質のいい睡眠は健康長寿の基本のキ。加齢とともに睡眠の悩みが増大する中、各分野の名だたる医師たちが本当にやっている「寝る前ルーティン」を徹底調査!「寝つきが悪い」「夜中に何度も目が覚める」「眠りが浅い」「朝スッキリ起きられない」―年を重ねるにつれて睡眠の質低下の悩みは大きくなるばかり。OECDの調査報告(2021年)では、世界33か国のうち日本人の睡眠時間は平均7時間22分でワースト1位。睡眠不足が懸念される中、「シニアになれば6時間眠れれば充分」「22時~深夜2時のゴールデンタイムは存在しない」など新たな研究結果が報告されており、“眠りの正解”を探しあぐねる人は多い。
そこで本誌『女性セブン』では内科や婦人科、歯科医、自律神経や予防医学の第一人者、睡眠の専門家など医師13人に「寝る前30分に実践していること」を取材。良質な睡眠のために、彼らはいったい何をしているのか。
名医13人「寝る前30分の習慣」ランキング
以下の13人の医師に実践する習慣を順番に挙げてもらい、1位を10点、2位を9点、3位を8点、4位を7点、5位を6点、6位を5点、7位を4点、8位を3点、9位を2点、10位を1点として集計。11点以上を掲載。
・朝田隆さん(メモリークリニックお茶の水理事長・院長)
・伊賀瀬道也さん(愛媛大学医学部附属病院抗加齢・予防医療センター長)
・石原新菜さん(イシハラクリニック副院長)
・小島理恵さん(小島歯科医院副院長)・小林弘幸さん(順天堂大学医学部教授)
・佐野こころさん(医学博士)
・宋美玄さん(産婦人科医)
・高尾美穂さん(イーク表参道副院長)
・田中亜希子さん(あきこクリニック院長)
・坪田聡さん(雨晴クリニック院長)
・日比野佐和子さん(医療法人康梓会統括院長・SAWAKO CLINIC x YS院長)
・平松類さん(眼科専門医、二本松眼科副院長)
・松村圭子さん(成城松村クリニック院長)
順位/得点/習慣/コメント
1位 60点 ストレッチ
「股関節と肩まわりのストレッチは毎晩の日課。翌朝の目覚めが楽になりスッキリ起きられる」(石原さん)、「深い呼吸をすることにより、緊張した筋肉が緩むことでリラックス効果が得られ、心地よい眠りへ導く」(日比野さん)
2位 34点 スマホをやめる
「強い光が目に入ることで睡眠に大切なメラトニンの分泌が減少してしまう」(伊賀瀬さん)、「スマホのブルーライトが睡眠の質を低下させるので寝る30分前までにやめる」(平松さん)、「寝る前のスマホは脳を興奮させ寝つきが悪くなる」(佐野さん)
2位 34点 パジャマを着る
「お風呂やシャワーの後はリラックスウエアを着て過ごしますが、寝る前には必ずパジャマに着替える」(高尾さん)、「眠りを妨げることのない、体を締めつけないパジャマで寝ると睡眠の質が向上する」(松村さん)
4位 31点 瞑想・マインドフルネス
「明日が楽しみになるようなことや、その日にあったよかったことを思い出しながら眠りにつくと質のいい睡眠になる」(小島さん)、「マインドフルネスは副交感神経を優位にしてリラックス効果を与え、眼圧を下げるという研究もある」(平松さん)
5位 29点 明かりを暗くする
「蛍光灯のような明るい光が目に入らないよう、オレンジ色のライトを基調に手元を照らすような明かりにする」(高尾さん)、「寝心地がいい光の環境を作ることで自律神経を整え、深い眠りにつながる」(伊賀瀬さん)
6位 24点 腹式呼吸
「寝る直前に腹式呼吸をすると、体がほぐれて緊張がゆるむ。仰向けになって目を閉じて、とにかく息を長く吐くことに注力すること」(石原さん)、「副交感神経を優位にする効果があるため、リラックスできる」(佐野さん)
7位 16点 寝酒
「リラックス効果があり寝入りをよくするが、中途覚醒する可能性もあるため体質による」(朝田さん)、「スムーズな入眠のために飲む。睡眠前の糖質摂取は控えた方がいいので、糖質が少ないハイボールなどを選ぶ」(松村さん)
8位 15点 ハーブティーを飲む
「カモミールティーなどリラックス効果の高い、温かいハーブティーを飲むことで安眠効果が期待できる」(佐野さん)、「カフェインが入っていないため入眠を邪魔せず、よく眠れる」(宋さん)
9位 14点 音楽を聴く
「単調なメロディーの繰り返しの中に時々ゆらぎがあるものがいい。川のせせらぎなどの環境音も心が落ちつく」(朝田さん)、「ピアノやクラシックなどを選ぶことが多いが、自分の好きな曲を聴くことでリラックスできる」(宋さん)
10位 13点 トイレをすませる
「夜中にトイレで目が覚めないよう、寝る直前にトイレに行く」(高尾さん)、「尿意による中途覚醒を減らすことにつながる」(坪田さん)
11位 12点 水分補給
「入浴の前後にコップ半分の水を飲み、夜間の脱水を予防する」(伊賀瀬さん)、「翌朝に起きたとき、お通じがよくなるよう白湯を飲む」(小島さん)
キーワードはリラックス効果と適度な疲労
圧倒的な票を集めて1位になったのが「ストレッチ」。睡眠の専門医で雨晴クリニック院長の坪田聡さんも自身の1位に挙げた。
「寝る前にストレッチを行うことで、リラックス効果を得られます。また、血流が改善されて体温下降を促します。人間は体温が下がったときに眠くなるので、スムーズな入眠につながります」
医学博士の佐野こころさんもストレッチを推す。
「ストレッチは副交感神経の働きを活発にして緊張を解きます。激しい動きではなく、無理のないゆったりとした動きでいい」
小島歯科医院副院長で歯ヨガ協会代表理事の小島理恵さんは、歯科医ならではのストレッチを実践。
「お風呂上がりには『歯ヨガ』をするのが習慣です。私が考案したもので、口まわりの筋肉をバランスよく正しく動かすマッサージ。口の中もマッサージして、口だけでなく全身のこわばりをほぐします。唾液も出やすくなって睡眠中の口腔内での菌の繁殖を抑える効果もある。丁寧な歯磨きも必須習慣です」
副交感神経を優位にしてリラックス
4位の「瞑想・マインドフルネス」や6位の「腹式呼吸」なども、緊張をやわらげ、心身ともに穏やかな入眠をもたらすことを目的に習慣にする名医は多い。得られる効果はリラックスだけでないと指摘するのは、医療法人康梓会統括院長でアンチエイジングドクターの日比野佐和子さんだ。
「最近の研究では血圧を下げる、うつ病の軽減、心理的ストレスが軽減されることによる生活習慣病の改善など、さまざまな健康効果が報告されています」
リラックス効果と入眠は関連性が深く、名医たちはさまざまな方法で心身の緊張を解きほぐす。メモリークリニックお茶の水理事長・院長の朝田隆さんは9位に入った「音楽を聴く」ことを自身の2位に挙げた。
「『f分の1ゆらぎ』と呼ばれる、単調な中に時々変調(ゆらぎ)がある音がいいです。波が寄せては返す音などの環境音もおすすめで、私のお気に入りは炭が爆ぜる音です」
アロマの香りに包まれてリラックス
ランク外となったが、ルーティンに「アロマ」を取り入れる名医も。
「その日の気分によって複数種類のアロマオイルを使い分けています。鎖骨や首に塗りながらやさしくマッサージをすると癒され、深い眠りに導いてくれる」(小島さん)
イシハラクリニック副院長の石原新菜さんも続ける。
「目が疲れたと感じたときには目に温湿布(濡らしたフェイスタオルを軽めに絞って電子レンジで1~2分温める)をあてるようにしていますが、その際にアロマを少し垂らすと疲れがとれて眠りに誘われます」
お気に入りの香りに包まれる方法はアロマだけではない。美容外科医であきこクリニック院長の田中亜希子さんの習慣のひとつは「ボディークリーム」だ。「お気に入りのクリームで腕や足の保湿をします。香りがとてもいいので、その香りに包まれていると気持ちよくぐっすり眠れます」
目からの刺激を減らす
寝る前には、脳の活性化を抑えるために目から入る刺激を減らすことも重要となる。日比野さんは自身の1位に「スマホをやめる」と回答した。
「スマホやパソコンから発するブルーライトが睡眠にかかわるメラトニンの分泌を抑制し体内時計に影響する。深い睡眠を妨げ、健康障害をもたらします」
5位の「明かりを暗くする」もまた、目からの刺激を減らすとともに自律神経を整えて副交感神経を優位にする効果が期待される。
「明るい照明をつけたままだと睡眠の質が下がるだけでなく、交感神経が亢進し、心拍数が上がり体が緊張状態となります。また、インスリンの作用も悪くなり血糖値上昇のリスクが高くなるなど体への悪影響も懸念されます。夕方になるにつれて太陽光が弱くなり、オレンジ色の夕焼けが広がるとメラトニンの分泌量が増えるため、照明もオレンジ色にすると眠りにつきやすくなります。昼と夜の光を変えることで自律神経のバランスが整います」(日比野さん)
眼科専門医で二本松眼科病院副院長の平松類さんは「遮光カーテンをしめ」、「アイマスクをする」という徹底ぶり。
「夜間に窓から入る電灯の光や、早朝の光で睡眠の質が下がることを防ぎます。自宅のまわりは騒音がやや気になるので耳栓も。ドライアイ予防のための点眼も必ず行います」(平松さん)
愛媛大学医学部附属病院抗加齢・予防医療センター長の伊賀瀬道也さんは「真っ暗にはしない」と言う。
「真っ暗にしてしまうと逆に寝つけないので、寝る直前に照明を少し落とすか、近くにある照明だけ落として薄明かりのような状態にしています。自分にとって寝心地がいい環境を作ることで自律神経が整い、熟睡につながるのです」
明日の準備が自律神経を整える
自律神経の専門家で順天堂大学医学部教授の小林弘幸さんの寝る前ルーティンは自律神経に特化している。
「寝る前には翌日着る洋服を用意し、かばんの中をチェックして日記を書きます。日記にはその日いちばんよかったこと、いちばん悪かったこと、次の日の目標を書いてその日にあったことを整理する。そして翌日の準備をしておくことで想定外をなくせば、慌てずにすみますから自律神経が乱れません。
スマホは寝る1時間前から見ないようにし、ベッドに入る前には3~4秒かけて鼻から息を吸い、6~8秒かけて口から吐き出すという、1:2の呼吸を3分間やるようにしています」(小林さん)
習慣にして入眠儀式(スリープセレモニー)にする
習慣を「入眠儀式」として、その行為をするだけで脳を睡眠モードに切り替えると言うのは坪田さんだ。
「家族に『おやすみなさい』と声をかけ、パジャマに着替えることを一連の習慣にして入眠儀式(スリープセレモニー)としています。ルーティンの行動をこなすことは緊張をほぐしてリラックスする効果もあり、入眠への相乗効果が期待されます」
眠るという行為を意思を持って行うために、パジャマにしっかりと着替えるという声はほかにもあがった。
「血流をよくする素材が練り込まれた特殊素材でできているパジャマを愛用しています。これを着て寝ると疲れがしっかりとれるんです。習慣ではありませんが、枕も大事なので、専門店で自分に合った枕を選びました」(田中さん)
成城松村クリニック院長の松村圭子さんは、パジャマは睡眠の質を上げるだけでなく眠りを妨げないことも重要になると話す。
「寝返りを妨げることのない、肌触りのいいパジャマに着替えることで、意識をしっかり睡眠に切り替えられます」
石原さんはパジャマに合わせて「腹巻きも必須」だと言う。
「お腹を温めると、体全体が温まってぐっすり眠れます。特に冷え症の人は寝つきが悪く、夜中に目が覚める傾向があるので腹巻きを習慣にすることをおすすめします」(石原さん)
お風呂は早めか直前か
体を温める効果をもたらす入浴も回答に挙がったが、「寝る1時間~90分前にはすませておく」のが圧倒的多数。体温が上がった直後は交感神経が活発になるため、体温が下がり始めて副交感神経が優位になる時間を考えてお風呂に入るといいだろう。早めにすませておいた方がいいものはほかにもある。産婦人科専門医でイーク表参道副院長の高尾美穂さんが言う。
「お腹がすいている状態の方が寝つきがよく、消化の負担も軽減されるので晩ご飯はできるだけ早くすませることを意識しています。また歯磨きも寝る直前にはしない。歯を磨くと目がさえてしまうので寝る1時間前にはすませます」
一方、あえて寝る直前にお風呂に入るという名医も。
「お風呂に入ると体力を消耗するので、体力消費のために10分ほど38~40℃のぬるま湯につかります。洗面器にお湯を張って足湯をするだけでも効果がありますよ」(朝田さん)
産婦人科医の宋美玄さんも直前派。
「体が温まった状態で眠りにつきたいので、お風呂は寝る30分以内に入りたい。あがった後は、顔にシートマスクをして保湿をしたり、マウスピースをつけるのがルーティン。歯の食いしばりが強いので歯を守るため、また安眠のためにマウスピースは必需品です。歯医者さんで歯が削れているなどと指摘されたら使ってみるといいですよ」
寝酒は体質によって個人差
一般的には“禁忌”とされている「寝酒」も7位に入った。
「お酒が好きなので、飲むことでリラックス効果がある。寝る前の過剰な糖質摂取を避けるため、ハイボールなど糖質の少ないお酒を選びます」(松村さん)
人によっては合わないケースもあり、注意は必要だ。
「アルコールにはリラックスや寝入りをよくする効果がある一方で、分解が進むと覚醒を促す効果もあるので眠りが浅くなったり夜中に目が覚めるようならやめた方がいい。私は朝までぐっすり眠れますが、体質によって個人差があります」(朝田さん)
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自分に合う睡眠時間、入眠・目覚めの方法など最適解を探り、名医の習慣にならって試行錯誤しているうちに眠気が訪れるかもしれない。
※女性セブン2024年6月6日号