《元気なシニアが実感した「やめてよかったこと」》節約、資産運用、テレビ、人間関係、下の世代への援助など…「もういい年だからと制約すること」をやめれば、人生が変わる

「健康長寿のためには○○を食べよう」「老後に備えて○○を始めよう」などと、世間にはあらゆる長生き術があふれ、私たちを惑わせる。しかし、何かを食べねば、やらねばと自分を追いつめることが本当に長生きをもたらすだろうか。むしろ“しなくていい”と身軽になることが、最大の元気の秘訣なのではないか──。
そこで、実際に元気を保っているシニアに「やめてよかったこと」を聞いた。健康に関することだけでなく、お金に関すること、普段の生活習慣などにも、「やめてよかったこと」があるという。【前後編の後編。前編から読む】
シニアの節約は命に関わる
兵庫県のFさん(74才)は、10年ほど前から「貯金」をやめたと話す。
「結婚以来40年以上、子供のため、老後のためとがまんして備え続けてきましたが、ふと疲れてしまったんです。60代も半ばを過ぎて“いまが老後じゃないの?”と夫に話しました。好きにお金を使うようになってからは、食費は倍以上になりましたが、体にいいものを食べているからか、この5年間、かぜ一つひいていません。年金もあるし、体が元気だから必要になればいつでも働ける。古希を過ぎたいまが人生でいちばん充実しています」
老後資金の不安に駆られて努力をしすぎて、疲れていないだろうか。介護・暮らしジャーナリストの太田差惠子さんが言う。
「年をとったら、節約を頑張るより、健康を優先して。例えば、電気代がもったいないからとエアコンをつけず、熱中症やヒートショックで倒れては元も子もありません。少しでも安いものを買おうと、雨や雪の日に無理して遠くのスーパーまで出掛けるのもやめましょう。自転車で買い出しに行き、転んで骨折する高齢者は少なくないのです。
自炊にこだわる必要もなく、適度に宅食サービスなどを利用する方が、健康にも、財布にも優しいはず」

保険や資産運用による「老後資産への備え」も、家計や心の負担になるくらいならやめてしまおう。プレ定年専門ファイナンシャルプランナーの三原由紀さんが説明する。
「高齢になるほど保険料が上がるので、それを捻出するために生活が逼迫したり、心理的負担になっているなら、やめてもかまいません。
投資も、楽しめるならいいのですが、減ったらどうしようという不安が大きなストレスになりかねません。また、シニアは口座開設などを電話ですることが多く、聞き間違えやその後の営業電話などで損をしてしまうことも多い」
月5万円の年金だけで暮らす日々を綴ったブログが注目を集めている紫苑さん(73才)は固定電話を解約し、携帯電話だけを使っているという。
「明らかに詐欺とわかる電話や無言電話が増えてきたので解約しました。どんなに私は騙されないと思っていても、相手はプロの詐欺集団ですから、いつ怖い思いをするかわからない。
それから、新聞も取らなくなりました。たまっていくのがストレスになりますし、捨てるのも面倒で。電話は携帯があるし、ニュースはネットで見られるので、まったく不自由していません」(紫苑さん)

都内在住のGさん(68才)はテレビをやめた。
「昔からテレビっ子でしたが、ネットフリックスでドラマ『愛の不時着』にハマって以来、動画サブスクに転換。不要な情報は入ってこないし、これまで知らなかった映画やドキュメンタリーに触れて、知的好奇心が増しているのを感じます」
『ケチじょうずは捨てじょうず』などの著書で、ムダなく快適な生活を紹介するエッセイストの小笠原洋子さん(75才)は、これまで節約と家計管理に血道を上げてきたというが、あることを機に考えが変わった。
「昨年、骨折で入院して、大きなお金が出て行きました。それを機に家計簿をつけるのさえやめたんです。それでも、長年の節約意識は身に染みているので、管理をやめてもムダなものを買うことはありません。数字のストレスから解放されて、もっと早くやめてもよかったかも、と感じています」(小笠原さん)
仕事も夫も親戚も手放していい
日本人の死因トップは、いまも昔も「がん」。その大きな要因の1つが「ストレス」だ。長年連れ添った夫も、ストレスの原因になる。東京都のHさん(64才)は、「夫婦」を卒業した。
「夫は定年後に田舎暮らしを希望しましたが、私は虫も土いじりも大嫌いなので、別居することに。お互いにのびのび好きなことをして暮らしているおかげか一切のストレスがなくなりました。毎日欠かさず電話でその日のことを報告し合っていて、離れているのに、まるで恋人同士の頃のようにラブラブになりました」
「卒婚」でかえって愛情が深まるケースもあるのだ。

「人は愚痴を言えば言うほど、嫌いな気持ちが膨れ上がるもの。一度、夫の愚痴を言うのをやめてみるのもいいでしょう。ただし、ご機嫌を取ったり、かいがいしく夫の世話をしてあげるのも同時にやめていい。その方が、もしものときに夫自身のためにもなるでしょう。
夫婦で同じ寝室で寝るのをやめるのもひとつの手。体感温度は男女で3~5℃ほど違うともいわれているので、“私は寒いのに夫は暑がっている”といったストレスがお互いになくなります」(太田さん)
滋賀県のHさん(74才)はやさしいおばあちゃんでいるのをやめた。
「学資保険の積み立てやお小遣いなど、孫のために随分お金を使ってきましたが、地域でも有名なおバカ高校にしか合格しなかったので、今年で見限ってやめることにしました。本人は“大学には行かない、おれは役者になる”と言っているし、せっかく遊びに来ても、お金を渡すと用は済んだとばかりにすぐ帰ってしまう。やきもきするのも疲れるので、元気でいてくれればそれでいいと思うことにしました」
孫や子供にお金を渡していると、つい口を出したくなってしまうもの。
「下の世代への援助は、自分にそのつもりがなくても、関係が悪化してしまうことがあるものです。“もう○才になったから”“老後のお金を確保したいから”などと理由を伝えて、ほどよいところで身を引くのがいいでしょう。
親戚関係やご近所づきあいも、ストレスを感じるものから手放していい。年賀状をやめる人は増えていますが、お中元やお歳暮は、片方が贈ると延々と続きがち。そんなときは終活の一環でと言えば大丈夫。選ぶ時間やお返しの用意、家計の負担、コスパもタイパもシニアには見合いません」(三原さん)