長さが爪とぎによって適正な長さ になるということは期待できません。むしろ武器として役立つように爪の先を尖らせたりしていると思うので、カーテンやじゅうたんなどに爪を引っかけて折ってしまうかもしれません。爪とぎは爪とぎで自由にさせてあげて、爪切りは爪切りで飼い主さんの責任で定期的に行いましょう」
高齢の猫やあまり爪とぎをしない猫の場合には、爪が伸びて肉球に刺さってしまったり、自分で耳などをかいたときに爪が長いせいで傷つけてしまったりすることも。
「成猫の場合で3~4週間に1回、子猫の場合には1~2週間に1回、猫用の爪切りを使って切ってあげてください」
◆教えてくれたのは:獣医師・山本昌彦さん

獣医師。アニコム先進医療研究所(本社・東京都新宿区)病院運営部長。東京農工大学獣医学科卒業(獣医内科学研究室)。動物病院、アクサ損害保険勤務を経て、現職へ従事。https://www.anicom-sompo.co.jp/
取材・文/赤坂麻実
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