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犬の4頭に1頭が皮膚病? 犬が自分の身体を噛んだり舐めたりしたら…飼い主が注意すべき疾患の種類と対策は?

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飼い主が注意すべき皮膚の疾患の種類と対策は?(Ph/イメージマート)
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犬を飼っているご家庭では、愛犬が後ろ足で首の後ろなどをかく姿、日常的に目にしますよね。しかし、皮膚をかき壊すほど激しかったり、身体を執拗に舐めたり噛んだり、どこかへこすりつけていたりすると心配にもなってきます。犬が身体をかゆがるときは、どのような病気の可能性があるのか、獣医師の内山莉音さんに解説していただきました。

4頭に1頭が皮膚疾患に苦しんでいる

「犬がかゆがって身体をかいたりするのは、よく見かけるしぐさですが、ずっとかゆそうだと飼い主さんとしては気がかりですよね。皮膚が赤くなったりかさぶたになったりする場合には、皮膚疾患の可能性が濃厚です。アニコム損保の保険金請求データによると、家庭で飼育されている犬はおよそ4頭に1頭ぐらいの割合で皮膚病をわずらっています」と内山さんは言います。

アニコムが発行した『家庭どうぶつ白書2023』によれば、同社の保険に加入している犬のうち、24.9%が皮膚疾患で1年間に1回以上、動物病院を受診したのだとか。この請求割合は、消化器疾患(25.1%)に次いで2位。請求割合が特に高い犬種は、フレンチブルドッグ、パグ、シーズー、ゴールデンレトリーバー、ラブラドールレトリーバー、柴犬などです。年齢による偏りは小さく、どの年代でも珍しくない病気です。

「皮膚のかゆみは原因が多岐にわたるので、原因を突き止めて適切に対処することが大切です。アレルギーなら原因物質に触れないことが肝要ですし、ダニなら専用のピンセットや駆虫薬を使用します。細菌性の皮膚疾患なら抗菌薬を塗布したりします」(内山さん、以下同)

犬の“かゆい理由”が多すぎる!

内山さんによれば、犬が皮膚に感じるかゆみの原因は主に以下の5つだといいます。

・ノミやダニなどの寄生虫
・食物やほこり、ダニなどに対するアレルギー
・細菌や真菌、酵母などの感染
・皮膚腫瘍
・ストレスなど心理的な要因

被毛をかき分けて皮膚の状態を見て、異常がなければ、ストレスから来るものの可能性があります。何か小さな生き物が認められるようならノミ、ダニ、シラミなどの感染症が疑われます。

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被毛をかき分けて皮膚の状態を見て(Ph/イメージマート)
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「皮膚に赤みや湿疹が出たりしていて、かつノミやダニではなさそうとなると、各種検査で原因を探っていくことになります。原因が特定できないまでもかゆみを抑えることはできるので、かゆがり方が普段と違うなと感じたら、ひとまず動物病院に連れていってあげてください」

犬の皮膚疾患、多いのは膿皮症

「犬の皮膚疾患で最も多いのは(原因を特定できたものに限れば)、膿皮症/細菌性皮膚炎、次がアレルギー性皮膚炎です」

膿皮症は、皮膚の常在菌のバランスが崩れて一部の細菌が過剰に増殖することで、発疹やかゆみ、脱毛などの症状を引き起こす病気です。

「夏場の高温多湿な時期に多い病気ですが、他の病気で皮膚のバリア機能が落ちたり、ストレスや体調不良で免疫力が低下したりしている場合も細菌感染が起きやすいです。初期には、真ん丸な湿疹がポツポツとできます。かなり特徴的なので、見分けやすいと思います」

表皮や毛包(いわゆる毛根などを取り囲む皮膚下の組織)で細菌感染が起こり、赤い丘疹ができたり、膿(うみ)がたまった白い膿疱(のうほう)ができたりするのだそうです。

「進行すると、フケやかさぶたがドーナツ状に広がったりします。また、罹患して時間が経つと炎症の後にメラニン色素が定着して皮膚がところどころ黒ずんだりもしますね」

外用薬や内服薬を使って細菌の増殖を抑える治療を

動物病院では、外用薬や内服薬を使って細菌の増殖を抑える治療を行います。

「抗菌成分を含む消毒薬を皮膚に塗ったり、内服薬や注射をしたり。薬用シャンプーも併用することがあります。いったん治っても繰り返しかかるような場合は、内分泌疾患やアレルギー疾患などの基礎疾患が背景にある可能性もあるので、検査が必要なこともあります」

鼻の短い犬に多いアレルギー性皮膚炎

膿皮症の次に多いアレルギー性皮膚炎は、犬の免疫システムが特定の物質に過剰反応することで皮膚に炎症を生じる病気です。アレルギー原因物質を吸い込んだり、食べたり、原因物質に皮膚が触れたり、ダニに血を吸われたりして発症します。原因物質となるのは人間と同様にハウスダストや花粉、ノミ、食物などです。

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春先は花粉の可能性も(Ph/イメージマート)
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「これも主な症状は皮膚のかゆみです。食物アレルギーの場合、耳や脇、股、目の周り、口の周り、足先にかゆみが出ることがあります。また、皮膚症状以外に下痢などの消化器症状が出る場合もあります。症状が出やすいのはやはり高温多湿な夏場で、花粉が飛散する3月頃から増えてきます」

保険金請求データによると、短頭種や柴犬に多いようです。決まった時間、場所、シチュエーションでかゆがるなど、かゆみに規則性がある場合はアレルギー性皮膚炎が疑われます。治療法は、アレルギー検査などでアレルゲンを特定して除去することと、抗ヒスタミン剤や副腎皮質ホルモン剤、免疫抑制剤などの投与です。

ハウスダストや花粉、カビが要因のアトピー性皮膚炎

アレルギー性皮膚炎の中で、ハウスダストや花粉、カビなど環境中のアレルゲンに皮膚が触れて炎症が出るのがアトピー性皮膚炎です。

「アトピーも主な症状はかゆみです。遺伝的な素因が関与しているとされ、生後6か月から3歳ぐらいまでの若いうちに発症することが多いです。治療は他のアレルギー性皮膚炎と同様に、アレルゲンを取り除くことと、かゆみを抑える薬を使うこと、そしてスキンケアです。基本的には一生付き合っていく病気なので、変化する症状に合わせて治療を行っていきましょう」

◆教えてくれたのは:獣医師・内山莉音さん

獣医師・内山莉音さん
獣医師・内山莉音さん
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獣医師。日本獣医生命科学大学卒業(獣医内科学研究室)。動物病院を経て、アニコム損害保険(株)に勤務。現在もアニコムグループの動物病院で臨床に携わる。

取材・文/赤坂麻実

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