
「肥満は万病のもと」と言いますが、それは猫も同じこと。関節への負荷が上がって炎症を起こしたり、糖尿病その他の病気の発症リスクが高まったりします。飼い主さんは愛猫の肥満度をどのようにチェックして対策をするべきでしょうか。獣医師の内山莉音さんに教えていただきました。
猫の肥満はBCSでチェック
肥満かどうかは、見た目だけでは判断がつきません。人間ならBMI(Body Mass Index)=[体重(kg)]÷[身長(m)2]という指標がありますが、猫や犬の場合には、BCS(Body Condition Score)という指標を用います。
内山さんによると「猫は全身を毛に覆われていますし、近年は長毛種も多いので、見た目だけでは肥満の判断は難しいと思います」とのことです。また、「この猫種なら平均体重はこれぐらいだから比べるとうちの子は肥満かも」と思い込むのも禁物だといいます。

「その猫の体格によって適正な体重は変わってきます。体重の絶対値だけでは太っている、痩せているとは判断できないので、愛猫の肥満度が気になるときは、やはりBCSで状態を確認しましょう」(内山さん・以下同じ)
BCSは猫や犬の体型を見た目と触った感じで評価するもの
BCSは猫や犬の体型を、見た目と触った感じで評価するものです。動物病院によって5段階や10段階など分け方が異なりますが、今回は5段階のBCSについて内山先生に解説していただきました。
「5段階では“3”が理想的な体型です。上から見たときに腰に少しくびれがあって、横から見たときに腹部がお尻に向かってゆるやかに吊り上がっている状態。猫の場合はくびれや吊り上がりが犬ほど顕著でなくてOKです。そして、脇腹のあたりを触ってみたときに、ほどよい脂肪の下に肋骨があるのが指に伝わってくる。これが“3”です」
BCSは数字が大きいほど肥満度が高く、“1”と“2”は「痩せ」「やや痩せ」、“4”と“5”は「やや肥満」「肥満」です。肥満になるとあばらのあたりを手でなぞっても肋骨に触れる感覚がありません。上から見ると腰のくびれがなく丸くて、横から見ると脇腹のひだが目立ち、歩くとひだが揺れるのが見えます。
肥満でリスクが上がる糖尿病と関節炎
猫が肥満になった場合に、どんな健康リスクがあるのでしょうか。内山さんは「代表的なのは糖尿病と関節炎」だと言います。BCSが5(肥満)の猫は、3(理想体重)の猫に比べて、糖尿病にかかるリスクが4倍だとされています。

「糖尿病はインスリンの作用が十分ではないために、高血糖の状態が続く病気です。初期症状としては、余分な糖が尿中へ出て行くときに体内の水分を奪うので、脱水状態のようになって多飲多尿になったり、エネルギーが身体に行き渡らないので、食べているのに痩せていくことがあります。重症化すると、明らかに元気がなくなり、下痢や嘔吐といった症状も出ます。最悪の場合、死に至るケースもある怖い病気です」
関節炎は肥満と密接な関係が
関節炎は、体重が増えると、それを支える関節により大きな負荷がかかるので、肥満と密接な関係があります。
「猫はそもそも中高齢で関節炎を発症する子が多いですが、太っていると関節への負荷が大きい分、炎症もよりひどくなりがちです。猫は犬に比べて、自分のケガや病気、体調不良を誰にも悟らせまいとする傾向が強いです。関節炎でも痛いところをかばいながら器用にキャットタワーに登る子もいるので、飼い主さんは注意してみてあげてください」
猫のダイエットは食事の見直しが最も大切
ちょっと太って丸っこい猫も愛くるしいですが、健康のことを考えると、やはり適正な体重管理が大切です。それでは、太ってしまった猫のダイエットは、どのようにすればいいのでしょうか。
「猫のダイエットに最も重要なことは、食事量の見直しです。運動は、体重が増えているときに無理にさせるとケガや関節炎のもとになります。食事の管理に力を入れて、体重を落としていきましょう」
食事量を減らすポイントとして、内山さんは以下の3つを挙げます。
【1】おやつから減らす
おやつから減らすのは、メインの食事からバランスよく栄養を取るという基本に立ち返るという意味があります。

「おやつはなるべく少なく。おやつは別腹のような感覚にしないで、1日にどれぐらいあげているかまず把握して、しっかり1日のカロリー計算に含めてください」
【2】ゆっくり減らす
食事量をゆっくり減らす意図は、猫に「急にゴハンが減った!」というストレスを与えないためです。
「例えば10%減らして1週間様子を見て、体重減少効果を確認しながら、必要なら15%、20%と段階を踏んで減らしていきます。人間でもダイエットはつらいものだと思いますが、猫もそれは同じです。獣医師に処方してもらった療法食や、市販のダイエット用キャットフードなど、食物繊維が豊富でカロリーは抑えたフードに切り替えるのも有効です」
【3】だらだら食いをさせない
フードボウルに常にフードが入っている「置きエサ」方式や、それを猫が一日中ちびちび食べる「だらだら食い」は、ダイエットには不向きです。
「お皿にフードがなくなれば足すような感じだと、飼い主さんも1日にどれぐらいあげたのか把握しづらいですよね。メリハリをつけて1日2回など、決まった量をあげるようにしてください」
体重が落ちたら、運動不足の猫の場合には、身体を動かしたくなるように、狩りを模した遊びなどを多めにしてあげると、健康の維持管理としてはベターです。ただやっぱり、猫の減量は食事制限が第一。飼い主さんも心を鬼にして臨む必要がありそうです。
◆教えてくれたのは:獣医師・内山莉音さん

獣医師。日本獣医生命科学大学卒業(獣医内科学研究室)。動物病院を経て、アニコム損害保険(株)に勤務。現在もアニコムグループの動物病院で臨床に携わる。
取材・文/赤坂麻実