103万円からの引き上げが検討されていることも話題となっている「年収の壁」。年収の壁が設定された当時より賃金が上がっている今、所得税がかかる基準である年収103万円を超えずに働くのは難しい。しかし、節約アドバイザー・ファイナンシャルプランナーの丸山晴美さんによると、年収の壁を超えて働くことにもメリットがあると話す。詳しく教えてもらった。
* * *
手取りが減る年収の壁
給与にかかる所得税は、例外をのぞき基礎控除48万円、給与所得控除55万円(給与収入が162.5万円まで)を合わせた103万円までが控除の対象となります。これを超えた金額が課税対象となり、手取りから税金が引かれるため、働き損ということが起こります。実際に年収の壁を超えないように働いている人も多いでしょう。
なお住民税(所得割)については、総所得金額等が45万円以下の場合は非課税となりますので、パート収入が100万円以下でほかに所得がない場合は、住民税(所得割)はかかりません。ただし、パート収入が100万円以下であっても、お住まいの市区町村によっては住民税(均等割)がかかる場合があります。
しかし、手取りが減ってしまうことを加味しても、人によっては年収の壁を超えて働くことに十分なメリットを得られる場合があります。
壁には税金の壁、社会保険料の壁、扶養手当の壁の3つの壁が重なりあうことで、ご自身の手取りや夫婦としての世帯の手取りが変わることがわかります。
働き損になるとされるのが「106万円」の壁と「130万円」の壁ですが、これはあくまでも手取りだけの話で、社会保険に加入することで別のメリットも存在します。
社会保険に加入可能
年収の壁を超えて働くことのメリットの1つは、社会保険に加入できること。家族の扶養内で働いている場合、その間の年金分は基礎年金の国民年金のみですが、社会保険に加入すると厚生年金が上乗せされるため、老後に受け取る年金額を増やすことができます。
また、勤務先の社会保険に加入することで傷病手当金の支給対象になるため、業務外の病気やけがで4日以上仕事を休んだ場合の傷病手当金や出産手当金を受けることができます。
社会保険に加入可能な年収の壁は「106万円」と「130万円」
社会保険に加入できる年収の壁は、「106万円」と「130万円」です。「106万円」は、所定労働時間が週20時間以上、1か月の賃金が8万9000円以上、雇用期間(見込み)が2か月以上、厚生年金の対象となる従業員が51人以上の企業に勤務、といった一定の条件を満たしている場合が対象で、それ以外の人は「130万円」がラインとなります。
また、「106万円」の壁に該当しなかった場合でも、「130万円」が社会保険の扶養の範囲から外れるボーダーラインとなり、「130万円」を超えると扶養から外れて、自身で社会保険に加入する必要があります。なお、会社の社会保険に加入しない場合は、自分自身で国民年金や国民健康保険の保険料負担が発生します。
なお、「106万円」の条件の1つである、厚生年金の対象となる従業員数は、以前は「101人以上」でしたが、2024年10月から「51人以上」に引き下げられており、社会保険に加入しやすくなっています。
会社の社会保険に加入した場合の、106万円と130万円の実際の手取りと、130万円を超えて扶養を抜けて自分で国民年金、国民健康保険に加入した場合と129万円で抑えた場合の手取り額を計算してみました。
お住まいの自治体や生命保険料控除など、別途ある場合は実際の金額と異なる場合があるので、あくまでも目安としてどのように働くのかといった参考にしてみてくださいね。
<106万円の壁を超えた場合>(丸山晴美さん試算、以下同)
年齢50歳(介護保険あり)賞与なし
※2024年度の東京都の協会けんぽの標準報酬月額から計算
給与月額 8万9000円(年収106万8000円)
健康保険料 1万190円(折半額5095円)
厚生年金保険料 1万6104円(折半額8052円)
社会保険料合計 2万6294円(折半額1万3147円) 年間31万5528円 (折半額15万7764円)
所得税 0円
住民税(均等割)5000円
税金と社会保険料の合計16万2764円
実際の手取り額 (106万8000円-16万2764円=)90万5236円
<130万円の壁を超えた場合>
年齢50歳(介護保険あり)賞与なし
※2024年度の東京都の協会けんぽの標準報酬月額から計算
給与月額 10万9000円(年収130万8000円)
健康保険料:1万2738円(折半額6369円)
厚生年金保険料:2万130円(折半額1万65円)
社会保険料合計:3万2868円(折半額1万6434円) 年間39万4416円(折半額19万7208円)
所得税 1万3500円/年(130万円-55万円<給与所得控除>-48万円<基礎控除>×5% 以下同)
住民税(所得割・均等割) 3万2000円/年(130万円-55万<給与所得控除>-43万円<基礎控除>×10% 以下同)
税金と社会保険料の合計 24万2708円
実際の手取り額 (130万8000円-24万2708円=)106万5292円
<130万円の壁を超えて扶養を抜け、自身で国民年金と国民健康保険に加入する場合>
パート従業員の年齢が50歳(介護保険あり)賞与なし
給与月額 10万9000円(130万8000円)
国民健康保険料 約12万6000円/年間(東京23区の一般的な金額であり、お住まいの自治体によって異なります)また、国民健康保険料は、前年の所得に対してかかるため、前年に所得が異なる場合は国民健康保険料も異なりますので注意が必要です。
国民年金保険料 1万6980円/月 20万3760円/年(令和6年度)
所得税 1万3500円/年
住民税(所得割・均等割) 3万2000円/年
税金と社会保険料の年間合計 37万5260円
実際の手取り額 (130万8000円-37万5260円=)93万2740円
※同条件で、扶養を抜けずに給与を年間129万円に抑えた場合
社会保険料 0円
所得税 1万3000円
住民税(所得割・均等割) 3万1000円(129万円-55万円<給与所得控除>-43万円<基礎控除>×10%)
合計4万4000円
実際の手取り額 (129万円-4万4000円=)124万6000円
ただし一時的に130万円を超えた場合に2年まで被扶養者でいられるような措置があり、パート・アルバイトの勤務先が従業員100人以下で、パート先の会社が証明した場合という要件がありますが、もし条件にあてはまる場合はパート先に相談してみましょう。
配偶者の扶養から抜けて自分で国民年金、国民健康保険に加入する「130万円」の壁は129万円に抑えた場合に比べて手取り額が30万円以上も変わるため注意が必要であることがわかります。
ただし、扶養から抜けても配偶者特別控除は受けられるため、自分の手取りは少なくても、配偶者の手取りには影響がないといえます。
「150万円」の壁は配偶者の手取に影響
「年収150万円の壁」(給与収入150万円の壁)とは、配偶者特別控除が満額の38万円受けられるかどうかのラインです。
これは、「配偶者特別控除の満額38万円で控除できる配偶者の所得上限額95万円」+「給与所得控除55万円」=150万円という計算になります。
納税者本人の合計所得額900万円以下で配偶者の年収が150万円を超えると、3万円~36万円の範囲で控除額が変動します。ただし、納税者本人の合計所得額が900万円を超えると、26万円(900万円超950万円以下)、13万円(950万円超1000万円以下)と控除額が下がるため、配偶者の年収によっても異なります。
例えば妻が、150万円を超えて働くことで、妻の手取りは増えていくが、夫の手取りが減るということになり、世帯としての収入が減る可能性があるということです。