
いま、「うまく死にたい」という人が増えている。私たちはみな、いつかは命が尽きる日がくる。それはいつなのか、どこでなのかは誰にもわからない。常に生と死の間にいる私たちが思うのは「元気に長生きしたい」ということと同時に、「後悔のないように死にたい」「苦しまずに死にたい」という願いだろう。患者に寄り添い、最期を看取り、いくつもの「死」に触れてきた名医が思う理想の最期と、その迎え方を聞いた。
「ぼくは69才で死ぬ予定」
統合医療SDMクリニック院長の川嶋朗さん(67才)はそう公言して憚らない。
「34才で結婚したので68才まで生きれば、『半生を一緒に過ごした』とワイフに弁明できるからです。死ぬ場所は家でも病院でもいいけど、『いっぱい幸せをありがとう』と家族に告げてから死にたい。ただし69才になっても生きていたら、死ぬ覚悟を持ったまま生き続けるでしょうね」(川嶋さん・以下同)
ToDoリストは順位をつける
あと1年半ほどで死ぬと予告する川嶋さんが考える理想の最期は、「後悔を最小限にして死ぬ」ことだ。
「後悔を最小限にできれば、“もうこの世はいいかな”と踏ん切りがつきます。悔いがゼロになるとは考えにくいけど、やりたいことがまったく手つかずのまま死ぬことは避けたいです」
人生における悔いを最小限にするために川嶋さんが作成したのが、「ToDoリスト」だ。死ぬまでにこれだけはやっておこうと、「やるべきこと」「できること」「やりたいこと」に順位をつけてリスト化した。

「仕事面では、高等教育機関に統合医療の教育現場を設けることがリストの第1位で、これは実現できました。プライベートでは行きたい場所に順位づけしてあり、一昨年にワイフとともにオーロラを見に行きました。子育てはリストの最上位でしたが、子供が自立したので、これは“圏外”になりました」
ToDoリストの実践は「QOD(死の質)」の上昇にもつながるという。
「患者さんにも、やりたいことや行きたいところなどの希望は遠慮せず叶えるべきとすすめています。死ぬ時期を決めてリストの項目をどんどんこなせば、QOL(生活の質)がガンガン上がる。生きる質は死の質につながるので、やりたいことをやればQODもどんどん高まる。あとは苦しまずに死ぬことだけ考えればいいんです」
死を前提にして人生を生き切る
川嶋さんは「理想の死に様」にも思いをはせる。
「老衰による死を理想とする人が多いですが、心身が衰えてできないことが日々増えるのはうれしくなく、老衰は避けたい。ぼくの理想はToDoリストをある程度終えてから、縁側で日なたぼっこをしながらいつの間にか死んでいるという、テレビドラマに出てくるような死に方です」
医師として死を前にした多くの患者と向き合った経験が、川嶋さんの死生観にも影響したという。
「若い頃は死ぬなんて全然考えず、死にたくないと思っていたけど、末期がんの患者さんなどの診療を重ねるうちに、自分の死生観が変わりました。人間は生まれた以上は絶対に死ぬので、死を前提にして人生を生き切ることが大切だと思うようになりました」

理想の最期を迎えるための最初の一歩は「死ぬ覚悟」を決めることだ。
「死ぬ覚悟を持ち、いつ死ぬかあらかじめ想定しておけば、やりたいことを先送りすることがなくQOLとQODが上がり、理想の最期を迎えられる。人間は絶対に死ぬという事実を受け入れて、死ぬ覚悟を持つ自分を作ることができれば、人は幸せになれるんです」
【プロフィール】
川嶋朗/北海道大学医学部卒業。東京女子医科大学勤務を経て、2021年より神奈川歯科大学特任教授に。2022年に神奈川歯科大学大学院統合医療学講座を開設。『終末までの生き方。』など著書多数。
※女性セブン2025年7月31日・8月7日号